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その呼吸器診療 本当に必要ですか?
あるのかないのかエビデンス

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呼吸器領域の日常臨床で、正論だと思われている診療の常識に対し、果たしてその診療は本当に必要なものなのか、ひょっとしたら不要ではないのかといったグレーゾーンの29テーマをピックアップして、著者らしい切り口で論を展開している。エビデンスに基づき、終末期医療など様々な意見が共存するテーマについても現状の知見やデータを提示する。臨床現場で悩める若手呼吸器科医、内科医、ジェネラリストに向け、今後の診療において進むべき道筋を照らす1冊。
倉原 優
発行 2019年01月判型:A5頁:332
ISBN 978-4-260-03672-6
定価 4,620円 (本体4,200円+税)

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 医療には,ベネフィットだけでなくリスクとハームが共存します。外科的肺生検で間質性肺炎の診断をつけようとしても,急性増悪で死亡するリスクがあります。抗がん剤投与中の患者さんが極端な食事指導を受けて,一生トロを食べないと決意することもあります。

 近年,「Choosing Wisely(賢明な選択)」という言葉が流行りました。10年以上前にアメリカで提唱された考えかたですが,日本に入ってきたのはつい最近です。いつもワイズにチューズしているぜ,という医師にとっては耳にタコかもしれませんが,Choosing Wiselyには「科学的なエビデンスがあり,患者さんに害が少なく,また患者さんにとって本当に必要な医療の賢明な選択」という意味が込められています。

 私は,EBM黎明期に研修医をしていたので,エキスパートオピニオンがまだ臨床に半分くらい根付いているなかで育ちました。難治性の喘息発作に対して「喘鳴とれないならラシックス®かませとけ!」と指示されたこともあります。

 そのため「エビデンスはありつつもエキスパートとしてはこう考える」という見解にはそれなりに寛容だと自覚しています。しかし,今の若手医師は,なかなか首を縦に振ってくれません。ここ最近,「それって何かエビデンスがあるんですか?」と若手医師から曇りなき眼(まなこ)で問われることが増えました。

 臨床試験の結論とエキスパートの意見が共存する呼吸器診療のテーマを1つずつ挙げていき,私なりに1つの回答を提示してみました。決して誤解しないでいただきたいのは,私は他者の診療を批判するつもりは毛頭なく,あくまで私自身のなかで自問自答していることを文章化しただけにすぎないということです。満点の回答など存在しないテーマばかりです。見る人が見たら,私なんて赤点かもしれません。

 10年以上がむしゃらに呼吸器内科医をやってきて,教科書に書かれてあったりネットで入手できたりする知見を書くのではなく,Pros/Consのあるテーマに突撃するフェーズと腹をくくりました。

 本書の刊行にあたり,出版に尽力いただいた医学書院の古川貴文氏,北條立人氏に心より感謝申し上げます。装丁デザインを引き受けてくれた,中学・高校のクラスメイトである,テキスタイルデザイナー・アーティストの谷川幸さん(C.a.w Design Studio代表)もありがとう。そしていつも私を支えてくれる,妻の実佳子,長男の直人,次男の恵太にも感謝しています。

 2018年11月
 近畿中央呼吸器センター 内科 倉原 優

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第1章 呼吸器一般
 1.すべての呼吸器疾患の患者さんに対する全力聴診
 2.自然気胸に対する脊髄反射的胸腔ドレナージ
 3.気管支鏡後の発熱に対する盲目的抗菌薬
 4.とにかくネーザルハイフローに頼ること
 5.人工呼吸器装着意思決定の患者サイドへの丸投げ
 6.電子たばこによる禁煙
 7.非呼吸器疾患を合併する呼吸器疾患患者さんの6分間歩行試験

