医学界新聞

連載

2019.07.15



ケースでわかる診断エラー学

「適切に診断できなかったのは,医師の知識不足が原因だ」――果たしてそうだろうか。うまく診断できなかった事例を分析する「診断エラー学」の視点から,診断に影響を及ぼす要因を知り,診断力を向上させる対策を紹介する。

[第7回]診断エラーの予防:患者協働②

綿貫 聡(東京都立多摩総合医療センター救急・総合診療センター医長)
徳田 安春(群星沖縄臨床研修センター長)


前回よりつづく

ある日の診療

 冬場の救急外来に腹痛を主訴に来院した23歳女性。来院当初,心窩部痛と嘔吐が主訴であった。軟便が1回あったが明確な下痢ではなく,救急外来でアセトアミノフェンを投与され症状は軽快した。救急外来の担当医だったAは,「胃腸炎の可能性があります。良くならないようならまた医療機関を受診してください」と廊下に座っていた患者に対して,立ったまま矢継ぎ早に説明を行い,早々に次の診療に向かった。

 説明を受けた患者は救急外来をそのまま立ち去ろうとしていたが,救急外来の会計の壁に「質問し忘れたことはありませんか?」と書いたカードが飾ってあるのを見て,立ち止まった。そんなところに,指導医が通り掛かって声を掛けた。


 前回(第3326号)に続き,患者協働を促すために,さらに医療者が工夫できる事柄と,患者側に主体的にかかわってもらうための具体的な方略について考えてみよう。

医療者―患者コミュニケーションを改善しよう

 まずは,患者と医療者で共通の病状理解を擦り合わせる必要がある。そのための有効な方策としてteach-back technique(復唱法)がある1)。患者に話した内容について,患者から医療者に説明,もしくは図示してもらい,うまくできなければ医療者の説明が不十分であったと考え,説明し直すものである。患者に「今の説明,わかりましたか?」と聞いた際に,仮に患者が「はい」と言っても理解しているとは限らないのである。

 類似の方略に,Ask-Me-3 questionsがある1)。これは,患者側から「一番の問題は何か?」「体調改善のために何をすれば良いか?」「なぜ,それをすることが重要か?」と医療者に逆質問してもらう方略である。

 加えて,医療者と患者とのコミュニケーションを改善させる方略として6つのステップ1)を紹介したい。

・ゆっくり話す
・非専門用語など,簡単な言葉を使う
・絵を見せる,もしくは描く
・提供する情報を絞り,繰り返し伝える
・Teach-back techniqueを使う
・恥をかかせない環境をつくり,質問を促す

 また,患者満足度向上を意識し,接遇までを含んだ方略としてAIDET®2)がある。日本でも,患者対応向上を目的として複数施設で導入されている。

Acknowledge 患者を名前で呼び,あいさつする。アイコンタクトを取り笑顔で家族や友人にも声掛けを行う。
Introduce 自己紹介を行い,技能や保持している資格,診療経験などを伝える。
Duration 診察や検査の手順,待ち時間,所要時間,次の予定などのスケジュールを具体的に伝える。難しい場合には,次に進捗状況を伝えられる時刻を示す。
Explanation 次に何が行われるかを段階的に示し,質問に答える。コン

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