医学界新聞

2018.10.15



Medical Library 書評・新刊案内


実践! 皮膚病理道場2
バーチャルスライドでみる炎症性/非新生物性皮膚疾患[Web付録付]

日本皮膚科学会 編

《評者》山本 明美(旭川医大教授・皮膚科学)

皮膚病理ビギナー必読

 この本は「皮膚科専門医認定試験をこれから受験するために皮膚病理組織学の基本を短時間で身につけたい」と考えている皮膚病理ビギナーにうってつけの一冊です。編集が日本皮膚科学会ということは,個人的な意見ですが,この本の画像が専門医認定試験問題に使われる可能性があると考えます。もちろん用いられている画像はどれも病理所見がわかりやすい典型的なものばかりですから試験用としても最適なものです。

 この本の最大の特徴は難易度順に疾患を分類し,容易なものから順にA,B,Cの3つのレベルで疾患がまとめられている点です。そしてそのレベルごとに中身は組織のパターン別,あるいは病因別に疾患が並んでいます。このことが初心者の学習を大いに助けると思います。なぜかというと,皮膚病理を勉強する上で障害となるのは次のような事実があるからです。すなわち多くの教本に掲載されているのは目がくらむように膨大な数の皮膚病で,しかもおのおのが疾患の形成時期,すなわち早期,最盛期,治癒期なのかによって所見が異なるときては勉強する意欲が損なわれます。その点,この本ではまずレベルAにある厳選された少数の疾患をマスターすることでいったん達成感が得られます。そして心に余裕ができたところで,次のレベルに進むことができるのです。いきなりヒマラヤの頂上をめざすのではなく,近くの小山でハイキングから始めるような感じでしょうか。

 この本のもう一つの特徴はほとんどの画像をバーチャルスライドで拡大や位置を自在に調整しながら観察することができる点でしょう。バーチャルスライドに込められている無限に近い情報量込みで定価1万2000円は大変お買い得な価格と言えます。本に掲載されている図の中に矢印や点線などで所見の部位が明示されているので,読者は迷うことなく病理所見を理解できます。しかしこれは受動的な学習なので知識の定着には不十分です。そこでその後にバーチャルスライドにより自分自身でその所見を能動的に探し出すことでしっかりと知識を定着させることができます。

 またこの本には比較的広い余白があり,メモを書き込みたい読者への配慮が感じられます。自筆のメモを書く,という作業も知識を定着させるよい手段となります。さらに個々の疾患についての解説が短く端的なことも特徴的です。そのため,自分で余白に情報を追加し,マイブックとして活用することができます。もちろん日々の診療で出合う疾患の中には本書に掲載されていないものも多くあります。したがってまずこの本で基本をマスターしたら,より分厚い成書をそばに置いて学習レベルを深化させていくことをお勧めしたいと思います。

A4・頁248 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03533-0


ほんとうに確かなことから考える妊娠・出産の話
コクランレビューからひもとく

森 臨太郎,森 享子 著

《評者》福井 トシ子(日本看護協会会長)

ルーチンケアや新たな課題への再考を促す一冊

 コクランは,「1992年に設立され,25年を超える歴史をもつ組織」であり,その核になる考え方である「根拠に基づく医療」は,「近年の医療分野の十大発明にも数えられて」(本書p.iii,「はじめに」より)いるという。そのような情報源をベースとして書かれた,本書のような存在を待っていた周産期医療関係者,特に助産師は少なくないと思う。どの章も大変興味深く,参考になる。ここでは,出産時のケア,ルーチンに焦点を当てて,紹介してみたいと思う。

 「出産に関するさまざまなルーチン」の中で,剃毛や浣腸は「妊産婦の心理的負荷は大きいが,明らかなメリットはない」と記載され,著者は「日本においても,近年では『ルーチンでの剃毛や浣腸はせず,必要に応じて行なう』という方針の産婦人科が増えている」と述べている(p.56)。

 90年以前,わが国の分娩周辺は,分娩時の導尿や浣腸がルーチンケアと称され,当たり前に行われていた。産婦が入院すると,医師は分娩監視装置装着,浣腸,導尿,剃毛というスタンプを押して入院指示をするところもあったと聞く。助産の教科書にも,初経産別に分娩時に浣腸を行う時期が記載されていた。

