MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2019.06.03
Medical Library 書評・新刊案内
その呼吸器診療 本当に必要ですか?
あるのかないのかエビデンス
倉原 優 著
《評者》長野 宏昭(沖縄県立中部病院呼吸器内科)
悩める日常呼吸器臨床の道筋を照らす良書
本書は,著者の倉原優氏が10年以上地道に取り組んできた呼吸器分野の診療において,それらが過去の研究や論文の結果(エビデンス)に基づくものかどうかを項目ごとに論じた最新書である。「呼吸器一般」「感染症」「閉塞性肺疾患」「間質性肺疾患」「肺がん」の5章に分かれており,それぞれの章ごとに重要な小テーマが取り上げられ,さまざまな角度から解説がなされている。解説は過去の大きなスタディの結果を紹介しながら,その分野にどのようなエビデンスがあるのか,もしくはないのかを丁寧に説明している。時折,著者自身の臨床現場でのプラクティスも紹介されており,そのコメントも示唆に富んでいる。
私たち臨床医は臨床現場で患者を診療するときに,多くの困難な問題,ジレンマに直面する。臨床医は後輩医師や学生,患者の家族に治療方針について説明する際に,判断の根拠となるものが過去の研究や論文の結果に基づくものなのか(EBM),あるいはエビデンスを踏まえつつも臨床医個人の経験や見解に基づくものなのか,をよく熟知しておく必要がある。本書はそれらについて非常に明快に解説してくれている。
本書の素晴らしい点は,第一に,取り上げられている小テーマがいずれも臨床医にとって非常に重要でかつユニークな内容であることだ。テーマは聴診から始まり,検査の解釈,デバイスの利用方法や侵襲的な処置,終末期患者の意思決定と多岐にわたっており興味深い。著者の視線は常に,臨床現場で悩みながらも愚直に患者と向き合っている医師たちに向けられている。これらのテーマは真摯に患者と向き合い,地道に呼吸器診療を行ってきた著者だからこそ生まれてくる良質の疑問と言える。
第二に評価したいのは,本書を支える数多くの参考文献である。EBMの実践に当たって,どの文献を根拠にして行うかは重要であるが,本書の文献は,全ての領域において重要な研究から最新のものまでほぼ網羅されている。著者の情報収集力にはいつも驚嘆させられる。本書を読むと,日本にいながらにして,あたかも世界中の大きな学会に出席しながら旅をしているような気分にさえなる。
また,本書の特記すべきこととして,科学的根拠があるところとないところ,筆者の個人的見解などが一目でわかるようになっている点が挙げられる。これは読者にとって非常にありがたい。
以上の点から,本書は呼吸器診療を担う若手医師はもちろん,中堅スタッフや専門医にも役立つ名著と言える。気になる点をあえて挙げるとすれば,「肺がん」の項目がやや少ない印象を受けたことである。肺がんの診療は日進月歩で進んでおり,多くの医師が知識のアップデートや患者への説明に苦労していると思われる。今後,がんに関するトピックが増えることを期待したい。
最後に,本書が多くの医師に愛読され,日常臨床の道筋を照らす光になってくれることを願う。
A5・頁336 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03672-6


石井 均 編
《評者》寺内 康夫(横浜市大大学院教授・内分泌・糖尿病内科学)
糖尿病診療にジレンマや限界を感じている方に
糖尿病治療薬に関する大規模臨床研究成果が次々と発表され,治療ガイドラインも速やかに進化する現代において,糖尿病であること,糖尿病治療を受け入れることができない患者が少なからず存在することを,多くの臨床医は経験していると思う。本書『実践! 病を引き受けられない糖尿病患者さんのケア』は,雑誌『糖尿病診療マスター』(医学書院)に掲載されてきた論文の中から,“糖尿病患者の心理”をわかりやすく解説したものを石井均先生が厳選して収載したものであり,教科書的なテキストには書かれていない現実的な実践書と言えます。
糖尿病治療の最終目標は健康な人と変わらないQOLの維持,健康な人と変わらない寿命の確保ということを頭では理解していても,目先の血糖・体重の管理を優先した治療を選択することの何と多いことか。そもそも「健康な人と変わらないQOL」って,患者ごとにめざすものが異なるわけで,忙しい診療の中で,医療者はそうした個別医療を実践できているのだろうか。また,できていると思っていても,医療者側が考えた「個別医療」にとどまっていませんか? 「病を引き受けられない糖尿病患者だ」と上から目線で見下すのではなく,同じ目線に立って「糖尿病者」のこころを見立てるようにすることで,「糖尿病者」に寄り添い,人生を共に歩めるようになる。
糖尿病診療にジレンマや限界を感じているあなた,本書をお読みください。医療者が変われば,患者も変わります。
A5・頁240 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03814-0


友利 幸之介,京極 真,竹林 崇 執筆
長山 洋史 執筆協力
《評者》藤本 修平(京大大学院・社会健康医学)
時代を創る使命感を持った療法士に読んでほしい一冊
これからの時代,リハビリテーション医療における意思決定には,臨床現場で創られた実証結果であるエビデンスが求められることは想像に難くない。そのエビデンスとは何か? 臨床および社会で生かすための幅広い研究法エッセンスを学べる書籍が本書である。
本書の構成として小生がとらえた特徴的な点は3つである。1点目は研究デザインの網羅性,2点目はエビデンスの活用法にも触れている実用性(実践性),3点目はマンガを用いた理解へのリーチ性である。
研究デザインを網羅的かつ適切に示した研究法の書籍は,作業療法業界のみならず理学療法業界,リハビリテーション業界でもあまり見かけない。研究はデザインが命である一方で,研究デザインの理解を得ずに研究が進められてきた背景がある。多くの臨床研究者の質があらためて見直されている中,本書の網羅性には公衆衛生学が専門である小生もうなった。例えば,臨床に従事している者は知識が必須である「臨床的に意味のある最小の差」を表すMinimal Clinically Important Difference(MCID)や費用対効果分析の説明のように,主にそれらの専門書でしか見かけないような痒いところにも手が届いているのが印象的であった。
2点目で挙げたエビデンスの活用法については,読者への気遣いが感じられる。これまでの研究法の書籍類は得てして,研究者のための書籍になっていた。当然,内容は難しくとっかかりにくい。他方で,入門書では割愛されている部分も多く,研究への誤解を生んでいた。しかし,何のために研究を行うのか? という原点に立ち返ってみると,臨床で活用されることも目的の一つである。「エビデンスを活用する(Evidence-based Practice)」という視点から本書にたどり着くことで,臨床での活用まで見据えて,エビデンスおよび研究法への理解を進めることができるだろう。
3点目は,いわゆる読者へのリーチ性に配慮したエンタメの導入である。本書の中でも紹介されているが,エビデンスは“つくる・つたえる・つかう”という側面がある。臨床で目の前の患者さんに対峙する際,まずはつたえる・つかうという能力が必要であるが,当然書籍も読者の理解まで踏み込まなければならない。近年,エンタメを用いた行動変容が検証されているが,まさに本書も研究に踏み込む上での“あるある”をマンガに載せ,本論へ誘導しているのが印象的であった。
タラレバではあるが,小生が理学療法士になった10年前,このような書籍があればどれだけ助かったかと現在本書を手に取れる療法士をうらやましく思う。作業療法や理学療法,言語聴覚療法のプレゼンスを高めるためのエビデンス創出,その臨床応用を担う使命を少しでも感じる,もしくは何か今の自分にもどかしさを...
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