病歴と身体所見の診断学
検査なしでここまでわかる

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病歴と身体診察で得られた情報から、臨床疫学的なアプローチで、精度の高い診断を目指そう! 本書は、症例をもとに、指導医と研修医の問答形式で感度・特異度・尤度比の使い方が学べる実践書。付録には、即戦力となる「尤度比一覧」のPDF(ダウンロード形式)を収載。
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『≪ジェネラリストBOOKS≫病歴と身体所見の診断学-検査なしでここまでわかる』第4章 尤度比一覧[12頁 約573KB]
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シリーズ ジェネラリストBOOKS
徳田 安春
発行 2017年11月判型:A5頁:210
ISBN 978-4-260-03245-2
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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 診断の7割から8割は病歴聴取と身体診察の組み合わせで可能である,とよくいわれます.でも,それはエキスパート診断医のパフォーマンスのことだから,自分たちレジデントや若手医師にはちょっと無理なんだよなぁ,などと考える人も多いのではないでしょうか.

 テクノロジーテネスムスという現象もあります.早く(あるいは診察より先に?),血液検査と画像検査を出して,確実に診断していきたいという切迫感です.
 でも,エキスパート診断医の診察風景をみてみましょう.彼らは病歴と診察に基づいて検査の適応を決めています.闇雲に検査しているのではなく,必要な検査を必要な場面で行っているのです.

 実は,エキスパート診断医の思考過程を分析しそれを身に付けることによって,レジデントや若い医師たちでも診断能力を飛躍的にアップさせることができます.
 エキスパート診断医は,無意識の暗黙知(tacit knowledge)を利用して診断しています.この暗黙知,実は究極的には条件付き確率理論なのです.ベイズの理論ともいいます.

 例えば,風邪症候群かインフルエンザかの鑑別診断において,インフルエンザの流行を考慮した検査前確率を考え,症状や所見を複数組み合わせることによって次から次と診断の確率を変化させる.このような条件付き確率の計算を無意識のうちに脳内で行っているのです.
 もちろんこのような計算をエキスパート診断医がすべてのケースで実際に行っているわけではありません.精密な計算ではなく,ザックリとした確率の変化と,鑑別診断の間での確率の比較です.

 そして,さまざまな症候に対してこの方法を無意識に身につけると,エキスパート診断医になれます.ただし,それには長い年月に及ぶたくさんの臨床経験が必要になります.

 そこで私は本書を企画することにしました.
 本書を読むことで,臨床経験がそれほどなくてもエキスパート診断医になる方法論を意識した知識(explicit knowledge)としてマスターすることができると考えます.コモンな症候に対するアプローチを対話形式で臨床現場をリアルに再現しました.細かい計算はスキップして,できるだけノモグラムを使用しました.

 本書は雑誌『総合診療』誌で連載(24巻9号~26巻3号)した内容に大幅に加筆して成書としたものです.連載では杉本佳子氏と滝沢英行氏にたいへんお世話になりました.そして今回の書籍化にあたり,上田剛士先生は本書の企画に快く助けにきてくれました.そして私にとって貴重な座談会も行うことができました.また,本書の編集には藤島英之氏から有益な助言をたくさんいただくことができました.この4人のエキスパートの助けのおかげで本書を出すことができました.心より御礼を申し上げます.

 平成29年11月
 徳田安春

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第1章 診断の精度を上げるために
 1 診断における臨床疫学の基礎
 2 診断の精度を上げるために-対談:徳田安春×上田剛士

第2章 病歴と身体所見の診断学19番勝負
 1 風邪症状-インフルエンザか?
 2 脱水の診断-身体所見で否定できるか?
 3 肝硬変の診断-身体所見でどこまでわかる?
 4 呼吸困難の診断 その1-心不全?COPD?肺塞栓?
 5 呼吸困難の診断 その2-心不全?COPD?肺塞栓?
 6 呼吸困難の診断 その3-肺塞栓?
 7 肺炎の診断-気管支炎か,肺炎か?
 8 咽頭痛-Centor スコアを乗り越えろ!
 9 胸痛-急性冠症候群? 大動脈解離?
 10 上腹部痛-Murphy 徴候は陰性でも!
 11 腹部膨満-腹水はあるか?
 12 腰痛-感染? 腫瘍? あるいは椎間板ヘルニア?
 13 下腿の腫脹-蜂窩織炎か? DVT か?
 14 めまい-危険なめまいか?
 15 手のしびれ-手根管症候群か?
 16 手のふるえ-パーキンソン病か?
 17 低アルブミン血症-低栄養か?
 18 アルコール依存症か?-問題飲酒を見極める
 19 原因不明の身体症状-うつ病か?

