医学界新聞

連載

2018.07.23



今日から始めるリハ栄養

入院したときよりも機能やADLが低下して退院する患者さんはいませんか? その原因は,活動量や栄養のバランスが崩れたことによる「サルコペニア」かもしれません。基本的な看護の一部である「リハビリテーション栄養」をリレー形式で解説します。

[第6回]認知症による医原性サルコペニア

今回の執筆者
古谷房枝(千葉県千葉リハビリテーションセンター協会認定回復期リハ病棟認定看護師/NST専門療法士)

監修 若林秀隆・荒木暁子・森みさ子


前回よりつづく

症例

70代男性。記憶障害(FAST stage 3)1)がありながら家族と同居していた。食思不振が続き,両側肺炎の診断でA病院に入院。入院時より介護抵抗と食事を食べないなどの食行動異常があった。食事摂取量は1~2割程度で,末梢静脈栄養(PPN)を併用し,1日摂取エネルギー量は500 kcal前後。高齢で認知症があるため,経管栄養などによる十分な栄養投与に主治医は消極的であった。そのため,2か月後に家族の希望で,認知症専門のB病院に認知症の治療と経口摂取に対するリハ目的で転院となった。

【転院時所見】身長160 cm,体重32.7 kg,BMI 12.8 kg/m2,A病院入院中,体重は約8 kg減少(減少率20%/2か月)。声掛けに開眼するも,すぐに閉眼。ADLは全介助。握力は右10/左9 kg。下腿周囲径は左右20 cm,Alb 2.5 g/dL,Hb 9.7 g/dL,ChE 97 U/L,BUN 33 mg/dL,P 4.0 mg/dL, K 4.4 mEq/L,CRP 19.61 mg/dL,口腔内および皮膚乾燥著明。胸部X線写真では両側に肺炎と右胸水貯留の所見あり。低栄養と廃用が著しく,全身管理のため中心静脈カテーテルを挿入。介護抵抗が強く,経鼻チューブより抑肝散とメマンチン塩酸塩を投与。FAST stage 6e,MMSEは評価できない。


多視的な観察が重要な認知症のリハ栄養

 認知症の人の食支援は,多くの領域で対応の難しさが問題になっています。2018年6月に,認知症の人の意思決定支援に関するガイドライン2)が策定され,「食べる」ことについて,本人の意思をどうとらえるかが問われています。しかし,心身の変調や生活環境の変化は,認知症の人の中核症状や周辺症状を増悪させ,食行動異常などに現れます。また,入院中は自己抜針や転倒といった安全を守るための対応が優先され,食支援の遅れにつながりがちです。

 山田3)は「サイエンスの視点」「アートの視点」「生活リズムの視点」という3つの視点から評価することを提案しています。サイエンスは,摂食嚥下障害や認知症の病気を理解して支援する視点であり,アートは,食生活史や価値観をもとに,その人にとっての食事環境を整える視点です。生活リズムは24時間の生活の中で,睡眠・覚醒や休息・活動,排泄などを含めて食事をとらえていく視点です。

 薬剤による過鎮静や寝たきりの状態での栄養管理では,脂肪肝や下痢嘔吐などの消化器症状が認められることがあります。また,サルコペニアは独立して認知機能低下と関連しています4)。栄養や活動の介入の遅れによる医原性サルコペニアが,認知機能低下を助長して「食べられない」状態にしていないか,「食べない」は本人の意思なのか,認知症の人の食支援については多視的な観察や評価,本人・家族の希望などを含めた方向性が求められます。

リハ栄養ケアプロセスで,どう進める?

 24時間生活を観察できる看護師は,これまでの食生活や食事環境を踏まえて,認知症の人の「食べられない」「食べない」問題に対して,多視的に観察し,原因を推測します。そして多職種とともにリハ栄養の視点で評価・診断,ゴール設定,介入,モニタリングを行います。

❶リハ栄養アセスメント・診断推論,❷リハ栄養診断
【栄養障害】前医では1日摂取エネルギー量は500 kcal程度。入院時の血液検査と身体測定を含む栄養評価で,「飢餓」「侵襲」があり,高度の低栄養と診断
【サルコペニア】下腿周囲径や握力の計測から,筋肉量・筋力の低下,ADL全介助から,身体機能低下があり,サルコペニアの診断
【栄養素摂取の過不足】前医では介護抵抗や食行動異常により経口食は1~2割で進まず,PPN併用で摂取エネルギー量は500 kcal程度。全ての栄養素が摂取不足

