MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.11.05
Medical Library 書評・新刊案内
荒木 秀明 著
《評者》原 清和(札幌第一病院リハビリテーション科課長)
非特異的腰痛の“不明な原因”を減らす一冊
腰痛は多くの人々が経験するもので,本邦では男性で1番目,女性で肩こりに次いで2番目に,訴えの多い症状です(厚労省「平成28年国民生活基礎調査の概況」より)。その腰痛の中でも,原因が特定できるものは15%であり,残りの85%は原因が特定できない「非特異的腰痛」と呼ばれ,心理・社会的要素を考慮することが必要とされてきました。
それに対して本書は,「日本人における原因不明の非特異的腰痛は20%である」という一文から始まります。このことは,腰痛疾患への対応をライフワークとし,中でも非特異的腰痛の解明に尽くされてきた著者・荒木秀明氏が最も述べたかったことであり,本書の結論となるべきものかもしれません。
非特異的腰痛を減らすために,荒木氏は「骨盤・脊柱の正中化」という評価手技を提唱しています。そのため本書ではまず,骨盤・脊柱の構造的な非対称性と,それに対する機能的な非対称性との相違や原因,それらによって生じる問題について,豊富な文献をもとに検証しています。
続いて正中化する理由や,自動運動と圧痛所見に着目した評価法,そこから導き出された結果の分類から手技を用いる際の鑑別フローチャートまで,順を追って解説することで理解しやすいものとなっています。特に手技の解説では,写真を豊富に用いており,またケーススタディを通して実際の臨床場面でどう使用するかが非常にイメージしやすい構成となっています。
エビデンスの重要性がうたわれてから久しいですが,荒木氏は以前からその重要性を認識していました。その一貫した姿勢は,本書でも変わりません。
また,かねて諸外国の進んだ知識と技術の習得に熱心でしたが,ただそれらを受け入れるのではなく,オリジナルとして本邦から発信できるものにしなくてはならないと話していました。本書で紹介している手技からもそのことがうかがえ,荒木氏がたゆまずにその道を進んでいることをあらためて実感しました。
豊富な臨床経験と確かな技術,そしてエビデンスに基づいた評価法に裏打ちされた本書は,これから非特異的腰痛について学ぼうと考えている方,あるいはその対応に苦慮している方,また徒手療法に興味がある方など多くの方々にとって,価値ある一冊となるでしょう。
本書を読んで,“原因不明”とされる非特異的腰痛の“不明な原因”を減らすために役立てていただくことを希望します。
B5・頁144 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03552-1
洛和会音羽病院 救命救急センター・京都ER 編
宮前 伸啓 責任編集
荒 隆紀 執筆
《評者》佐藤 信宏(新潟市民病院救急科医長)
「山椒は小粒でもぴりりと辛い」は,小さくても才能や力量が優れていて侮れないことを例えることわざです。『京都ERポケットブック』はまさにそのものです。
ポケットに入る大きさにもかかわらず,主訴別アプローチ,診断の参考になるclinical prediction ruleに加えて,ABC-VOMITアプローチ,問診の大動脈AORTAやTUNA FISHなど数多くのmnemonic(このmnemonicが何を意味するのか気になる方は,ぜひ手に取ってみてください)など膨大な内容が収まっています。各情報に参考文献も載っていて,ただのマニュアル本でもありません。しかも,カラー,図表が多く,読みやすい!