第3章 診断特性の研究を読む

第4章 尤度比一覧

文献
索引

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開業医の貴方も臨床の達人になれます(中高年医師の復活)
書評者: 中西 重清 (中西内科・院長)
 クリニックの外来に備えておくべき必読書が出版された。これを読破し目の前の患者さんに応用すれば,日常診療のコモンな症候に対して,検査なしで診断に迫れます。開業医も高齢化が進んでおり,読みやすい(文字が大きい),わかりやすい,患者さんに簡単に応用できる臨床本が必要です。ある症候に遭遇した際に,診断の肝(キモ)である病歴を聴取し身体診察を行い,陽性と陰性所見を数値化し,それを合算して,診断の確からしさを導き出します。数値が高ければ,診断の確からしさ(検査後確率)が高まり,検査は確認するだけの作業になります。検査偏重の自分から脱却できるかもしれません。例えば熱があるから条件反射的にインフルエンザ迅速検査,CRP検査を行う必要がなくなり,疾患の確率を考えて検査する医師に変貌できます。

 第1章では,徳田安春先生と上田剛士先生の熱い思いが語られています。お二人とも「21世紀適々斎塾」(大阪開催)の理事であり,臨床推論の達人です。この本と上田先生執筆の『ジェネラリストのための内科診断リファレンス』(医学書院,2014)があれば,開業医にとっては鬼に金棒でしょう。

 第2章は19種類の各論から構成されており,コモンな症候から診断の確からしさを推測します。
 「症候1」は,風邪症状がインフルエンザらしいか否かについてです。当院で研修中の研修医,看護師,私で,どこまでインフルエンザに迫れるか応用してみました。インフルエンザの確定診断は迅速検査陽性としました。まず,検査前確率を推測します。流行していれば,10%くらいになりますし,流行していなければ,0.1%になります。患者さんの症状と所見から尤度比を導き,それらを合算します。ノモグラムを使い,検査前確率と尤度比から検査後確率を算出します。尤度比が高ければ診断精度も高くなり,検査を行わなくても,結果は推測可能となります。使用方法に慣れてくると,医療関係者自身の診断確率が高まります。インフルエンザの流行時期にこの方法を繰り返せば,インフルエンザ診断の達人になれるはずです。実際に当院では,「どれくらい,インフルエンザらしい?」という質問に研修医が解答できるようになってきました。なんども同じ作業を繰り返すことが大切です。

 インフルエンザ以外にも脱水,肝硬変,呼吸困難,肺炎,咽頭痛,胸痛,腹痛,腹水,腰痛,下腿腫脹,めまい,手のしびれ,手のふるえ,低アルブミン血症,アルコール依存,原因不明の身体症状が取り上げられています。これらの症候に対し尤度比算出を繰り返すと,重要な問診と診察が自然にマスターできます。

 いやあ,医者の仕事って本当に楽しいです。患者さんから一生懸命に話を聴き,的確な診察をすれば自然に正しい診断ができる。これって,開業医(プライマリ・ケア医)の真骨頂だと思いませんか? 対談の中で,“もし本書を入門書として読めば,日本の医療の質が変わる可能性がある”と記述されています(p.29)。あなたも,明日から自分自身の医療を変えてみませんか!

 本を購入すれば,「尤度比一覧(診断に役立つ症状・所見一覧)」のPDFを医学書院webサイトからダウンロードできます。私は,電子カルテにPDFを置き診療に役立てています。素晴らしい時代になったものです。
診断における身体所見と医療用人工知能
書評者: 奥村 貴史 (国立保健医療科学院・特命上席主任研究官)
 診断に,難渋するときがある。
 患者は苦しんでいるものの,検査に目立った異常が出ない急性腹症などは,鑑別が想起されたとしても面倒を伴う。他覚的な所見に乏しい不定愁訴に診断を付けようと試みる際も,疑わなければ糸口にすら辿り着けない。ここには,ある種の技が求められる。臨床にかかわる者は,誰しもこうした際の対処法を身につけていよう。しかし,個人的な経験と勘に頼っている限り,まさにその経験により作られたバイアスの罠にからめとられてしまう。

 この問題に,医学は,「診断特性の疫学」で応えようとしてきた。とある所見が得られている際,自分の疑う疾患の可能性はどれだけ高まるのか。複数の鑑別疾患の間で,より確からしいのはいずれか。診断に際し,われわれは無意識にこうした「確からしさの概算」を行っているという。EBMはそれを体系化し,経験と勘の本質を定量的に明らかにしてきた。しかし,こうした方法論を誠実に適用し診断精度の向上につなげていくのは容易でない。トップランナーは,メジャーなジャーナルの症例を絶えず追い,2万本もの論文をノートしているという。これは,常人ができる努力の域を大きく超える。