 95年4月,前WHOヨーロッパ地域事務局女性と子どもの健康部長(当時)のマースデン・ワグナー氏が,『手術と見なされる出産』と題して,医師が剃毛,浣腸,会陰切開をする理由を述べている1)。その中で,「妊娠は疾病ではない。ところが医師は,診断と治療を頻繁に要する重い病気であるかのように妊娠を管理していくのである。出産は外科的処置を要するものでもない」と,出産が手術と見なされている状況を指摘し,WHOの調査からもこうしたルーチンワークが不要であるとしている。

 また,2003年10月,第106回関東連合産科婦人科学会学術集会において,石井廣重氏ら(石井第一産科婦人科クリニック)が,『WHO 59カ条による医療介入の少ないお産を目指して』という講演の中で,「今や如何にローリスク妊婦に,快適で安全なお産を提供する事に我々は重きを置かなかったか,と反省する時期に来ているのではないでしょうか。(中略)WHOの59か条にしたがって『如何に安全に医療介入のないお産を達成するか』を日常診療の目標としております。BFHに認定されてからの当院の分娩形態を報告し,どうしたらローリスクのお産を医療介入なしで終わることができるかを考えてみたいと思います」と述べている2)

 分娩時のルーチンケアとしての導尿や浣腸が不要と論じられてから,すでに20年。本書で紹介されているレビューは,剃毛は14年,浣腸は13年に更新されたものである。本書が,全ての分娩施設において,ルーチンの剃毛や浣腸は不要という方針にかじを切り,加速するためのパワーとなることを期待したい。

 本書はコクランレビューをテーマ別に分類し掲載しているだけではなく,その後にまとめられた著者の解説が明快である。レビューを効果的に活用するための示唆を与えてくれる。“よい”と思われるケアをするときに,どのようなしくみや構造が必要なのかを想起することもできるし,その解説から,新たなリサーチクエスチョンを得ることもできる。ぜひ,活用したい一冊である。

A5・頁128 定価:本体2,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03542-2

参考文献
1)マースデン・ワグナー著,藤原美幸訳.手術と見なされる出産――医師が剃毛,浣腸,会陰切開をする理由.助産婦雑誌.1995;49(4):293-7.
2)石井廣重,他.WHO 59カ条による医療介入の少ないお産を目指して.日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報.2003;40(3)368.


医療管理
病院のあり方を原点からひもとく

池上 直己 著

《評者》河北 博文(河北医療財団理事長)

今後の病院経営と運営を考える指針として

 マネジメントの定義は,その組織が“継続して社会価値を創り続けること”と考えています。組織が医療機関であれば病院の理念を言葉として明確に示し,それを浸透させることが開設者ならびに管理者としての理事長,院長の第一の責任です。そして,社会価値を継続して創るということは,人・資金・情報に加え,天の時,地の利などの要素を最大限に活用する必要があります。よく,人・物・金と言われますが,物は人が集まり,ベクトルをそろえて活動し,資金調達が十分にできれば買ったり,設置したりすることはできますから,二次的な要素だと考えています。

 医療法第一条の五には病院は「科学的でかつ適正な診療を受けることができる便宜を与えることを主たる目的として組織され,かつ,運営されるものでなければならない」と書かれています。わが国の病院が組織体であるということを認識し,運営が体系的であるということはいつから始まったのでしょうか。聖路加国際病院を開設したRudolf B. Teuslerは「This hospital is a living organism……」と宣言しています。組織は常に生命ある有機体であり,すなわち,形態的・機能的に分化しつつ異なる部分が一つの内面的原理(理念)によって統一されてできた全体であり,目的と事業を実現するものです。このことは実は,医療機関内部における医療の質のみならず,社会的に医療制度そのものの質によって大きく影響を受けることになります。医療財源,提供体制の計画,さらにプライマリ・ケア体制整備などが社会的に評価されなければなりません。

