ケア移行,ケア連携,ケア統合がなぜ重要なのか?(小坂鎮太郎,松村真司)
連載
2018.11.12
スマートなケア移行で行こう!
Let's start smart Transition of Care!
医療の分業化と細分化が進み,一人の患者に複数のケア提供者,療養の場がかかわることが一般的になっています。本連載では,ケア移行(Transition of Care)を安全かつ効率的に進めるための工夫を実践的に紹介します。
[第1回]ケア移行,ケア連携,ケア統合がなぜ重要なのか?
小坂 鎮太郎(練馬光が丘病院総合診療科,救急・集中治療科)
松村 真司(松村医院院長/東京医療センター臨床疫学研究室研究員)
近年,高齢化と医療技術の高度化に伴い,疾病は慢性化・複雑化の一途をたどっています。これに対応すべく医療・保健・介護職の分業化も進み,そのケア内容の細分化も進んでいます。昨今では一人の患者に複数のサービス提供者がかかわることが一般的になり,その間の連携を調整・統合し,重複や無駄を減らしながら治療に当たることは医師の重要な役割と見なされています1, 2)。
このような背景から院内・院外を問わず,連携をいかに安全・効率的に行うかは重要な課題です。病院外との連携では,主として診療情報提供書を通じた情報交換がこれまで行われてきました。しかし,入院期間の短縮に伴い,早期からの集中した入退院支援が求められるようになっています。診療報酬上の後押しもあり,多くの急性期病院には退院支援室・在宅療養支援室など,専任部署による連携が行われるようになっています。しかし,これらの支援や体制の改善に伴って,担当医の負担が増しているのもまた事実です。
解決のためには,遠隔医療やAI(人工知能)の導入をはじめとしたさまざまな工夫が必要と思われます。しかし,それと並行して,基礎となるコミュニケーションやマネジメントについてのノンテクニカルスキル(Non-Technical Skills)を見直すことも必要です。私たちはケアの連続性を保つためにどのような工夫が必要なのか,特にケア移行,ケア連携,そしてケア統合といった観点から活動を続けてきました。本連載ではこれらについて体系的に学ぶことが少ない研修医向けに,外来や病棟で出会うケースをもとに,実践的に伝えていきたいと思います。
ケア移行とは?
ケア移行(Transition of Care)とは,療養場所の変化に伴って短期間で集中的に行われるケア・プロセスのことです。これまでさまざまな定義が提案されていますが3, 4),米国の政府関連の保健医療の質評価・研究機関であるAHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality)は「継続的な加療を要する患者が,医療サービスを受ける医療機関や療養の場が移行し,ケア提供者が変わること」という定義を用いています。
もちろん,ケア移行の代表的な場は,病院・診療所・介護施設間などの施設間ですが,院内における救急を含む外来から入院に至る際や,一般病棟や手術室,ICUの移動といった転床・転棟,主治医/担当医交代による引き継ぎなどの場面もケア移行に含まれると考えます。具体的には,外来受診を経て入院後,一般病棟やICUでケアを受け,回復期施設を経て自宅などの療養環境に帰るという一連の流れのそれぞれに,ケア移行の場があります(図1)。
図1 患者の旅路(Patient Journey)におけるケア移行の俯瞰と質改善のためのキーワード(筆者作成)(クリックで拡大) |
これらの場面で,医師から多職種への指示簿,カルテ記載やプレゼンテーション,情報共有のカンファレンス・回診,場所や時間が変わる際のサインアウト(申し送り),患者教育のための療養計画書/帰宅指示書や退院サマリー・診療情報提供書といったコミュニケーションツール,また,Team STEPPS(Team Strategies and Tools to Enhance Performance and Patient Safety)のようなチーム医療を組織で推進する戦略手法をうまく用いる...
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