医学界新聞

寄稿

2019.12.09



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
知っておきたい処置時の鎮静・鎮痛の新知見

【今回の回答者】乗井 達守(米ニューメキシコ大学医学部救急部Assistant Professor)


 不整脈に対し電気刺激を与えて行うカルディオバージョン,歯科治療や消化器内視鏡など,世の中には痛みや不快感を伴う処置が山のようにあります。そのような処置をする際,円滑に処置を行えるよう鎮静薬や鎮痛薬を用いることを処置時の鎮静・鎮痛(Procedural Sedation and Analgesia;PSA)と呼びます。

 本紙3043号(2013年9月16日)でもPSAを紹介しましたが,その後さらに世界中で多くの研究が行われ,重要なガイドラインの改訂が複数ありました。そのため本稿では,PSAを安全かつ効果的に行うための知識のおさらいと,近年の新しい知見を紹介します。


■FAQ1

PSAの適応は強い痛みを伴う処置のときだけでしょうか。

 患者さんが「嫌だな」と感じる処置の際に,意識のレベルを落として処置をしやすくすることをPSAと呼びます。一見,PSAの適応はカルディオバージョンのような強い痛みを伴う処置をイメージする方も多いかもしれません。しかし,それ以外にも適応範囲は広く,小児に対するMRI検査なども一般的な適応です。

 実は,PSAと手術室で行う全身麻酔の間に本質的な違いはなく,これらの差は鎮静の深さだけと言っても過言ではありません。一般的に,少しボンヤリしつつも,呼び掛ければ正常に反応し,呼吸や循環に影響を与えないレベルを浅い鎮静と呼び,その対極として疼痛刺激にも全く反応がない状態が全身麻酔と呼ばれているのです(1, 2)。こうした鎮静の深さはPSAの適応によって求められるレベルが異なり,消化器内視鏡や脱臼整復などでは中等度鎮静を行うことが多いです。一方で,小児患者や痛みを伴う処置によく使用されるケタミンは,この鎮静深度の分類がうまく当てはまりません。そこで,解離性鎮静(dissociative sedation)というカテゴリーを使います。

 よく用いられる鎮静深度の定義(文献1,2をもとに筆者作成)(クリックで拡大)

 表のように,鎮静深度は「連続」しているというのがポイントで,鎮静薬の投与量が多過ぎたり,患者さんの鎮静薬に対する感受性が高かったりすると,中等度鎮静から深い鎮静へ,そして下手をすれば全身麻酔のレベルまで簡単に移行します。救急外来の処置室や内視鏡室で全身麻酔をしたいですか? できれば避けたいですよね。やはり鎮静薬の量には十分気を付ける必要があります。しかし,そうは言っても鎮静が想定より深くなることは頻繁にあります。そのリスクを軽減するために

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