 本書は著者の長い学識経験を踏まえて,歴史的観点,国際的な比較論,多くの職員が国家資格を持ち,加えて,その中でも医師という患者と直接準委任契約を有する集団がいる医療の特異性を示しつつ,実働部,技術部,指示部とそれらを統括する経営層,管理部からなる運営の方法を提案しています。言い換えれば,患者に直接接するサービス層とそのサービス層を支えるサポート層,そして,全体を指示する基盤,ベース層の役割分担と連携がなければ病院は機能しません。VII章で函館市の社会医療法人高橋病院の事例を紹介していますが,わが国の一般病院としてはよい選択だと思います。極めて実践的に分析された事例であり,今後の病院経営と運営のモデルになり得るでしょう。

 診療報酬制度を鑑みてみると,DPCなどを含め病院においてもICTの活用によるデータ分析は不可欠です。さらに,地域との連携,さらには,地域づくりにはIoTを生かし,いわゆるポピュレーション・ヘルス・マネジメントへつなげていくことが望ましいと思います。本書では情報の活用があまり述べられていないので次回の改訂に委ねることになるでしょう。

 医学書院の雑誌『病院』と併用しながら,本書が病院経営者,管理者の指針になることを望みます。

A5・頁172 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03611-5


外科系医師のための手術に役立つ臨床研究

本多 通孝 著

《評者》金尾 祐之(がん研有明病院婦人科副部長)

若手外科医には必ず手に取ってほしい名著

 手術にかかわる外科系若手医師にとっての最大の関心事は,毎日訪れる手術を安全に乗り越え,執刀件数を増やすことではないかと思います。私自身ももちろん同様の思いで20年近く手術技量を磨くべく邁進してきたつもりです。ところが最近になって「自分の行っている手術が本当に患者さんの恩恵につながっているのだろうか?」とふと考えることがあります。このような“壁”にぶつかる外科医は少なくなく,その場合,カルテ記載を調べ自分の行ってきた手術成績を検討する,いわゆる“後ろ向き研究”を行い,満足(安堵)しているのではないでしょうか。私を含め手術技量の向上に注力し,臨床研究について系統的に学ぶ機会がなかった外科系医師にとっては,それしか方法がないといっても過言ではないと思います。

 本書『外科系医師のための手術に役立つ臨床研究』は,臨床研究とは何か,Research Question(RQ)の整理の仕方,研究デザインの構築などといった臨床研究の基本的な考え方から,バイアス,交絡因子のコントロールの方法,またわれわれが絶対的な指標と信じているp値,多変量解析に潜むわななどについて非常にわかりやすく,系統的に解説されています。特に本書第4章に記載されている論文作成の方法は秀逸で,初めて原著論文を書く若手医師のみならず,いままで何本も論文作成を行ってきた医師にとっても目からうろこの内容であり,臨床研究に興味がない方にとっても必見の価値があると確信します。また最後には昨今話題になることが多い研究不正についても言及されており,著者である本多通孝先生の臨床研究に対する熱い思いを感じられる内容です。

 本書は若手外科医師を対象としていると書かれていますが,若手医師はもちろんのこと,いままで臨床研究を系統的に学ぶ機会がなかった私のような中堅医師にとっても非常に役立つ内容が満載であり,「もっと早いうちに出合っていれば……」と思わせる間違いなく名著です。

 これからの日本の医療を支える若手外科医には必ず手に取って目を通してほしいと思わせる一冊です。

A5・頁244 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03259-9


骨盤・脊柱の正中化を用いた非特異的腰痛の治療戦略

荒木 秀明 著

《評者》髙柳 清美(埼玉県立大大学院教授・理学療法学)

腰痛理学療法の第一人者による,非特異的腰痛を緩和・除去するための実践書

 荒木秀明氏は長年,運動器理学療法を専門とし,運動器専門病院,理学療法士教育機関などで活躍されてきました。特に腰痛理学療法の第一人者の一人です。このたび,これまでの多年にわたる臨床・研究で培われた“腰痛理学療法”の集大成の一つとして,『骨盤・脊柱の正中化を用いた非特異的腰痛の治療戦略』を上梓されました。

 非特異的腰痛とは,厳密に原因が特定できない腰痛の総称です。これまで腰痛の約85%がこの非特異的腰痛とされてきましたが,精査した研究ではこのうちの80%が特定でき,椎間板の他に椎間関節,仙腸関節といった腰椎の関節部分,さらに背筋など,腰部を構成する組織のどこかに痛みの原因がある可能性は高いとされています。

