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骨盤・脊柱の正中化を用いた非特異的腰痛の治療戦略

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骨盤と脊柱は、不良姿勢や反復荷重によって、容易に機能的非対称となり、蓄積されると非特異的腰痛を引き起こす。しかし、非対称には生来的なものもあり、そのタイプや原因を正確に見極めることが重要となる。本書は、膨大な論文を読み解き、整理し、豊富な臨床経験をもとに構築した最新の治療戦略を示す。鑑別方法、症状に応じた手技の選択など、確かな治療手技を身につけることができる。原因不明の腰痛を減らすための1冊。
荒木 秀明
発行 2018年05月判型:B5頁:144
ISBN 978-4-260-03552-1
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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日本人における原因不明の非特異的腰痛は20%である
 「腰痛症例の85%が,原因の特定できない非特異的腰痛である」
 2001年,Deyoらは専門医による診療が必要な特異的腰痛を見分けるための調査報告(Deyo RA, et al:Low back pain. N Engl J Med 344:363-370, 2001)で,このように述べ,この認識が全世界へ広まった.その後,「非特異的腰痛」は,「原因不明」の「心因性腰痛」であると解釈され,患者の不安や医療に対する不信感の一因となっていった.
 2016年,山口大学によるThe Yamaguchi Low Back Pain Studyでは,整形外科専門医が詳細な身体検査と原因と考えられる部位に局所麻酔剤を注入する診断的神経ブロックを行うことで,腰痛症例のうち80%の原因は特定でき,非特異的腰痛は20%程度であると結論づけた.これは拙著『非特異的腰痛の運動療法―症状にあわせた実践的アプローチ』で検討した診断的神経ブロックの結果と類似しており,臨床における身体検査の重要性を,改めて認識させられた.

解剖学的非対称と腰痛は関係ない
 身体が生来的に解剖学的に非対称であることは,屍体標本やin vivoでの単純X線やCT検査から明らかである.これは,左右非対称の有無を確認するための「触診」(位置触診)の意義が少ないことを示唆している.臨床での検討においても,骨盤・脊柱の非対称と腰痛との因果関係を否定している文献の方が多い.
 腰痛症例の原因を特定するためには,自動運動テストによる症状再現と疼痛誘発テストが,高い感受性と特異性を得られるという報告が多数あり,これらが機能障害の有効な鑑別方法となっている.

骨盤・脊柱は容易に機能的非対称を生じる
 骨盤・脊柱には,日常生活での非対称な座位姿勢や反復荷重によって,容易に機能的非対称が生じることが立証されている.
 腰痛症例の特徴として,体幹の各可動域の絶対値では健常群との有意差はないが,体幹・下肢の回旋可動域などにおける左右非対称の有意差が特徴的である.そのため,非対称な状態のままで自動運動テストや他動運動テスト,疼痛誘発テストを行うと,身体検査自体が不明瞭になるだけではなく,結果の統合と解釈に難渋することになる.

「原因不明」の腰痛を減らすために
 本書では,こうした腰痛症の病態的特性を用いて,自動運動テストと圧痛点の確認から非対称の有無を確認して,正中化する方法を提案する.
 第4章では腰痛の発生要因を確定するフローチャートを掲載し,第6章では,自動運動テスト⇒正中化手技⇒自動運動再テスト⇒疼痛誘発テスト⇒他動運動テストを行ったケーススタディを紹介する.
 本書が,日本における「原因不明」の非特異的腰痛症を減らせる一助となることを願うばかりである.
 最後に,今回も企画段階から的確にアドバイスいただいた水谷哲也氏,オリジナルイラストを作成していただいた岩間絢子氏,丁寧に編集してくださった医学書院編集部の金井真由子氏に感謝の意を捧げたい.

 2018年4月
 荒木 秀明

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第1章 骨盤と脊柱は,そもそも構造的に非対称なのか?
 I 構造的非対称と機能的非対称は何が違うのか?
  1)構造的非対称とは?
  2)機能的非対称とは?
 II 骨盤の構造的非対称を検証する
  1)屍体標本による検討
  2)生体CT画像での検討
  3)Discussion
 III 脊柱の構造的非対称を検証する
  1)小児期
  2)成人期
  3)右胸心と脊柱非対称との関係

