診断エラーの予防:多職種チーム(綿貫聡,徳田安春)
連載
2019.08.05
ケースでわかる診断エラー学
「適切に診断できなかったのは,医師の知識不足が原因だ」――果たしてそうだろうか。うまく診断できなかった事例を分析する「診断エラー学」の視点から,診断に影響を及ぼす要因を知り,診断力を向上させる対策を紹介する。
[第8回]診断エラーの予防:多職種チーム
綿貫 聡(東京都立多摩総合医療センター救急・総合診療センター医長)
徳田 安春(群星沖縄臨床研修センター長)
(前回よりつづく)
ある日の診療
○月△日,救急外来での準夜勤終わり際の出来事である。50代の男性が息切れを主訴に救急車で来院。背景に統合失調症があり,最近は少なくなっていたものの以前は頻回に救急外来を受診していた。バイタルサインでは若干の頻呼吸を認め,SpO2も少し低い気がしたが,その他は異常を認めない。身体所見では,胸部聴診上心音・呼吸音は正常で,胸部単純X線写真では肺野は問題ないように見えた。患者に対して若干の陰性感情を抱きつつ,「身体的に問題はないため,ご帰宅ください」と,まだ苦しそうな患者に説明しようとしたところ,放射線部門の診療放射線技師から電話が掛かってきた。「先生,さっきの患者さんですが……」
多職種チームとして診断を行おう
全米医療アカデミーが2015年に発行したレポート『Improving Diagnosis in Health Care』1)では,医師以外の職種に対して診断を改善する観点から求められる役割やアクションについての提案がなされている。古典的には「診断は医師が単独で行うもの」というイメージがあるが,現代においては診断に多職種がかかわりチームとして行うべきという方針である。診断プロセスの中で登場するステークホルダーが協働するモデルとして,特にプライマリ・ケアの場面では図のようなプロセスが提案される。
図 プライマリ・ケアでの診断プロセスにおける診断チームの例(文献1をもとに作成) |
診断エラー減少のために多職種ができることは?
『Improving Diagnosis in Health Care』では多職種向けに具体的な行動方略が示されている。例として,看護師や臨床検査技師,診療放射線技師,薬剤師ができる貢献を見てみよう(表)。
表 多職種が診断エラー減少に果たす役割(文献1を参考に作成)(クリックで拡大) |
◆看護師
まず,診断を改善し,診断エラーを減らすために看護師へのアクションが提言されている。主要項目ごとにまとめ直した表を見てほしい。
日本の現場で看護師がすでに行っている内容が数多く含まれる。さらにもう一歩踏み込んで,診断エラーの学習をチームとして共に行い,診断エラーの低減に関与することが期待される。
◆診療放射線技師・臨床検査技師
診療放射線技師については日本でも表の内容が注目されている。2010年3月の厚労省「チーム医療の推進に関する検討会 報告書」の中で「診療放射線技師の専門性のさらなる活用の観点から(中略)画像診断等における読影の補助や放射線検査等に関する説明・相談を行うことが可能である旨を明確化し,診療放射線技師の活用を促すべき」と明記された。同年4月の厚労省通達(医政発0430第1号医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について)でも同様の内容が述べられた。
施設によっては診療放射線技師の一次読影が盛んに行われ,タスクシフティングへつながっている。例えば筆者(綿貫)が携わる救急外来においても,頭部CTを撮影した直後に出血を診療放射線技師が同定し医師への電話報告を行うことで診療の迅速さが増したり,骨折の見落としを防いだりすることがある。一次読影の有効性を感じることは数多くある。
同様に検体検査室や細菌検査室の臨床検査技師についても検体の質の評価,臨床情報を踏まえた適切な検査評価法の選択,検査結果の評価などにおいて重要な役割を果たす。これにより,検査の偽陰性/偽陽性の低減につながる。
◆薬剤師
表に記載した通り,医師は疾患の原因として薬剤を想起するのは一般的に苦手である。薬剤が原因の場合の疾患スクリプトに対する未習熟が背景にある。その点で,処方内容から臨床推論を構築し,現在の患者の訴えとの因果関係を想起しやすい薬剤師の存在は重要である。
また,薬剤情報の収集は非常に手間のかかる作業であり,医師のみで行っては薬剤情報の収集が不十分になってしまうことも現実には多く認められる。そこで,薬剤師は表の知識に習熟することで臨床現場において診断エラーの低減に関与できると思われる。
今回は多職種の協働によって診断エラーを回避する方法を紹介した。多職種がそれぞれの強みを生かすことで,医師だけでの回避が難しい診断エラーを予防できるだろう。
診療その後
放射線部門の診療放射線技師は「さっきの患者さん,気胸がありそうですけど,具合はその後どうですか?」と電話口で言った。冷や汗をかきつつ単純X線写真を確認すると確かに気胸があった。患者を呼び戻そうとしたところ,看護師の機転で患者さんはすでに診察室に入っていた。「待合室で苦しそうにしていたから,診察室に入ってもらってモニターをつけて,酸素吸入を始めておきました」と言う看護師と,診療放射線技師の尽力のおかげで,患者はその後気胸の診断となり入院した。
今回の学び
・診断プロセス全体では医師以外の関与が大きく,診断エラー低減のため,多職種の関与が重要である。 ・看護師,診療放射線技師,臨床検査技師,薬剤師などの多職種が診断プロセスの中でそれぞれの果たすべき役割で診断エラーの予防に貢献することが求められる。 ・多職種の関与によって,患者情報の収集,ケアの統合,検査の質の担保,薬剤の影響の評価などの向上が期待される。 |
(つづく)
参考文献
1)Balogh EP, et al. Improving Diagnosis in Health Care. National Academies Press;2015.
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
PT(プロトロンビン時間)―APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)(佐守友博)
連載 2011.10.10
-
事例で学ぶくすりの落とし穴
[第7回] 薬物血中濃度モニタリングのタイミング連載 2021.01.25
-
寄稿 2016.03.07
-
人工呼吸器の使いかた(2) 初期設定と人工呼吸器モード(大野博司)
連載 2010.11.08
最新の記事
-
医学界新聞プラス
[第7回]SNS担当者の2大困りごと その2:ネタがない!
SNSで差をつけろ! 医療機関のための「新」広報戦略連載 2024.12.13
-
連載 2024.12.11
-
取材記事 2024.12.11
-
対談・座談会 2024.12.10
-
循環器集中治療がもたらす新たな潮流
日本発のエビデンス創出をめざして対談・座談会 2024.12.10
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。