 本症例は,明らかな摂食嚥下障害はありませんでしたが,肺炎に加え,食行動異常拒食(栄養),それに伴う身体機能低下(活動)により,医原性のサルコペニアが強く示唆されます。早期の介入が必要です。

❸リハ栄養ゴール設定,❹リハ栄養介入
 患者は認知障害がありましたが,入院前は家族の支援を受けながら自宅で生活していました。再び経口摂取ができ(家族の希望),自宅退院(本人の希望)することをめざし,以下のように目標を設定しました。
【短期目標(1か月)】中心静脈栄養(TPN)を経て,必要エネルギー量(1600 kcal/日)を経管栄養併用で経口摂取できる。本人のペースに合わせたケアの実施で介護抵抗が減る。短時間・頻回離床ができる。2 kg以上の体重増加
【長期目標(3か月)】経口で必要エネルギー量(1800 kcal/日)が取れる。介助歩行でトイレまで行き,失禁がない。体重増加2 kg/月以上

❺リハ栄養モニタリング
 消化器症状の有無,認知症による周辺症状,活動状況とともに体重の推移,血液データなどをモニタリングします。また,生活のリズムや食事環境について多職種で検討し,介入内容について修正を行います。

看護診断と看護の実際

#1 栄養摂取消費バランス異常:必要量以下
【診断指標】食物摂取量が1日当たりの推奨量よりも少ない
【関連因子】認知機能低下に起因する拒食で,食物を摂取できない。不十分な栄養管理で食事摂取量の不足。廃用で筋力の低下による易疲労性

目標
・経管栄養を併用のもと,1日の必要エネルギー量1600 kcalを経口で摂取できる(1か月)

介入内容
・体重や血液検査の推移から,栄養提供量・活動(リハ)強度を検討
・口腔ケア,排便コントロールの実施
・摂食嚥下に対する間接・直接訓練の実施(ST)
・車椅子への移乗,歩行導入訓練(PT/OT)
・食に対する本人の思いを聴取,食環境の整備
・周辺症状の観察と医師との薬剤調整

 生命の危機的状態でしたが,本人・家族の希望や介護抵抗などの意思表示が見られたことから,refeeding症候群に注意しながら,TPNで全身管理を開始しました。


介入後の経過

 早期よりST訓練を行っていましたが,経口摂取が進まず,本人と相談の上,2週目より経口摂取ができるまでは経管栄養(1600 kcal/日)を継続しました。また,当初より看護師とリハスタッフは,本人のペースにできるだけ合わせたケアや離床,リハを実施しました。時間がかかっても,できることは本人にやってもらうことで,「なじみの関係」が徐々に構築され,介護抵抗はなくなりました。

 3か月目に入ると経口摂取量は増えましたが,「以前から朝食は食べない」という本人の強い希望で,必要量の摂取確保のため,本人・家族の同意のもと胃瘻造設。朝食は栄養剤(600 kcal)注入,昼・夜のみ経口食(1200 kcal)となりました。炎症所見の改善に時間を要しましたが,4か月後に体重40 kg(+8 kg),Alb 3.0 g/dLと改善し,6か月後の退院時は,体重45 kg(+13 kg),Alb 3.5 g/dL,MMSE 18点(入院1か月から5点改善),FAST stage 4,排泄も自立となり,歩いて自宅に戻りました。

今日からこれを始める!

●認知症の人は,病気や環境の変化により,「食」に影響を及ぼしますが,多くの場合自ら訴え,改善することはできません。そのため看護師による食支援では多視的な観察と評価が重要です。
●高齢だから,認知症だからと安易にとらえず,24時間生活を看護る(みまもる)看護師は,多職種と情報共有し,患者・家族の希望に沿える方向性や介入方法を検討しましょう。
●ADL・QOLのために栄養と活動(リハ)のバランスを考えて進めていきましょう。

つづく

参考文献・URL
1)山口晴保編著.認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント.第3版.協同医書出版社;2016.
2)厚労省.認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン.2018.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
3)山田律子.認知症の人の食事支援BOOK.中央法規出版;2013.
4)J Am Med Dir Assoc. 2016[PMID:27816484]