認知症と痴呆(福武敏夫)
連載
2018.10.15
漢字から見る神経学
普段何気なく使っている神経学用語。その由来を考えたことはありますか?漢字好きの神経内科医が,数千年の歴史を持つ漢字の成り立ちから現代の神経学を考察します。
[第4回]認知症と痴呆
福武 敏夫(亀田メディカルセンター神経内科部長)
(前回よりつづく)
「認知症」とは用語として奇妙です。正常な機能である認知の「症」となり,言語症,発汗症,歩行症などと言っているのと同じで,3000年以上の漢字文化にない用法であって何を意味するのか不明です。脳症や急性腹症のように,部位に「症」を付けたり,健忘症や自閉症のように状態に「症」を付けることはありますが,「認知症」は肝腎の特徴を何も示していません。
Dementiaはde(減退)+mentia(知的レベル)からなっています。後天的に生じる知能の障害である点で精神遅滞(mental retardation)とは異なります。痴呆も痴(知ることの病)+呆(赤ん坊をおむつでくるむ様子)と分解され,赤ちゃん返りを意味しており,本来,差別的でもなく,不適切とは思われません。中国ではごく普通に使用されています。なお,疒はベッド(臨牀の牀の左側はベッドが立てられたようになっている)の上に横臥する人を表し,「痴」の中の「知」は口と矢(情報)で,事を正しく言い当てる様子を表します。呆(け)が差別的というなら「保」はどうなるのでしょう。
「認知障害」なら認知が障害されていると理解できますが,何故か「障害」を排斥する傾向があるようです。2004年,厚労省がこの疾患群の民間サポーターを創設するに当たり,「痴呆サポーター」では具合が悪いとしてパブリック・コメントを募集しましたが,初めから結論ありきでした。しかし,「認知症」ももはや「ニンチ」と略され,差別的に用いられています。台湾では「失智症」が使われているようであり,これが原義にもかない,妥当と思われます。
(つづく)
この記事の連載
漢字から見る神経学(終了)
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