診断エラー減少への解法:医療情報技術の活用(綿貫聡,徳田安春)
連載
2019.11.18
ケースでわかる診断エラー学
「適切に診断できなかったのは,医師の知識不足が原因だ」――果たしてそうだろうか。うまく診断できなかった事例を分析する「診断エラー学」の視点から,診断に影響を及ぼす要因を知り,診断力を向上させる対策を紹介する。
[第11回]診断エラー減少への解法:医療情報技術の活用
綿貫 聡(東京都立多摩総合医療センター救急・総合診療センター医長)
徳田 安春(群星沖縄臨床研修センター長)
(前回よりつづく)
ある日の診療
ある日の外来での出来事である。
「先生,最近AI(人工知能)が進化してますよね。医者よりも診断能力が高かったっていう論文の話をこの前聞いたんです。いっそ,AIが診断するほうが診断エラーが減るんですかね。ぼくらの業務も少しは楽になるかなぁ」とうれしそうに言う研修医Aに対し,私は「本当にそうなのかな? 今現在の医療情報技術について,もう少し一緒に調べてみよう」と促した。
これまで,診断エラーそのものと予防策について述べてきた。今回から2回に分けて,診断エラー減少のための解法として医療情報技術(Health Information Technology;HIT)を紹介する。
その前提として,何気なく普段使うHITについて整理しよう。HITは多様な内容を含んでいる。2006年に『Annals of Internal Medicine』誌に掲載されたシステマティックレビュー1)においては,下記が含まれると定義された。
・医療情報連携基盤(Electronic Health Record;EHR)
・電子オーダーシステム ・臨床決断サポートシステム ・電子化された検査結果/レポート参照システム ・電子化された処方システム ・電子化された患者情報/患者の意思決定サポート ・モバイル通信機器の利用 ・(データのやりとりを伴う)遠隔医療 ・電子化された医療情報のコミュニケーション ・管理活動(アドミニストレーション) ・データ交換のネットワーク ・知識を参照するためのシステム |
また,HITが診断に関して対象とすべき10個のターゲットには次のものが示されている2)。
・情報収集の補助
・組織の協力や情報提示の仕方による,認知(cognition)の支援促進 ・鑑別診断想起の援助 ・診断の重み付けの補助 ・診断に関する検査・計画の賢い選択の補助 ・診断関連情報とガイドラインへのアクセス改善 ・患者の経過と治療への反応について,信頼度の高いフォローアップとアセスメント ・症状がない患者に対して,疾患の早期発見サポート,注意喚起 ・(特に専門家間での)診断に関するコラボレーションの促進 ・診断パフォーマンスについてのフィードバックと洞察の促進 |
これらの目的を達成するためのHITとして診断の領域で近年注目されているのが,AIの活用である。
診断においてAIは人間より優れているのか?
HITの中でもAIは,医療における多分野において,もちろん診断においても大きな役割を果たすことが期待されている。ともするとAIは診断に関連するさまざまな場面で人間の能力を上回り,現在人間が行っている業務を奪っていくとも言われている。いくつかの代表的な論文を見ていこう。
放射線科領域では多数の論文が出ている。例えばNorthwestern Medicine社とGoogle社のAI部門が共同研究3)を出して話題となった。低線量CTでの肺癌スクリーニング検査において,単一のCTスキャン分析でAIは,放射線科医のグループよりも偽陰性を5%減らし(=正しい検出を増やし),偽陽性を11%減らした(=誤った検出を減らした)との結果を示した。以前撮影したCTスキャンを確認できた場合は,放射線科医とAIの診断精度は同等であった。また,2年後のリスク予測については放射線科医に比較して検出予測精度が9.5%高かったとの結果を示している。
病理組織学領域の診断においても,病理医をAIが部分的に上回ったと話題になった研究4)がある。2015~16年に行われたAIを用いた病理組織画像解析の国際コンペティションCAMELYON 16において乳がんの転移検出を129枚の画像についてAIと11人の病理医が行ったところ,2時間の制限が付いた場合はAIの検出率のほうが上回り,3...
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