主訴別アプローチ編では,ERでの時間の流れを意識した構成になっており,救急搬送前のチェックポイント,診療開始後すぐにやるべきことがリストとしてまとまり,非常に実践的です。頭痛,けいれんなどの項目では,原因疾患の頻度をグラフで示していて,医師だけでなく,看護師や救急隊にも役立つと思われます。また,研修医が普段疑問に思うようなことをQ&Aとして取り上げています。例えば,「上部消化管出血の緊急内視鏡適応って何ですか?」といった質問では,Glasgow-Blatchford bleeding Scoreを用いて,短時間で理解できるようになっています。
『京都ERポケットブック』が,他の救急外来の本と異なるのは,著者が救急医ではなく,家庭医の荒隆紀先生だということです。著者があとがきで述べていますが,救急医では持ち得ない視点から,救急外来診療で生き残るために作られた本です。この視点により,研修医や救急外来診療にかかわらざるを得ない他科の先生方,看護師,救急隊員にとって,より利用しやすくなっているのではないかと思います。もちろん救急医が読んでも,実践的EBM活用法や救急外来で知っておくべき法律など,あらためて勉強させられる内容ばかりです。
こんな本が,自分の研修医時代にあったら良かったのにと思わされた一冊でした。研修医,救急医だけでなく,救急外来にかかわる全ての医療者にお薦めしたいと思います。
A6・頁416 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03454-8
大阪日赤ラパロ教室
イラストで学ぶ腹腔鏡下胃切除[DVD付]
金谷 誠一郎 監修
赤川 進,三浦 晋 編
《評者》二宮 基樹(広島記念病院消化器センター長)
理論と感性が融合した手術指導書
金谷誠一郎先生が『大阪日赤ラパロ教室 イラストで学ぶ腹腔鏡下胃切除』を上梓された。DVD付きである。
個人の名で,さらに施設名まで冠して手術書を世に問うことは大変勇気の要ることである。論議,時に批判に耐え得る自信がなくてはならないし,DVD映像では言葉ではない手術の真実がさらされる。“本物”にしかできないことである。
金谷先生といえば,再建で機能的端端吻合であるデルタ吻合を,また郭清でも左胃動脈を先に切離した後にNo.8a,No.11p郭清を行う内側アプローチを提唱された腹腔鏡下胃切除術の先駆者であり革命児である。わが国の腹腔鏡下胃切除術の進歩に大きく貢献し,また,し続けているこの領域のリーダーのお一人である。
本書には術式ごとに郭清と再建を分けて記載してある。そして,見開きの左ページに文章を,右ページに図を載せ視覚的な理解に重点を置いており大変読みやすいし,知りたい項目を容易にひもとけるようになっている。
また,術者目線で実際に手術を行うに際しての細かなコツや注意点が豊富なイラストとともに簡潔に記述してある。Pointでは,手術の実際に際して役に立つ解説が添えられている。まるで,金谷先生の声が聞こえてきそうである。
金谷先生の手術は電気メスを多用し膜構造,層構造を重要視している。そして,「待ちの攻め」とでも表現しようか,膜を1枚ずつ切離し徐々に郭清対象の軟部組織が浮かび上がってくるのを待ちながら操作を進めている。結果として,郭清は正確で安全となっている。
また,主要動脈の直線化や膵の軸回転などの著者のアイデアが随所にちりばめられており大変興味深い。
また,DVDが付いており実際の映像を繰り返し見ることができる。膜および層構造を意識したリンパ節郭清がどのようなものであるかを理解できると思う。
さらに,助手の場の展開,保存の実際も学ぶことができる。決して垂直に面を作るという単純なものではない。わずかに横に,あるいは奥に傾けたりして,術者に優しい場が展開されている。結果として,全ての操作を開腹と同じ患者右側から行えている。
コラムに金谷先生の美しい手術へのこだわりが記されている。私も美しいものが正しいと固く信じている。
本書を手にした読者は大阪日赤病院が主催するラパロ教室に参加して金谷先生直々に腹腔鏡下胃切除術を学んだ気になること請け合いである。かく言う私もその一人である。
理論に走り過ぎることもなく,感性で訴えるだけでもない読みやすい手術指導書である。経験を問わず,外科医にお薦めしたい良書である。
A4・頁120 定価:本体10,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03167-7
高橋 哲也 編
《評者》下雅意 崇亨(神戸市立医療センター中央市民病院リハビリテーション技術部)
全てのセラピストに薦めたいリスク管理の「指南書」
『ここに注目! 実践,リスク管理読本』は,2016年9月からシリーズ刊行され,理学療法士にとって,基本的で必須な情報が厳選されていることで評判の高い《理学療法NAVI》シリーズの待望の最新刊です。
リスク管理に関する著書はリハビリテーション領域において昨今多く見かけます。また,リハビリテーションの進行基準や中止基準なども多く見られますが,実際,理学療法士としてそれらをどのようにとらえ,どのように「活用」するかお困りではないでしょうか? 理学療法の展開に際し,それらの基準を当てはめるだけに終始していないでしょうか?
