MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.10.29
Medical Library 書評・新刊案内
聖路加国際病院内科チーフレジデント 編
《評者》青木 眞(感染症コンサルタント)
聖路加国際病院の現場が生んだ中身の濃いマニュアル
最後の静脈ライン確保も腰椎穿刺も20年ほど前になる評者に,現場のマニュアルを俯瞰し書評を書く資格は本来ない。責任編集者の森信好先生から書評を依頼された時のちゅうちょは健全だったと思う。しかし「エッセンスのみ抽出された症例」を白板上で検討する「形而上学的」な生活を繰り返す評者を現場のリアリティに引き戻す機会ととらえ,お引き受けした(それにしても全ページを読了するのに約6週間。現場から遠く,そして遅れた者による書評であることをあらかじめお断りしておく)。
本書は,「A 当直で呼ばれたら」「B 内科緊急入院で呼ばれたら」「C 入院患者の管理で困ったら」の3モジュールで構成されており,それぞれ,病棟,救急当直,入院症例の管理といった状況をおよそ想定していると思われる。しかし各論の項目は「腹痛」「胸痛」など救急室でも病棟でも遭遇する事態であり,あまり厳密な区分は意味がないだろう。
現場から遠い評者の視点だが,有用と思われる箇所の一部を紹介すると……。
・p.7 発熱での追加問診事項:薬剤歴(最近飲み始めた漢方,サプリ,ハーブはあるか),動物接触歴(熱帯魚・ミドリガメはどうか。近くに鳩がたくさん来る場所はあるか),渡航歴,性交渉歴(風俗,コンドームの使用,男性か女性か両方か)。
・p.16 ショックの初期対応:数百mLの輸液で心原性ショックが悪化することは少ないので,診断が確定するまで(中略)最初に輸液負荷を行う。
・p.37 意識障害・神経所見を含めた身体診察:意識障害があったとしても神経所見の検討は可能〔例:眼(抜粋:共同偏視,瞳孔不同,人形の目反射など)〕。
・p.41 意識障害と失神:病歴聴取で意識障害と失神を区別。失神は必ず心原性を除外。失神の原因と頻度(心原性18%,非心原性48%,原因不明34%)。
・p.83 経口血糖降下薬:非常にわかりやすい分類と説明が図解されている。
・p.106 せん妄予防:環境整備と治療薬処方例が具体的。
・p.118 胃瘻の自己抜去と再挿入:素晴らしい。
・p.153 心不全の病態把握法:cold or warmの軸(低灌流)とwet or dryの軸(うっ血)で病態を把握。
・p.201 低Na血症:「勝手に治る低Na血症」の説明がよい。
・p.263 オピオイドの剤型別換算:投与法と共に有用な表。
・p.279 動脈血液ガスでわかるその他の項目:COHb(一酸化炭素)の割合,Lac(乳酸値),mOsm(浸透圧:これは計算で):これが現代の動脈血液ガスの項目か。
以下は余談と極論である。
評者が初期研修を受けた1980年代の沖縄県立中部病院も,米国の大学病院も,そして90年代の聖路加国際病院も,ひとたび日常の勤務時間が終われば,そこはチーフレジデントを中心とする研修医が全てを仕切る野戦病院と化した。労働基準局がどのように考えるかは浅学非才の評者には見当もつかないが,安楽・快適といったこの世のNormから隔絶され,病院外からの時間の流入が止まる,この準夜,深夜帯の不条理に満ちたマゾヒスティックな空間が優れた医師の醸造装置であった。本書『内科レジデントの鉄則 第3版』も間違いなく,この野戦病院的空間が生み出したと確信している。
スタッフよりも早く「退社」する研修医の9~17時ライフが一般化され,電子カルテにより診療記録が綿あめのように体積ばかりで中身の薄いものに変質している今日,このような歯ごたえのある“クックブック”の愚直さを体現する本を生み出す空間が依然として存在することに一種の安堵を覚えている。多くの読者を得ることを願っている。
B5・頁344 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03461-6


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