第2章 感染症
 8.患者満足度向上のためのかぜ症候群に対する抗菌薬
 9.市中肺炎の全例に非定型病原体をカバーする
 10.市中肺炎をみたときクラミドフィラを鑑別の上位に入れること
 11.排菌陰性化から1年時点での非結核性抗酸菌症の治療終了
 12.とりあえずアスペルギルス抗体
 13.CRP測定とクリアカット思想
 14.高齢者に対するインターフェロンγ遊離アッセイ

第3章 閉塞性肺疾患
 15.高額な喘息治療
 16.吸入指導ができない医師の吸入薬処方
 17.超高齢者の吸入治療
 18.盲目的トリプル吸入療法
 19.喘息発作/COPD増悪時の全身性ステロイド漸減

第4章 間質性肺疾患
 20.外科的肺生検でしか診断がつけられない呼吸器疾患に対する気管支鏡
 21.慢性間質性肺疾患に対する盲目的プレドニゾロン+免疫抑制剤
 22.特発性肺線維症の超厳格な診断
 23.間質性陰影のある患者さんに対する絨毯爆撃的自己抗体採血
 24.高齢者の間質性肺疾患を積極的に診断する
 25.慢性好酸球性肺炎に対する長期ステロイド治療
 26.慢性過敏性肺炎における疑わしき抗原の全回避

第5章 肺がん
 27.好中球減少時の生もの禁止
 28.終末期がん患者の血糖測定とインスリン
 29.肺がんの維持療法を永遠に続ける

column
 気管支鏡をするとどのくらいの頻度で気胸になるのか?
 加熱式たばこを友人にためしてもらった
 ギネスブック級の6分間歩行距離
 亜鉛トローチがかぜ症候群に効く!?
 消えない血痰
 非結核性抗酸菌(NTM)はどこからやってくる?
 Rosenbergの診断基準
 抗インターフェロンγ自己抗体
 ネコを剃毛したら喘息が治った
 咳が出る咳止め
 Caplan症候群

索引

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悩める日常呼吸器臨床の道筋を照らす良書
書評者: 長野 宏昭 (沖縄県立中部病院呼吸器内科)
 本書は,著者の倉原優氏が10年以上地道に取り組んできた呼吸器分野の診療において,それらが過去の研究や論文の結果(エビデンス)に基づくものかどうかを項目ごとに論じた最新書である。「呼吸器一般」,「感染症」,「閉塞性肺疾患」,「間質性肺疾患」,「肺がん」の5章に分かれており,それぞれの章ごとに重要な小テーマが取り上げられ,さまざまな角度から解説がなされている。解説は過去の大きなスタディの結果を紹介しながら,その分野にどのようなエビデンスがあるのか,もしくはないのかを丁寧に説明している。時折,著者自身の臨床現場でのプラクティスも紹介されており,そのコメントも示唆に富んでいる。

 私たち臨床医は臨床現場で患者を診療するときに,多くの困難な問題,ジレンマに直面する。臨床医は後輩医師や学生,患者の家族に治療方針について説明する際に,判断の根拠となるものが過去の研究や論文の結果に基づくものなのか(EBM),あるいはエビデンスを踏まえつつも臨床医個人の経験や見解に基づくものなのか,をよく熟知しておく必要がある。本書はそれらについて非常に明快に解説してくれている。

 本書の素晴らしい点は,第一に,取り上げられている小テーマがいずれも臨床医にとって非常に重要でかつユニークな内容であることだ。テーマは聴診から始まり,検査の解釈,デバイスの利用方法や侵襲的な処置,終末期患者の意思決定と多岐に渡っており興味深い。著者の視線は常に,臨床現場で悩みながらも愚直に患者と向きあっている医師たちに向けられている。これらのテーマは真摯に患者と向きあい,地道に呼吸器診療を行ってきた著者だからこそ生まれてくる良質の疑問といえる。

 第二に評価したいのは,本書を支える数多くの参考文献である。EBMの実践に当たって,どの文献を根拠にして行うかは重要であるが,本書の文献は,全ての領域において重要な研究から最新のものまでほぼ網羅されている。著者の情報収集力にはいつも驚嘆させられる。本書を読むと,日本に居ながらにして,あたかも世界中の大きな学会に出席しながら旅をしているような気分にさえなる。

