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実践! 病を引き受けられない糖尿病患者さんのケア

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多くの糖尿病患者は、「治らない」「あまり症状が出ない」ことからなかなか治療へのモチベーションを保てない。そして、このような患者(病を引き受けられない患者さん)の心理を理解することは必須であるが難しい。そこで本書では、『糖尿病診療マスター』誌に掲載された論文の中から実際の“糖尿病患者の心理”を分かりやすく解説したものを厳選して収載。教科書的なテキストには書かれていない現実的な実践書としてまとめた。
編集 石井 均
発行 2019年02月判型:A5頁:236
ISBN 978-4-260-03814-0
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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まえがき

 『実践! 病を引き受けられない糖尿病患者さんのケア』が発刊される.これは雑誌『糖尿病診療マスター』(医学書院)に掲載されてきた論文を基にしている.その創刊のことばには,「糖尿病患者に向き合う医療者には,まさにサイエンスとアートの両面にわたる総合的な診療能力が求められます.……(中略)……糖尿病の治療や療養指導がより効果的なものになるよう研鑽を積む場となれば幸いです」と記されており,当初より症例検討を重視していた.
 そのような基本方針に基づいて,同誌では「糖尿病患者の心理と行動」に関する特集テーマが定期的に組まれた.当初は,患者の心理・行動に焦点を当てていた.2005年に心理学者河合隼雄先生との対談が掲載されたが,そのなかで,「もっと医療者-患者関係を重視すべきだ」という提案と,「医療学」という概念が紹介された.
 患者がどう考えどう行動するかだけではなく,医療者がどう考え,どう対応したか,そこにどのような相互作用が生まれ,お互いがどう変わっていったか――医療においてはそれが重要だということである.
 その経過を一例一例しっかりと議論することで,人間関係のアートを学ぶことができる.また,多数の経験を積むことにより,そこに共通する要素を見出すこともできるだろう.実際,いくつかの理論も存在する.それらを体系化することによって,一つの学問――糖尿病医療学――ができるはずである.2007年からは「糖尿病医療学入門」の連載が始まった.
 このような流れのなかで,多くの先生方から,糖尿病診療に関わる患者と医療者の態度や大切な要素(食事,運動,薬物など)に関する論文をお書きいただいた.それらを章立てしてまとめたのがこの書籍である.読み返してみると,本当に多くの知恵が集積されていることをあらためて認識した.また,糖尿病内科のみならず,小児科,心療内科,精神科,看護師,臨床心理士など幅広い領域の方にお書きいただいている.
 なお,本書のタイトル『病を引き受けられない……』は,対談集『病を引き受けられない人々のケア――聴く力,続ける力,待つ力』(医学書院,2015年)から引き継いだものである.引き受けがたいものを引き受け,立ち直り,人生を再構築していく,その過程をともに過ごすという医療者の決意を示すものである.
 本書を通読されることによって,糖尿病医療学の目指すところ,理論と実践について理解していただけることと確信している.それが日常診療の力になり,医療者-患者関係を深め,糖尿病を介して両者がともに成長していくことを願っている.

 2019年1月
 石井 均

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まえがき

第1章 病を引き受けられない糖尿病患者さん
 糖尿病という病を引き受けるということ
 糖尿病者のこころを見立てる
 治療を中断してしまう患者の思い
 医療者が変われば,患者も変わる
 [コラム]病を引き受けられない人々のケア─聴く力,続ける力,待つ力

第2章 〔ケース別〕診療現場で支える糖尿病患者の“こころ”
 [座談会]糖尿病の壁─何を聞き出し,いかに伝える
 「食事療法はいりません」と言う糖尿病歴30年の患者
 SGLT2阻害薬が行動変容のきっかけとなった患者
 インスリン注射を拒否する患者
 自己管理できない患者─セルフケアツール利用の落とし穴
 他科へのコンサルテーションを拒む患者
 透析導入で「どうしていいかわからない」と挫折する患者
 1型糖尿病の女子中学生
 [コラム]簡単にわかったような気になる言葉こそが難しい

