MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.06.11
Medical Library 書評・新刊案内
《ジェネラリストBOOKS》
病歴と身体所見の診断学
検査なしでここまでわかる
徳田 安春 著
《評 者》奥村 貴史(北見工業大教授・保健管理センター長)
診断における身体所見と医療用人工知能
患者は苦しんでいるものの,検査に目立った異常が出ない急性腹症などは,鑑別が想起されたとしても面倒を伴う。他覚的な所見に乏しい不定愁訴に診断を付けようと試みる際も,疑わなければ糸口にすらたどり着けない。ここには,ある種の技が求められる。臨床にかかわる者は,誰しもこうした際の対処法を身につけていよう。しかし,個人的な経験と勘に頼っている限り,まさにその経験により作られたバイアスの罠にからめとられてしまう。
この問題に,医学は,「診断特性の疫学」で応えようとしてきた。とある所見が得られている際,自分の疑う疾患の可能性はどれだけ高まるのか。複数の鑑別疾患の間で,より確からしいのはいずれか。診断に際し,われわれは無意識にこうした「確からしさの概算」を行っているという。EBMはそれを体系化し,経験と勘の本質を定量的に明らかにしてきた。しかし,こうした方法論を誠実に適用し診断精度の向上につなげていくのは容易でない。トップランナーは,メジャーなジャーナルの症例を絶えず追い,2万本もの論文をノートしているという。これは,常人ができる努力の域を大きく超える。
本書は,わが国におけるそうした試みを牽引(けんいん)してきた著者が見いだした方法論のエッセンスといえる。導入として,診断確率の基本を復習したうえで,身体所見が診断確率にいかに影響するのか,付録となっているノモグラム(Fagan's nomogram)というツールを用いて繰り返し実演する。こうして,主要な所見の特性を理解し使いこなすために厳選された19の実例が収められている。本書は,筆者が述べるように,研修医からベテランまで,あらゆる医師に読まれることを想定している。その“野望”に向けて,初学者向けの演習だけでなく,この方法論が確立してきた背景と,さらに掘り下げていくための道標が合わせて示されている。
実は,出版社より本書の書評を依頼された後,あれこれとお断りの文面を考えていた。著者とは,私が続けてきた医療用人工知能研究を通じて知遇を得た。そして,先日,著者本人より改めて書評を求められたことで,いよいよ観念して本書を開いた。そしてすぐ,本書を手にする機会を得た幸運に感謝した。つまるところ,“生身の臨床医が到達し得た頂点がここにあり,自分たちの言語化し得るノウハウは全て開示する。人工知能により医師を支援するなどという不遜な態度をとるならば,せめてこの水準は超えてみせろ”という挑戦と受け取った。この書評をお受けしなければ,高名な臨床家からの挑戦に隠されたエールと,本書に含まれるいくつもの重要な研究上のヒントに気付けなかったに違いない。
良書との出会いには運がかかわる。他の読者が,形は違えども私と同じ幸運を感じていただけることを願っている。
A5・頁210 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03245-2


鶴田 大輔 編
《評 者》椛島 健治(京大教授・皮膚科学)
名付けて“市大マニュアル”
以前私が内科のレジデントをしていた時分,白衣のポケットに必ず入っていたのは,『Washington Manual』と抗菌薬に関する『熱病』という2冊の本でした。おかげで,どこにいても何とかなるという安心感がありました。
皮膚科に入局してからは,それらの本を持ち歩く必要もなくなり,持病の肩凝りは随分と楽にはなったものの,薬の名前が思い出せなかったりして不便を感じる機会が増えてきました。
現在,ちまたにはテキストが溢れ返る一方で,若者たちはテキストを買わずにスマートフォンでシャカシャカと検索にいそしんでいますが,これも意外に効率が悪いです。
そんなご時世に,皮膚科医が持たずにはおれないテキストが発売になりました。この『皮膚科レジデントマニュアル』は皮膚科における『Washington Manual』のようなものです。とにかく白衣のポケットにすっぽりと収まることがありがたい!
小さなマニュアルでありながら,実は,主な皮膚疾患の診断,検査,治療など診療に必要な知識が凝縮されています。なんと,乾癬における生物学的製剤の最新情報や,エリテマトーデスではヒドロキシクロロキンまで載っているではありませんか。外来や病棟ですぐに参照できる設(しつら)えとなっており,知識の確認に役立つのみならず,専門医試験をめざす方々にもかなり有益なのではないかと思います。個人的には,「薬疹の原因薬剤」一覧にかなり助けられそうです。その他,ダーモスコピー所見,皮膚疾患がどの部位に認められやすいかが一目でわかるイラストなども付いています。
この教書は,阪市大皮膚科の鶴田大輔教授による編集のもと,医局員の方々により執筆されたものであり,阪市大の英知の結晶といえます。それ故,『皮膚科レジデントマニュアル』ではなく,“市大マニュアル”と私は呼んでいます。臨床医の要求にかゆいところまで手が届く内容でありながら,スマートフォンのように手軽に携帯できてしまうテキストです。今後末永く,皮膚科医にとって欠かせない一冊となることでしょう。
B6変型・頁346 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03439-5


