流行期のインフルエンザ診断
[第1回] ベイズの定理と事前確率の見積もり
連載 名郷 直樹
2019.11.11
流行期のインフルエンザ診断
インフルエンザの季節です。今シーズンもまた,インフルエンザの迅速検査が大量に行われるのでしょう。いくら何でもやり過ぎですが,患者は希望するし,保育園や学校・職場からも依頼されるし,医療機関はもうかるし,という中でそれ以外の要因は無視されがちです。本来は,臨床疫学的なアプローチで判断することが,検査を利用する医師の大きな役割です。その役割を十分果たせるように,インフルエンザの迅速検査の使い方について解説します(全4回連載)。[第1回]ベイズの定理と事前確率の見積もり
名郷 直樹(武蔵国分寺公園クリニック院長)
迅速検査を利用するプロの医師として
医師は検査をどう利用するかのプロです。どういう状況でどんな患者に使用して,その結果,どのような判断をするのか,十分理解して,利用できなければいけません。患者の希望があれば検査をして,陽性なら「インフルエンザです」,陰性なら「インフルエンザではありません」ということなら,隣のおじさんにもできます。医師免許など必要ないでしょう。
プロとしてインフルエンザの迅速検査を使うためには,どうしても理解し,使いこなさなければいけない定理があります。ベイズの定理です。国家試験にも毎年出題され,知識としては知っていても,現実の臨床での利用となると実感がない人も多いでしょう。このベイズの定理を理解し,臨床現場でどう利用するかを,インフルエンザの迅速検査を例にお示ししたいと思います。
ベイズの定理
ベイズの定理をインフルエンザの迅速検査に即して説明すると,検査結果が当たるかどうかは,「検査する前のインフルエンザの可能性」と「検査の正確性」に比例するということです。
検査の正確性に比例するというのは当たり前のことでしょう。迅速検査の正確性が高いほど,陽性の時にインフルエンザの可能性が高くなる,陰性の時にインフルエンザの可能性が低くなるということです。
しかし検査の正確性だけではなく,検査をする前のインフルエンザの確率が高い時も検査後のインフルエンザの可能性が高くなります。流行期にはインフルエンザの可能性が高いと言えばこれも当たり前のことです。
上記を数式で表すと以下のようになります。
オッズとは,確率と対比するとわかりやすいでしょう。
オッズ=インフルエンザ患者/インフルエンザでない患者
つまり検査前のインフルエンザの確率が50/100=50%の時,オッズは50/(100-50)=1となります。オッズというと聞きなれないかもしれませんが,五分五分というのはオッズです。5/5=1ということです。確率は2分の1です。頭髪の七三分けも7/3というオッズです。確率で言うと七十分け=7/10となります(図1)。 ...
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
対談・座談会 2025.06.10
-
#SNS時代の医療機関サバイブ 鍵を握る広報戦略にどう向き合うべきか
鍵を握る広報戦略にどう向き合うべきか対談・座談会 2025.06.10
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
最新の記事
-
#SNS時代の医療機関サバイブ 鍵を握る広報戦略にどう向き合うべきか
鍵を握る広報戦略にどう向き合うべきか対談・座談会 2025.06.10
-
対談・座談会 2025.06.10
-
Sweet Memories
うまくいかない日々も,きっと未来につながっている寄稿 2025.06.10
-
寄稿 2025.06.10
-
複雑化する循環器疾患患者の精神的ケアに欠かせないサイコカーディオロジーの視点
寄稿 2025.06.10
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。