 また,本書の特記すべきこととして,科学的根拠があるところとないところ,筆者の個人的見解などが一目でわかるようになっている点が挙げられる。これは読者にとって非常にありがたい。

 以上の点から,本書は呼吸器診療を担う若手医師はもちろん,中堅スタッフや専門医にも役立つ名著といえる。気になる点をあえて挙げるとすれば,「肺がん」の項目がやや少ない印象を受けたことである。肺がんの診療は日進月歩で進んでおり,多くの医師が知識のアップデートや患者への説明に苦労していると思われる。今後,がんに関するトピックが増えることを期待したい。

 最後に,本書が多くの医師に愛読され,日常臨床の道筋を照らす光になってくれることを願う。
エビデンスがあるのか,ないのか,どうしたらいいのか? 呼吸器内科の現在(いま)がここにある!
書評者: 大藤 貴 (国立国際医療研究センター国府台病院呼吸器内科)
 「それってエビデンスがあるんですか?」
 上級医とのコミュニケーションや,カンファレンスにおいて,誰もが言われたことがある言葉ではないだろうか。そして,誰しもその言葉にネガティブな印象を持っている。何となく「根拠のない治療をしている」とか,「こんなことも知らないのか」と言われたような気分になるからである。

 科学としての医療に「エビデンス」は欠かせない。われわれ医師が医療で決断をする場合,科学的根拠があるか,ロジックは矛盾していないか,常に考え続けなければならない。医師として働いていく上で,どこまでわかっているか,どこからはわからないか,を常にアップデートしていく必要がある。

 本書の著者は有名なブログ「呼吸器内科医」の倉原優先生である。彼のブログにはいつも最新の情報が掲載されつづけている。私もそのブログの読者になり,はや10年が経過した。この長い期間,少しずつ積み重なった知識は想像も及ばない。その膨大な知識で,呼吸器内科の全般に及ぶ分野に切り込んだのが本書である。どこまでわかっているのか,わかっていないのか,そして今,どうすればいいのか。まさに呼吸器内科のカッティングエッジである。最先端であり,かつ意見も分かれてくる領域を扱っている。

 内容は「すべての呼吸器疾患患者に全力聴診が必要なのか?」という項目から始まる。すぐに引き込まれて,最後の項目まで夢中で読んでしまった。同意するところが多数あるが,自分ではこうかもしれないと思うところもあった。読んでいくうちに,あらためて自分自身の知識とプラクティスを見直す体験をした。これこそが本書の醍醐味であると考える。

 全ての項目についてお勧めできるが,特に参考になったのは「間質性陰影のある患者さんに対するじゅうたん爆撃的自己抗体採血」である。全ての呼吸器内科医が昔から,そして将来も考え,悩み続けている項目ではないだろうか。同じグループに所属していると,他の施設のプラクティスはわからない。こういう考えもあるのか,こうしているのかと参考になった。そして,同じ場面で今後は自分ならどうしようか,と考えた。

 私は本書を「現場で働く呼吸器内科医」全てにお勧めする。いつか読むのではない,この本の知識が古くならない今,手にとって読んでいただきたい1)。生きた知識がここにある。

 なお,本書の162ページには,倉原先生の著作物で登場する「吸入薬戦国時代」という言葉のルーツが記載されています。確かに,当時私が息子と「仮面ライダー鎧武」を見ていて,「時は! 吸入薬戦国時代!」と天啓を得たことから生まれたパワーワードです。やられましたね,とりあえず私もパクられ続けていくと美味しいのでこのままよろしくお願いします。でも東映さんにごめんなさいをしないといけないと思います! え,僕がですか??

文献
1)林修.いつやるか? 今でしょ!―今すぐできる45の自分改造術!.宝島社;2014.

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