第2章 機能的非対称の原因とその影響
 I なぜ,機能的非対称が生じるのか?
  A 解剖学的下肢長差によって機能的非対称が生じるのか?
  B 座位姿勢によって機能的非対称が生じるのか?
  C 活動性によって機能的非対称が生じるのか?
  D 咬合不全によって機能的非対称が生じるのか?
  E 月経困難症によって機能的非対称が生じるのか?
 II 機能的非対称はどんな影響を及ぼすのか?
  A 腰痛群と健常群における運動パターンの違い
  B 立位と座位における運動パターンの違い
  C 非対称が腰痛を引き起こすのか? 腰痛が非対称を引き起こすのか?
 III 機能的非対称の評価

第3章 なぜ,正中化するのか?
 I 骨盤の正中化
  A なぜ,骨盤を正中化するのか?
  B 骨盤の正中化による臨床効果
 II 脊柱の正中化
  A なぜ,脊柱を正中化するのか?
  B 脊柱の正中化による臨床効果
 III 自動運動テストと正中化

第4章 機能的非対称をどうやって見分けるのか? 手技をどう使い分けるのか?
 I 自動運動テスト
  A 鑑別のポイント
  B 鑑別の実際
 II 圧痛テスト
  A 鑑別のポイント
  B 鑑別の実際
 III 機能的非対称の分類
  A 左骨盤変位
  B 右骨盤変位
 IV 正中化手技は,自動運動と主訴に応じて選択する

第5章 症状に応じた骨盤・脊柱の正中化手技
 I 仙骨前傾を伴う寛骨後方回旋
  A 局所所見
  B 正中化手技
 II 仙骨後傾を伴う寛骨後方回旋
  A 局所所見
  B 正中化手技
 III 寛骨前方回旋
  A 局所所見
  B 正中化手技
 IV 寛骨上方変位(アップスリップ)
  A 局所所見
  B 正中化手技
 V 脊柱非対称
  A 局所所見
  B 非特異的モビライゼーションを用いた正中化手技
 VI 体幹側屈
  A 局所所見
  B 正中化手技

第6章 ケーススタディ
 症例1 急性腰痛症
 症例2 産後骨盤痛
 症例3 膝関節由来の腰痛(knee spine syndrome)
 症例4 頸椎捻挫後の右腰背部痛および頸部痛
 症例5 腰椎椎間板ヘルニアによる腰下肢痛
 症例6 立方骨症候群による腰背部痛および頸部痛

第7章 下肢長差に関するシステマティックレビュー
 I 解剖学的下肢長差の平均値は?
  1)左右差
  2)性差
  3)疼痛との関連性
  4)測定方法の相違
 II 解剖学的下肢長差が及ぼす影響は何か?
  1)骨盤と脊柱のアライメントへの影響
  2)脊柱・骨盤帯周囲筋群の過緊張
  3)代償作用と腰痛の相関性
 III 臨床的に重要な解剖学的下肢長差と環境因子は?
  1)症状と相関性のある解剖学的下肢長差とは?
  2)解剖学的下肢長差と関連因子
 IV 解剖学的下肢長差と機能的下肢長差との関連は?
  1)解剖学的下肢長差が生理学的機能に影響するのか?
  2)解剖学的下肢長差と歩行分析
  3)機能的下肢長差とアライメント非対称

索引

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非特異的腰痛の“不明な原因”を解明する一冊
書評者: 原 清和 (札幌第一病院リハビリテーション科・課長)
 腰痛は多くの人々が経験するもので,本邦では男性で1番目,女性で肩こりに次いで2番目に,訴えの多い症状です(厚労省「平成28年国民生活基礎調査」より)。その腰痛の中でも,原因が特定できるものは15%であり,残りの85%は原因が特定できない“非特異的腰痛”と呼ばれ,心理・社会的要素を考慮することが必要とされてきました。

 それに対して本書は,「日本人における原因不明の非特異的腰痛は20%である」という一文から始まります。このことは,腰痛疾患への対応をライフワークとし,中でも非特異的腰痛の解明に尽くされてきた著者・荒木秀明氏が最も述べたかったことであり,本書の結論となるべきものかもしれません。

 非特異的腰痛を減らすために,荒木氏は「骨盤・脊柱の正中化」という評価手技を提唱しています。そのため本書ではまず,骨盤・脊柱の構造的な非対称性と,それに対する機能的な非対称性との相違や原因,それらによって生じる問題について,豊富な文献をもとに検証しています。続いて正中化する理由や,自動運動と圧痛所見に着目した評価法,そこから導き出された結果の分類から手技を用いる際の鑑別フローチャートまで,順を追って解説することで理解しやすいものとなっています。特に手技の解説では,写真を豊富に用いており,またケーススタディを通して実際の臨床場面でどう使用するかが非常にイメージしやすい構成となっています。

