医学界新聞

2018.09.24



Medical Library 書評・新刊案内


実習指導を通して伝える看護
看護師を育てる人たちへ

吉田 みつ子 著

《評者》蜂ヶ崎 令子(東邦大講師・看護技術学)

学生が実習で経験したことの“意味”を一緒に考える

 本書を読んだ後にまず思ったのは,「もっと早くこの本を読みたかった!」ということだった。実習場でよく見られる事例が紹介され,そこで起きている現象を読み解くヒントが,この一冊に詰まっているからだ。

 私が最近行った臨地実習でも,本書に取り上げられているような事例は日常的に見られた。電子カルテの前に張り付いてしまいなかなかベッドサイドに向かえない学生,「患者さんの話をただ聞くだけになってしまった」と嘆く学生,「2週間受け持ち患者のことしか考えられなかった。こんなに一人の人のことを考え抜いたのは初めてだ!」という学生……これらは初めての実習にありがちな場面である。

 こういった場面には,最近の看護事情も反映されている。例えば,シーツ交換をはじめとして,清拭や陰部洗浄といった清潔ケア,環境整備など,いわば患者の身の回りの「ちょっとしたこと」を介護福祉士やヘルパーに委ねている病院も多くなってきた。看護師が行っていないことを,学生たちにこれらが紛れもなく看護師の仕事,つまり「看護である」ということを意識して伝えなければならない。本書では,患者の身の回りの「ちょっとしたこと」に気付くことが非常に大事であり,患者との信頼関係を築くきっかけになると紹介している。

 また,私が何といっても助かると思ったのは,実習記録へのコメントの入れ方やアドバイスの仕方である。まさに十人十色の学生の記録に対し,どんなコメントを書いたらよいのだろうと頭を悩ませることがよくある。このような教員の悩みに,「“適切なコメント”という正解はない,記録を介して学生と対話すればよい」と著者は答えている。また,アドバイスを求めてきている学生に対して,「なぜ? 根拠は?」と問いがちな教員に,それだけでは学生は不全感を持ってしまうことなどを指摘している。「学生の経験したことの意味を一緒に考えることが大切である」という言葉に,これまで行ってきたことは間違っていなかったと安堵できた。

 指導者や教員から一挙手一投足を見つめられ,手取り足取り指導を受ける状態から,著者の述べているように,学生が自分の頭で考えて実践し,自ら問いを立てて解決していく力を身につけていくようにするのが実習の大きな目的である。指導者や教員が手や口を出しすぎると,その目的が達成されない。実習の後半に,「あ,先生いたんですか」と学生から言われるような,黒子に徹することができる実習――それが私のめざす,実習の理想のかたちである。

 学生のぎこちないあいさつとともに始まる実習,そこではさまざまなドラマが生まれる。指導者と教員はそのドラマに入り込み,学生が多くの人間とかかわる中で貴重な経験をし,飛躍的に成長していくことを実感する。実習は,看護師をめざす看護学生としての成長だけでなく,人間として成長する重要な機会でもある。未来の看護師が,その成長の第一歩として初めて患者を受け持つという貴重な瞬間に立ち会う前に,本書を一読しておくことをぜひお勧めしたい。

A5・頁176 定価:本体2,300円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03529-3


知っておきたい変更点 NANDA-Ⅰ看護診断 定義と分類 2018-2020

上鶴 重美,T. ヘザー・ハードマン 著

《評者》饒平名 かおり(琉球大病院看護師長)

正確な看護診断に欠かせない最新情報がわかる

 2018年に改訂された『NANDA-I看護診断 定義と分類 2018-2020 原書第11版』では,何がどのように変わったのか,また,変更点についてどのように理解し活用すればよいのかについて気になっている人は多いのではないか。

 本書は,『NANDA-I看護診断 定義と分類 2018-2020 原書第11版』の変更点や新しい診断について典型的な事例を用いた活用方法が具体的に説明されており,わかりやすくまとめられている。

 第1章「何がどう変わったか」では,ヘルスプロモーション型看護診断やリスク型看護診断の定義について,変更点やヘルスプロモーション型看護診断における代理人としての看護師の役割などが具体的に解説されている。また,新しく追加された17診断や診断名が変更になった9診断,削除された8診断について説明されている。変更点については,『NANDA-I看護診断 定義と分類 2018-2020 原書第11版』の「3.変更と改訂」にも掲載されているが,本章ではさらにかみ砕いて説明されており,より理解が深まる。

 第2章「課題と今後の取り組み」では,看護診断の課題についてNANDA-Iが取り組んできたプロセスと,今後の取り組むべき内容について,具体的に説明している。特に,現場の混乱を回避するために,標準的な用語を正確に理解し...

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