伊藤 利之 監修
小池 純子,半澤 直美,高橋 秀寿,橋本 圭司 編
《評 者》安保 雅博(慈恵医大教授・リハビリテーション医学)
こどものリハにかかわる多職種に有意義なテキスト
日進月歩で成長を続ける医療水準を背景に,少子高齢化が進んでいます。このことは,要するに「障害を持った人が増える」ということになります。しかもこの世の中,今後さらに情報化社会が進み,価値観の相違や権利意識,個別化,自己主張はより強くなるでしょう。また,必要な時期に必要なサービスを受けられる環境を求められるでしょう。
例えば,おとなの場合,地域包括ケアシステムを構築できる資質と環境があり,高度急性期医療や急性期医療,地域包括ケア病棟,回復期リハビリテーション後の在宅施設,サービスを周辺に整備することによりチームケアや情報の共有が可能となり,住み慣れた地域においてノンストップで最期まで安心して任せることが可能になるところに,全てが集約されていくことになるでしょう。まさに,これからは医療と介護がしっかりと手を取り1人の人を最期までサポートできる体制づくりが必須となるでしょう。
この本の対象になる「こども」の構成も時代の流れで大きく変わってきています。私が病院で拝見する「こども」は近年,肢体不自由児が減少し,その代わりハイリスクのこどもや重複障害を持つこどもが増加していること,特に精神系発達障害を持つこどもが増加していることを強く感じます。医療関係者の方々も同じように感じられる人が多いのではないでしょうか。このようなこともあり,この『こどものリハビリテーション医学 第3版』は,第2版に比べ,ページ数を大幅に削減しながら,カラーを多く使い,多くの項目をコンパクトにまとめています。しかも,こどもの対象構造の変化を加味し,DSM-5を踏まえ,第4章「精神発達の障害」の割合を増やし充実を図っている特色がみられます。
「こども」を診察するうえで重要なことは,通常の身体的診察や精神運動発達評価に基づき,一般的な治療やリハビリテーション治療を行うことによって,運動機能や精神機能の改善を図るのは言うまでもありませんが,発達段階に応じての日常生活や社会参加状況を含めた包括的な評価を行うことで,社会参加の可能な環境を整備することも当然しなければなりません。また,もちろんそこには福祉制度に関する幅広い柔軟な知識も必要になってきます。
まさに本書は,この辺りを幅広く理解しやすいように配慮している教科書といえると思います。よって,こどものリハビリテーションにかかわる多くの領域の医師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,看護師,社会福祉士など,関連する多職種の方々にとって,とても有意義なものになることは間違いないと感じます。
B5・頁416 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03217-9


吉村 知哲,田村 和夫 監修
川上 和宜,松尾 宏一,林 稔展,大橋 養賢,小笠原 信敬 編
《評 者》奥田 真弘(三重大病院教授・薬剤部長)
がん薬物療法にかかわる医療スタッフに広く勧めたい
がん治療の柱の一つであるがん薬物療法は日進月歩であり,毎年新規薬剤が投入され,治療の質が向上している。一方で,がん薬物療法は年々高度化,複雑化し,適正に実施する上で薬剤師の関与が必須となっている。がん薬物療法は副作用マネジメントが重要であり,抗がん薬の種類や患者状態に合わせて適切な支持療法を選択したり,副作用情報を患者と共有して早期に対応したりすることが不可欠である。本書は,がん薬物療法に対する高い専門性を有し,豊富な知識と臨床経験を有する薬剤師が分担で執筆したものであり,がん薬物療法にかかわる医療スタッフに求められる副作用管理のポイントがわかりやすくまとめられている。
本書は26章から構成され,第1章では抗がん薬の代表的副作用の種類,発現時期やモニタリングのポイントが要約されており,第2章と第3章ではがん薬物療法を受ける通院患者を念頭に,患者面談における副作用管理のコツや経口抗がん薬のアドヒアランス確保のためのポイントが記載されている。
第4章以降は,23種類の代表的な副作用が章別に取り上げられており,各章において,副作用を引き起こす抗がん薬の種類とその発現率,副作用を評価するためのポイントなどが箇条書きで読みやすくまとめられている。がん薬物療法を受ける患者は,しばしば副作用と類似の症状を引き起こす他の疾患や併用薬を伴うため,鑑別が必要になる。本書では,抗がん薬に起因する副作用と他の要因による症状を鑑別するため,問診で確認すべきポイントが一覧表に示されており実践的である。個々の副作用に対する対策のポイントが解説され,引用文献リストも充実しているので,薬剤師が医師に副作用対策を提案する上でも有用である。
本書ならではの工夫として,副作用別に典型的な症例が提示されており,副作用の鑑別方法や副作用対策が例示されている。本書は副作用管理の観点からまとめられたマニュアルであるが,読者が薬物名や副作用の症状から対策を調べたい場合は,巻末に充実した欧文・和文別の索引が掲載されているので,容易に目的とする項目に到達できるであろう。
最後に本書では随所に「ひとことメモ」やイラストが挿入され,紙面も見やすく丁寧に構成されており編集者の細やかな配慮が感じられる。評者の施設でも早速本書を複数導入し,がん薬物療法にかかわる薬剤師を中心に活用し重宝している。本書は薬剤師だけでなく,がん薬物療法にかかわる医療スタッフに広くお薦めできる完成度の高いマニュアルである。
B6変型・頁314 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03532-3


萩原 將太郎 著
《評 者》山中 克郎(諏訪中央病院総合内科)
内科医に必要な最新知識と初期対応をわかりやすく解説
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