 エビデンスの重要性がうたわれてから久しいですが,荒木氏は以前からその重要性を認識していました。その一貫した姿勢は,本書でも変わりません。

 また,かねて諸外国の進んだ知識と技術の習得に熱心でしたが,ただそれらを受け入れるのではなく,オリジナルとして本邦から発信できるものにしなくてはならないと話していました。本書で紹介している手技からもそのことがうかがえ,荒木氏がたゆまずにその道を進んでいることをあらためて実感しました。

 豊富な臨床経験と確かな技術,そしてエビデンスに基づいた評価法に裏打ちされた本書は,これから非特異的腰痛について学ぼうと考えている方,あるいはその対応に苦慮している方,また徒手療法に興味がある方など多くの方々にとって,価値ある一冊となるでしょう。

 本書を読んで,“原因不明”とされる非特異的腰痛の“不明な原因”を減らすために役立てていただくことを希望します。
腰痛理学療法の第一人者による,非特異性腰痛を緩和・除去するための実践書
書評者: 髙柳 清美 (埼玉県立大大学院教授・理学療法学)
 荒木秀明氏は長年,運動器理学療法を専門とし,運動器専門病院,理学療法士教育機関などで活躍されてきました。特に腰痛理学療法の第一人者の一人です。このたび,これまでの多年にわたる臨床・研究で培われた“腰痛理学療法”の集大成の一つとして,『骨盤・脊柱の正中化を用いた非特異的腰痛の治療戦略』を上梓されました。

 非特異的腰痛とは,厳密に原因が特定できない腰痛の総称です。これまで腰痛の約85%がこの非特異的腰痛とされてきましたが,精査した研究ではこのうちの80%が特定でき,椎間板の他に椎間関節,仙腸関節といった腰椎の関節部分,さらに背筋など,腰部を構成する組織のどこかに痛みの原因がある可能性は高いとされています。

 本書ではまず,腰痛の治療戦略を示す前に,「骨盤と脊柱は,構造的にあるいは機能的に非対称なのか?」という疑問を投げかけることで,抗重力下において立位および座位で生活するヒトの脊柱と骨盤の非対称性が,非特異的腰痛の主要因であるかもしれないという仮説を示しています。

 前半では,「解剖学的下肢長差によって機能的非対称が生じるのか?」,「座位姿勢によって機能的非対称が生じるのか?」など,機能的非対称が生じる主な要因を解説し,機能的非対称が身体にどのような影響を及ぼすのかについて,論文をレビューしています。次に機能的非対称の評価について触れ,疼痛緩和や疼痛除去に関する戦略法へと続きます。

 後半では,非対称性を緩和させ,骨盤・脊柱を正中化することによる臨床的意義とその効果,機能的非対称を見分ける鑑別法,機能的非対称の分類,自動運動と主訴に応じた骨盤・脊柱に対する正中化手技,多様な臨床症状に応じた正中化手技について解説し,腰痛を引き起こす要因ごとのケーススタディを例示しています。最後に下肢長差に関するシステマティックレビューを示し,下肢アライメントと骨盤・脊柱アライメントとの関連性から,腰痛をどのように回避していくかを教授しています。

 『腰痛診療ガイドライン 2012』,Cochrane Libraryの“Spinal manipulative therapy for chronic low-back pain: an update of a cochrane review”(2011),“Traction for low-back pain with or without sciatica”(2013),“Back Schools for chronic non-specific low back pain”(2017)などでは,腰痛症に関する運動療法の効果が報告され,根拠に基づいた理学療法介入とその効果が明らかになってきました。また,Basson A1),Vanti C2),Ribeiro DC3),Luomajoki HA4),Meyer C5)など腰痛症に対する運動療法の効果に関するシステマティックレビューやメタ分析の論文が次々と発表され,理学療法効果が科学的に証明されてきています。

 非特異性腰痛を緩和・除去する“根拠に基づいた理学療法実践書”として,本書を推薦いたします。

●参考文献
1)J Orthop Sports Phys Ther. 2017[PMID:28704626]
2)Disabil Rehabil. 2017[PMID:29207885]
3)BMJ Open. 2018[PMID:29730631]
4)Musculoskelet Sci Pract. 2018[PMID:29631119]
5)Ann Phys Rehabil Med. 2018[PMID:29578102]

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