 本書ではまず,腰痛の治療戦略を示す前に,「骨盤と脊柱は,構造的にあるいは機能的に非対称なのか?」という疑問を投げかけることで,抗重力下において立位および座位で生活するヒトの脊柱と骨盤の非対称性が,非特異的腰痛の主要因であるかもしれないという仮説を示しています。

 前半では,「解剖学的下肢長差によって機能的非対称が生じるのか?」,「座位姿勢によって機能的非対称が生じるのか?」など,機能的非対称が生じる主な要因を解説し,機能的非対称が身体にどのような影響を及ぼすのかについて,論文をレビューしています。次に機能的非対称の評価について触れ,疼痛緩和や疼痛除去に関する戦略法へと続きます。

 後半では,非対称性を緩和させ,骨盤・脊柱を正中化することによる臨床的意義とその効果,機能的非対称を見分ける鑑別法,機能的非対称の分類,自動運動と主訴に応じた骨盤・脊柱に対する正中化手技,多様な臨床症状に応じた正中化手技について解説し,腰痛を引き起こす要因ごとのケーススタディを例示しています。最後に下肢長差に関するシステマティックレビューを示し,下肢アライメントと骨盤・脊柱アライメントとの関連性から,腰痛をどのように回避していくかを教授しています。

 『腰痛診療ガイドライン 2012』,Cochrane Libraryの“Spinal manipulative therapy for chronic low-back pain: an update of a Cochrane review”(2011),“Traction for low-back pain with or without sciatica”(2013),“Back Schools for chronic non-specific low back pain”(2017)などでは,腰痛症に関する運動療法の効果が報告され,根拠に基づいた理学療法介入とその効果が明らかになってきました。また,Basson A1),Vanti C2),Ribeiro DC3),Luomajoki HA4),Meyer C5)など腰痛症に対する運動療法の効果に関するシステマティックレビューやメタ分析の論文が次々と発表され,理学療法効果が科学的に証明されてきています。

 非特異的腰痛を緩和・除去する“根拠に基づいた理学療法実践書”として,本書を推薦いたします。

B5・頁144 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03552-1

参考文献
1)J Orthop Sports Phys Ther. 2017[PMID:28704626]
2)Disabil Rehabil. 2017[PMID:29207885]
3)BMJ Open. 2018[PMID:29730631]
4)Musculoskelet Sci Pract. 2018[PMID:29631119]
5)Ann Phys Rehabil Med. 2018[PMID:29578102]


学校関係者のためのDSM-5

R. M. Tobin,A. E. House 原著
高橋 祥友 監訳
高橋 晶,袖山 紀子 訳

《評者》滝沢 龍(東大大学院准教授・臨床心理学)

子どものこころの健康を考えるきっかけに

 本書を一読して,DSMが米国では精神医学・心理学だけでなく,司法・行政,そして学校・教育を含めた幅広い分野で共通言語になりつつある(もしくは,その実現をめざしている)ことがわかる。もちろんDSMにも長所・短所があり,その状況自体の善しあしの議論はあるだろう。それは脇に置くとして,日本の学校・教育現場の現状とはかけ離れた次元にあることは確かだ。特に,米国の学校心理士が診断を行おうとしていることには驚きを覚えた。

 原著者のお二人が心理学部教授,名誉教授であることから,米国の学校心理士への言及も多く,心理職が学校・教育領域のメンタルヘルスの中心的役割を担おうとする意気込みがうかがえる。心理学・教育学の教育を受けた後に,精神科医としての教育を受けた私にとっても,本書は勉強になる充実した内容であった。私が2012年から約3年間過ごした英国ロンドンでも,心理学出身の研究者・実践者としてメンタルヘルス分野をリードしている方々がたくさんいた。

 一方,日本ではやっと17年に,国家資格として公認心理師法が施行され,こころの健康を守る専門家として,国民の期待に応えることのできる心理学領域の人材養成が行われようとしている。公認心理師は,メンタルヘルスにかかわる専門知識を学び,それらを共通言語として,すでに国家資格を持ち現場に入っている医師,看護師,精神保健福祉士などの専門家と対話できるようになることが求められる。学ぶべき知識は多岐にわたるが,DSMの知識も当然入ってくる。そうした意味では,本書に登場する米国の学校心理士はかなりハイレベルではあるが,学校・教育領域で活躍する日本の公認心理師のめざすべき一つのモデルとして役立つかもしれない。

