医学界新聞

2019.10.28



スウェーデンにおける心不全看護の姿
第23回日本心不全学会の話題より


Anna Stromberg氏
 第23回日本心不全学会学術集会(大会長=広島大大学院・木原康樹氏)が10月4~6日,「心不全に放つ3本の矢――心臓を診る,人を看る,社会を観る」をテーマに広島国際会議場(広島市)で開催された。本紙では,Anna Stromberg氏による特別講演「Heart failure care with focus on nurse-led clinics, patient education to support self-care and the role of caregivers」(座長=北里大・眞茅みゆき氏)の模様を報告する。

 Anna氏は,スウェーデンのリンショーピング大看護学部教授を務める。これまでに180編以上の論文を執筆し,同大病院循環器内科では看護師主導の心不全外来を開設した。今回,スウェーデンの先進的な取り組みを紹介するため,来日の運びとなった。


 講演冒頭Anna氏は,心不全患者の実情として,医学が進歩しているにもかかわらず依然として予後は不良であり,特に退院後1か月以内における高い死亡率と再入院率があることを紹介した。また同時に,多くの心不全患者は病状の悪化を恐れるあまり,日常における活動を制限してしまうため,介護者への負担が増加する状況にあることも会場と共有。

 種々の課題解決のために氏がスウェーデンで取り組む,①看護師主導の心不全外来の開設・運営,②セルフケアを支援する患者教育体制の構築,③介護者の現状把握について,先進的な事例を報告した。

①看護師主導の心不全外来の開設・運営

 外来開設の目的には退院後の適切なフォローアップの推進が挙げられる。氏が2003年に発表した106人の心不全患者に介入した論文では,看護師主導の心不全外来の意義が検証された(Eur Heart J. 2003[PMID:12788301])。心不全専門看護師が患者の状態を評価し,患者とその家族に社会的支援を含めた患者教育を行ったところ,生存率とセルフケア行動を改善するだけでなく,心血管イベントの発生率,再入院率,入院日数を減少させることがわかった。対象患者を増やし実施された2019年の大規模研究でも同様の有用性が証明され(J Am Heart Assoc. 2019[PMID:31094284]),欧州における看護師主導による心不全外来の導入の加速が見込まれている。

②セルフケアを支援する患者教育体制の構築

 「看護師による患者への教育的介入が必須」と氏が強調したのは,近年,セルフケアの実施が生存率とQOLの向上につながるとの研究結果が相次いで発表されているからだ。こうした背景をもとに氏が取り組むのは,10か国以上の言語に対応した患者,家族向けの情報を発信するウェブサイト「Heart Failure Matters」の運営である。ウェブサイトでは心不全治療の解説もさることながら,治療に正しく向き合ってもらうために,患者が不安視する日常生活での諸問題に対して専門的知見が公開されている。

③介護者の現状把握

 一方で,心不全の病状が悪化した際には安静臥床が推奨されるために,介護者の負担は増大する。氏は,介護者のかかわり方によって患者の状態は大きく左右されるとの報告(Eur J Cardiovasc Nurs. 2008[PMID:17475564])を紹介しながらも,依然として介護者に対する知識面や金銭面などへの支援が少ない状況を指摘。「介護者を対象とした研究は世界的に見ても少ない。日本の看護師たちにもぜひ研究に協力してほしい」と呼び掛けた。

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