第3章 “こころ”を支えるために役立つ知識とツール
 糖尿病者の“こころ”を支えるということ
 アドヒアランス─医療者の提案が実行に結び付くために
 心理療法─その人を理解「していく」ことで起こる変化
 変化ステージモデル─時間の経過のなかで起こる変化の過程
 コーチング─その人が望むところまで送り届ける
 症例検討会─当事者だけでは気付きにくい視点がある
 医療学研究会─患者と関わるためのヒントが見つかる
 [コラム]糖尿病に処する道

第4章 症例検討―患者も医療者も支える物語
 [症例1]「無理」「できない」「困っていない」と言い続ける40代男性
 [コラム]糖尿病─症例検討の意義
 [症例2]水分制限できない透析患者と途方に暮れるスタッフ
 [コラム]思い出すことなど

第5章 明日から病を引き受けられるわけではないけれども……
 それが糖尿病医療学
 日常診療における糖尿病医療学の実践
 医学と患者と医療者をつなぎ,支える
 [コラム]「科学の知」と「臨床の知」

あとがき
さくいん

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糖尿病診療にジレンマや限界を感じている方に
書評者: 寺内 康夫 (横浜市大大学院教授・分子内分泌・糖尿病内科学)
 糖尿病治療薬に関する大規模臨床研究成果が次々と発表され,治療ガイドラインも速やかに進化する現代において,糖尿病であること,糖尿病治療を受け入れることができない患者が少なからず存在することを,多くの臨床医は経験していると思う。本書『実践! 病を引き受けられない糖尿病患者さんのケア』は,雑誌『糖尿病診療マスター』(医学書院)に掲載されてきた論文の中から,“糖尿病患者の心理”をわかりやすく解説したものを石井均先生が厳選して収載したものであり,教科書的なテキストには書かれていない現実的な実践書と言えます。

 糖尿病治療の最終目標は健康な人と変わらないQOLの維持,健康な人と変わらない寿命の確保ということを頭では理解していても,目先の血糖・体重の管理を優先した治療を選択することの何と多いことか。そもそも「健康な人と変わらないQOL」って,患者ごとにめざすものが異なるわけで,忙しい診療の中で,医療者はそうした個別医療を実践できているのだろうか。また,できていると思っていても,医療者側が考えた「個別医療」にとどまっていませんか? 「病を引き受けられない糖尿病患者だ」と上から目線で見下すのではなく,同じ目線に立って「糖尿病者」のこころを見立てるようにすることで,「糖尿病者」に寄り添い,人生を共に歩めるようになる。

 糖尿病診療にジレンマや限界を感じているあなた,本書をお読みください。医療者が変われば,患者も変わります。
医学の進歩とエビデンスをどう伝え,活かし,支援するか
書評者: 細井 雅之 (大阪市立総合医療センター糖尿病内科部長)
 皆さまは「インスリン注射は絶対に嫌です」「もう歳だから,糖尿病治療はいらないです」「以前から,糖尿病の薬を出されているけれど,実は飲んでいないです」といった,糖尿病患者さんに出会ったことはないでしょうか? がん治療や心筋梗塞治療では起こりそうにないことが,糖尿病治療ではよくあるのです。なぜでしょうか? どうすればいいのでしょうか?

 こういった疑問を解いてくれるのが,この書物です。石井均先生は,日本で「糖尿病医療学」という新しい学問体系を樹立され,「日本糖尿病医療学学会」を設立された先駆者です。

 皆さまは糖尿病医療学をご存知でしょうか? 「医療経済学」ではありません。「糖尿病をもつ一人ひとりと医療者との関係のあり方を学んでいく学問」です。科学と技術に支えられた医学の進歩とエビデンスを,一人ひとりの病める人にどう伝えるか,どう活かせるか,どう支援できるかが大きな課題です。「サイエンスとアート」が必要です。医学の教科書には「インスリン注射を嫌がる人にはこうしなさい」といったことは書かれてはいません。この本は,「マニュアル本」ではありませんので,正解そのものは書かれていません。目の前の「糖尿病を引き受けられない」かたと,私たち医療者との関係の持ち方についての「アート」が書かれています。ぜひ,糖尿病医療学の入門書としてもお読みください。

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