医学界新聞

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2018.09.17



目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症

がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。

[第28回]造血幹細胞移植と感染症④ サイトメガロウイルス再活性化の総論

森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科副医長)


前回からつづく

 前回は同種造血幹細胞移植(allogeneic HSCT;Allo)の生着までに見られる移植後早期の感染症について症例を元に説明しました。今回から2回にわたり,Allo後感染症の主役でもあるサイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV)再活性化について最新の情報を交えてご紹介します。1回目の今回は,AlloにおいてCMV再活性化がどのような悪影響を及ぼすかについての総論をお話ししましょう。

CMV再活性化

 CMVは別名,免疫調整ウイルス(immunomodulatory virus)とも言われ,再活性化を起こすことで免疫にさまざまな影響を与えます。例えば,急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)患者に対するAllo後にCMV再活性化が起きると,なんとAMLの再発が少なくなるという報告があります1, 2)。正確な機序は解明されていませんが,CMVによって惹起されたナチュラルキラー細胞(NK細胞)などが交差反応を起こして抗腫瘍効果を発揮するのではないかとされています3)

 とはいうものの,ひとたびAllo後にCMV再活性化を起こしてしまえば,有意に非再発死亡(non-relapse mortality;NRM)が増え,全生存期間(overall survival;OS)が短縮することが知られています4)ので,われわれ「がんと感染症」に従事する感染症科医からすれば,CMV再活性化は非常に厄介な存在なのです。

 それでは,CMV再活性化が具体的にどのような弊害をもたらすのでしょうか? これを語る上で,「CMV infection」と「CMV disease」の区別5)およびdirect effectとindirect effectの概念6)が重要となります。「CMV infection」とは単にCMVが体液や組織から同定される状態,具体的にはCMV抗原やCMV-PCRが血液で陽性になっている状況を指します。

 一方,「CMV disease」は,「CMV infection」かつ特徴的な症状を伴う必要があります。特にAllo後では,臓器障害を伴うものを「CMV disease」とします。具体的には肺炎,胃腸炎,網膜炎,中枢神経障害,肝炎などがあります。とりわけ肺炎は非常に予後が悪いので注意が必要です。つまり,「CMV disease」になると,それが直接悪影響を及ぼすことがわかっていただけると思います。これをCMVのdirect effectと言います。

 では,「CMV infection」はどのような悪影響を及ぼすのでしょうか。一つは「CMV disease」への進展が懸念されますが,その他にindirect effectという概念が登場します。上述のようにCMVは免疫調整ウイルスであり,Allo後に「CMV infection」があるだけで,「間接的に」細菌感染症や真菌感染症のリスクが増加するとの報告7, 8)があります。加えて,GVHD(移植片対宿主病)発症リスクも増加すると示唆されています9)。これをCMVのindirect effectと言います。

 近年抗ウイルス薬の使用により「CMV disease」は減少していますが,「CMV infection」によるindirect effectが大きな問題となっているのです。つまり,Allo後にCMVが再活性化することでdirect effectによる肺炎を中心とした致死的な臓器障害のみならず,indirect effectによる細菌・真菌感染症やGVHDなどにより予後不良となることをおわかりいただけたでしょうか。ですので,いかにCMV再活性化を予防するかが極めて重要な課題なのです。

CMV再活性化のリスクを知る

 では,どのようなAlloがCMV再活性化のリスクなのでしょうか。最も重要な要素はドナー(D)とレシピエント(R)のCMV抗体の有無10)です()。同じ移植でも固形臓器移植(solid organ transplantation;SOT)とはリスクが異なりますので,この際まとめて解説しましょう。

 ドナー(D)とレシピエント(R)のCMV抗体の有無によるリスク分類10)(クリックで拡大)

 一見難しそうに見えますが「DとRのどちらが免疫を担うのか」に注目すると簡単に理解できます。

 まずはAlloから見ていきましょう。Alloで最もリスクが高いのはD-R+です。今後免疫を担うのはR自身ではなくDから移植された造血幹細胞ですね。D-ということは,これまでにDはCMVと出会ったことがなく,CMVに対してどのように戦ってよいかわからない状態です。一方R+ですので,Rの体内にはCMVがうじゃうじゃいる状態です。当然Dの免疫がCMVを抑えきることは困難ですので,再活性化してしまうことになります。

 D+R+も高リスクです。今後免疫を担うDはすでに戦い方を知っていますが,移植後免疫を発揮するまでに時間がかかりますね。その間にCMVが再活性化し得るわけです。

 一方,SOTはAlloとは逆にD+R-が最も高リスクとなります。腎移植を例に考えましょう。今後免疫を担うのはR自身ですが,R-ということはCMVとの戦い方を知りません。そこにCMVがうじゃうじゃいるD+の腎臓が移植されてきますので,再活性化し放題です。D+R+も移植後の免疫抑制剤によってRの免疫が抑えられますので高リスクとなります。おわかりいただけましたか?

 D/Rの抗体以外のリスクとしては,非血縁者間移植,HLA不適合移植,臍帯血移植,T細胞除去移植,GVHDの発症,ステロイド(1 mg/kg/日以上),プリンアナログ,抗胸腺細胞グロブリン,アレムツズマブの投与なども挙げられますので覚えておきましょう。

CMV再活性化のタイミング

 CMV再活性化に伴うCMV diseaseは,細胞性免疫の低下するPhase IIに古典的に見られました11)。ただし,近年は適切なウイルス血症のモニタリングとそれに対する抗ウイルス薬の投与〔先制攻撃的治療(pre-emptive therapy),次回詳述〕によりPhase IIのCMV diseaseは減少し,むしろPhase IIIに見られることも多くなっています12)。特に慢性GVHDとそれに対するステロイド投与などの治療を行う場合には細胞性免疫が高度に障害されCMV disease発症のリスクとなりますので十分に注意が必要です13)

Phase IIの免疫低下

Phase IIIの免疫低下(GVHDあり)

 次回はCMV再活性化の予防や対策についてお話しします。中でも,今まさに「CMV再活性化予防戦略」のパラダイムシフトを起こさんとしている薬剤について詳しく解説する予定です。お楽しみに。

つづく

[参考文献]
1)Biol Blood Marrow Transplant. 2015[PMID:26211985]
2)Blood. 2016[PMID:27216219]
3)Front Immunol. 2018[PMID:29545802]
4)Blood. 2016[PMID:26884374]
5)Clin Infect Dis. 2002[PMID:11914998]
6)Enferm Infecc Microbiol Clin. 2010[PMID:20022410]
7)Blood. 2003[PMID:12689933]
8)J Infect Dis. 2002[PMID:11807708]
9)Biol Blood Marrow Transplant. 2010[PMID: 20353832]
10)Clin Infect Dis. 2014[PMID:24850801]
11)Blood. 1991[PMID:1847311]
12)Biol Blood Marrow Transplant. 2003[PMID:14506657]
13)Bone Marrow Transplant. 2007[PMID:17530009]

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