本書は,350ページ強の内容の中,冒頭の「リスクとは何か」という導入から,各徴候の見逃せないチェックポイントや臨床的意義まで丁寧な解説が施されており,さらに高齢者や各疾患特有のリスク管理のポイントまで具体的に整理され,まとめられています。理学療法士としてどの部分に実際に注意すればよいのか,どう治療に結び付けていくのかといった内容にも踏み込んで書かれています。また,図表も豊富に掲載され視覚的な理解がしやすいため,大変読み進めやすく,すぐに臨床場面に生かすことのできる内容となっています。
最善の理学療法を行うには,患者を診る・知ることから始まります。その見逃してはならない評価の根幹を占める「リスク管理」に対し,「なぜ・何を・どのように」するべきかを提示し,われわれ理学療法士が行うべきことを具体的かつ明瞭にまとめているのが本書の特長であると思います。
リスク管理は,患者をリスクから守り,回避させるだけのもの……ではもはやありません。患者のリスクを管理しつつ,理学療法の治療に結び付けることが肝要です。その意味では,患者の病態変化が大きい急性期のみならず,患者が重複疾患を有し,病態が複雑化してきている昨今では,回復期や生活期でも適切なリスク管理能力が強く求められます。
ハイリスク患者に対する理学療法を行う際,時には急性期や回復期にて,他職種と共通知識・認識を持ち議論する機会があるでしょうし,またある時には生活期の在宅場面で独力での臨床判断が迫られることもあるでしょう。そのような中で,どの時期の理学療法においても適切な「次の一手」を考えていくために,大いに本書が生かされることは間違いないと確信しています。
また,現在日本では年間約1万人が理学療法士となる中で,若手理学療法士が複雑でさまざまなリスク管理に直面し,現場での教育を要する場面も増えてきているように思います。私自身,学生や新人を教育・指導しつつ,自らも学び理学療法を実践していく立場にありますが,本書から多くの「患者のリスク」を整理でき,実践し,教育に生かせていることを実感しています。
若手の指導者・初学者を問わず,急性期から生活期の時期を問わず,全ての理学療法士に必須ともいえるリスク管理の「指南書」として,ぜひともお薦めしたい良書です。
A5・頁368 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03623-8
実践! 皮膚病理道場2
バーチャルスライドでみる
炎症性/非新生物性皮膚疾患[Web付録付]
日本皮膚科学会 編
《評者》照井 正(日大教授・皮膚科学)
バーチャルスライドで標本を子細に観察してみよう!
本書は,第114~116回日本皮膚科学会総会にて行われた教育講演「実践! 皮膚道場」の内容を書籍化したものです。前作『実践! 皮膚病理道場――バーチャルスライドでみる皮膚腫瘍』は腫瘍性疾患がテーマでしたが,今回は非腫瘍性疾患がテーマで日常診療において遭遇する可能性が高い炎症性疾患ならびに非炎症性皮膚疾患が取り上げられています。これまでの病理組織診断学の成書と異なる点はバーチャルスライドを使って標本を弱拡大から強拡大に子細に観察できることであり,そのバーチャルな標本を見ながら段階的に自己学習できる点です。
病理診断は顕微鏡を見ながら指導医と1対1で学習することが理想ではありますが,必ずしも全ての方がそのような恵まれた環境にいるわけではありません。本書のような教材を使うことで,単なる病理診断当てクイズにするのではなく,弱拡大から強拡大で観察すべき所見を的確に読み取る能力と,それらの情報を統合して他の疾患と鑑別する能力を養うことができます。また,難易度としてレベルAからレベルCまで設定されています。段階を踏みながら平易に,より深く病理の面白さを実感できることでしょう。
日本皮膚科学会の専門医試験でも皮膚病理が出題され,面接試験において皮膚病理をみる能力が試されます。また,日常の診療において遭遇する疾患が網羅されていますので,前作と併せて読めば,通常の診療では痛痒は感じない実力がつくことでしょう。ぜひ,ページを開いて内容を見て,本書の特徴を体験してほしいと思います。
A4・頁248 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03533-0
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