 児童・思春期を専門とする精神科医,心理士,福祉士といった専門家はもちろんのこと,現場に立ち会う学校教員,スクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカー,当事者,家族らに広くメンタルヘルスへの理解が深まることは,関係者間での話し合いをスムーズにして,当事者本人へのケアが充実することにつながるはずである。こころの健康の問題は,発症してからでは治療に時間がかかることがわかっている。そして早期発見が回復を早めることも知られている。児童・思春期における主な生活の場の一つである「学校」におけるメンタルヘルスの知識・対策が普及・充実することは,そうした早い回復につながることになる。日本でもその実現を願ってやまない。

 本書の日本語はこなれており,大変読みやすい訳になっている。これは翻訳を担当された各先生方のご尽力によるものだと思う。評者も本書発行の前年に,DSM-5を作成した米国精神医学会が当事者,家族,初級者向けに初めて本格的な解説書として編集した『精神疾患・メンタルヘルスガイドブック――DSM-5から生活指針まで』(医学書院)の訳本を上梓した。本書,拙本ともに,DSMへの理解を深め,こころの健康の問題に立ち向かう一助となると考える。子どもにかかわるメンタルヘルス関係者に広くお薦めしたい。

A5・頁336 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03212-4


タラスコン救急ポケットブック

Richard J. Hamilton 原著
舩越 拓,本間 洋輔,関 藍 監訳

《評者》志賀 隆(国際医療福祉大准教授・救急医学)

ERのミニマムリクワイアメントって何だろう?

 2002年の夏に那覇空港に東京から研修医が到着した。空港からバスに乗ってたどり着いた先は沖縄米海軍病院だった。研修医は米軍病院の救急部門で採用をめざして必死に実習をしていた。その際に,米国の救急医学レジデンシーを卒業したばかりの日焼けした指導医がパラパラとポケットブックをめくっていた。

 「すみません。ちょっと私にも見せてもらえませんか?」とポケットブックを手にとった研修医はびっくりした。手のひらサイズのポケットブックの1ページ1ページにぎっしり情報が詰まっている。頭部CTの適応,頸椎画像撮影の適応から抗菌薬の使い方,肺塞栓のプレディクションルールなど,まさにこれが「ERのミニマムリクワイアメントだ!」と研修医は思った。エビデンスの大事なところが見やすくコンサイスにまとまっている。しかも,日本のハンドブックにありがちな根拠文献のない「俺流」の列挙ではない。

 その本の名前は『タラスコン救急ポケットブック』である。まだ,スマートフォンのなかった時代も今も非常に使い勝手のよい本である。そして,人気の証として改訂が続いている。今回この名著が翻訳された。翻訳チームは今は日本屈指のERとなった東京ベイ・浦安市川医療センターを私と一緒に2011年から作り上げた救急の仲間たちである。

 本書は,
・翻訳本にありがちな出版時に情報が遅れていることを避けた
・日本に採用されていない薬剤には脚注を豊富に設けた
・日米の薬剤対比表を巻末に設けた
といった特徴がある。初期臨床研修必修化から10年以上が経った今でも,わが国の救急外来では不安な気持ちを持ちながら忙しい救急外来で診療をしている初期研修医の皆さんがいる。目の前の患者さんにベストな治療を提供しながら,「短い時間でその場で学ぶ!」のが救急外来の醍醐味である。そんな研修医の皆さんや「腹痛はいつも怖い……」「胸痛には嫌な思い出がある」といった専門外の領域を担当せねばならない当直医の先生方に強い味方になる本である。専攻医の先生方は,「君の判断の背景にはエビデンスがあるのか?」と言ってこのポケットブックの1ページを見せて3分レクチャーをしてもよい。ぜひ本書を手にとって一歩進んだ救急診療につなげていただけたらとお薦めする。

A6変型・頁308 定価:本体2,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03547-7

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