医学界新聞

グラフィックレコーディングのはじめかた

連載 岸 智子

2019.12.09

グラフィックレコーディング(通称,グラレコ)とは,セミナーやシンポジウムなどの登壇者の話や,会議での議論の様子を,文字だけではなく,図や絵を用いてリアルタイムに可視化する手法のことです。

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グラフィックレコーディングは,カラフルな色を使って描かれていることが多く,見た目のインパクトが強いので,「絵が苦手だから私にはムリ!」「話していることをその場で絵や図にするなんて難しそう……」と,苦手意識を持って尻込みされる方も少なくありません。

でも,それではもったいない。文字だけで書かれた議事録やノートは無機質で,わくわくした気持ちになることはあまりありませんが,カラフルな色や図を使ってまとめられたグラフィックレコーディングなら,「なんだろう?」と興味を引き,「読んでみよう!」という気持ちにさせることができます。せっかくの「記録」なのだから,自分自身が読み返したくなったり,「読みたい!」と思ってもらえたりするようなものになったら素敵だと思いませんか?

この連載では,図や絵を使って記録するグラフィックレコーディングを行うに当たってのコツや,実際にどんな場面で活用できるのかなど,具体的な実践方法をご紹介していきます。

この質問にいつも私は「新しい形の議事録,ノートの取り方です」とお答えしています。

文字だけではなく,図や絵,色を使って描かれているため,従来の文字が中心の議事録やノートとは見た目がかなり異なります。文章も堅苦しくなく,話し言葉で描かれているものも多いです。

けれども,グラフィックレコーディングの新しさや違いは,見た目だけにとどまらないと私は思っています。通常の議事録であれば,事実を正しく記載することが役割ですので,会議で決議されたこと(=決まったこと)のみが要点を絞って書かれると思います。また,講義におけるノートテイキングでは,先生が板書した内容を正確に書き写すことが求められるはずです。つまり,議事録もノートも「正解」や「事実」のみが記載されています。

この点がグラフィックレコーディングとの大きな違いです。グラフィックレコーディングでは,会議や講演の場でどのような発言があったのか,その言葉はどんな背景(発言者の思いや気持ち)を持って発せられたのかなど,その場で起きていること,すなわち「プロセス」が記録されるのです。

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これがグラフィックレコーディングの最大の特徴であり,新しい価値だと考えます。

文字だけではなく,絵や図,色を使って描く手法には,グラフィックレコーディングの他にもさまざまなものがあります。

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ファシリテーショングラフィックやグラフィックレコーディングは,人々の対話や議論を可視化し,合意形成を促すことに力を発揮します。そもそも会議や話し合いは集団や組織の課題解決の方策を練るために開かれるものですので,議論の内容や方向性,結論を可視化しておくことは,その後の実践の推進力となります。一般的に,ファシリテーショングラフィックやグラフィックレコーディングは,集団や組織の課題解決をめざして導入実践されるケースが多いようです。

絵や図を用いてまとめるスケッチノートは,ファシリテーショングラフィックやグラフィックレコーディングとアウトプットの形が似ていますが,自分のためのツールであることが大きな違いです。

上記にまとめた以外にも絵や図を使ってまとめる手法はさまざまあります。それぞれ細かな定義や使われ方は異なりますが,いずれもその場で起きていることを絵や図を用いながら,表出させていくという点では同じです。絵や図,色を用いて描くことで,言語化しにくい状況や,参加者の感情,頭の中にあるもやもやとした思考を表現することができるのかもしれません。

この連載では,まずは「自分のための記録」(下記イラスト右下部分)から始め,徐々に集団や組織の課題解決に結び付くようなグラフィックレコーディングの活用方法を紹介していきます。

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グラフィックレコーディングはあくまでも「記録」です。その場で起きたこと,自分の気持ちが動いたこと,印象に残ったことを,感じたままに自由に素直に描いてみましょう。もちろん作品ではないので,上手に絵を描く必要もありませんし,構図や色使いにこだわる必要もありません。また,優劣を競うものでもなく,正解やルールもありません。

グラフィックレコーディングは紙とペンさえあれば,いつでも,どこでも始められます。ぜひ,いろいろな場面で取り入れ,実践してみてください。

(つづく)

福岡女子大学社会人学び直しプログラム コーディネーター

小売業,情報サービス企業で会社員として店舗企画,人材開発などの業務に従事する傍ら、産業能率大大学院総合マネジメント研究科を修了。2014年より現職。現在は、グラレコの普及活動や多様な働き方を応援するコミュニティ「キャリアバラエティ」の運営を手掛ける。

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