 本書は,わが国におけるそうした試みを牽引してきた著者が見いだした方法論のエッセンスといえる。導入として,診断確率の基本を復習したうえで,身体所見が診断確率にいかに影響するのか,付録となっているノモグラム(Fagan’s nomogram)というツールを用いて繰り返し実演する。こうして,主要な所見の特性を理解し使いこなすために厳選された19の実例が収められている。本書は,筆者が述べるように,研修医からベテランまで,あらゆる医師に読まれることを想定している。その“野望”に向けて,初学者向けの演習だけでなく,この方法論が確立してきた背景と,さらに掘り下げていくための道標が合わせて示されている。

 実は,出版社より本書の書評を依頼された後,あれこれとお断りの文面を考えていた。著者とは,私が続けてきた医療用人工知能研究を通じて知遇を得た。そして,先日,著者本人より改めて書評を求められたことで,いよいよ観念して本書を開いた。そしてすぐ,本書を手にする機会を得た幸運に感謝した。つまるところ,“生身の臨床医が到達し得た頂点がここにあり,自分達の言語化し得るノウハウは全て開示する。人工知能により医師を支援するなどという不遜な態度をとるならば,せめてこの水準は越えてみせろ”という挑戦と受け取った。この書評をお受けしなければ,高名な臨床家からの挑戦に隠されたエールと,本書に含まれるいくつもの重要な研究上のヒントに気付けなかったに違いない。

 良書との出会いには運がかかわる。他の読者が,形は違えども私と同じ幸運を感じていただけることを願っている。
問診と身体診察,臨床疫学を学んで名医をめざそう!
書評者: 小野 正博 (都立松沢病院・内科部長)
 徳田安春先生の『病歴と身体所見の診断学』を拝読した。一読してこれは画期的な本だと思った。それは凡人が名医に到達する方法が書かれていると思ったからである。

 この本の「序」では,エキスパート診断医の無意識の暗黙知とは一体何なのかということが説かれている。通常この暗黙知については,エキスパート診断医本人も説明できず,ブラックボックスであると考えられている。それを徳田先生は「この暗黙知,実は究極的には条件付き確率理論なのです。ベイズの定理ともいいます」と喝破されている(「序」より)。

 ベイズの定理と言うと事前確率をオッズに変換し,尤度比をかけて得られたオッズをさらに変換して事後確率を得るという煩雑なイメージがある。確率とオッズの変換が苦手な私は,実際に尤度比を使って診断したことはなかった。そもそも事前確率をどのように見積もるのか,ということもわかっていなかった。この本には事前確率の求め方の一つとして「稀であれば0.1%,比較的コモンであれば1%,かなりコモンであれば10%」というざっくり見積もる方法が紹介されている(p.16)。またノモグラムを使用するため,事前確率と尤度比がわかれば面倒な計算をせずに事後確率を得ることができる。

 以前からよくわからなかったのは,症状や所見の尤度比が教科書に書かれていても,どのような場合にそれらを組み合わせてよいのかということだ。それらの症候が「独立」であれば組み合わせてよく,「独立」でなければ組み合わせてはならないのだが,私は今まで具体例を挙げて説明しているものを読んだことはなかった。この本では全19症例の全てで,毎回尤度比とは何か,事前確率はどのように求めるか,どの症候の尤度比を組み合わせるかということが繰り返し具体的に説かれている。例えば,インフルエンザを疑う場合,発熱+咳,倦怠感,悪寒は「独立」と考えられるから組み合わせてもよい。逆に,肝硬変を疑う場合,手掌紅斑とクモ状血管腫はいずれも高エストロゲン血症に関連していて「独立」していないため,それらの尤度比を組み合わせて使うことはできない。このようなことを具体的に書いてある本を読んだのは初めてで,大変勉強になった。

 臨床医には事前確率を判断する能力,診断に有用な症候を見出す能力,症候の尤度比を適切に使って診断する能力が求められているし,実際にできるのだと教えていただいた。これを励みにあらためて問診と身体診察,臨床疫学を勉強したいと思った。また,研修医の身体診察の能力が落ちていると言われる欧米に代わり,世界の医療をリードするのは,Japan Physical Club(部長:平島 修先生)などで盛り上がっている日本しかないとの思いを強くした。

 本書には上田剛士先生との対談も収められており,これが実に面白かった。上田先生が学生時代からACPジャーナルクラブの“Diagnostic Strategies for Common Medical Problems”やJAMAの“Rational Clinical Examination”シリーズを読んで勉強し,2万本もの論文を集められたことを知って驚嘆した。名著『ジェネラリストのための内科診断リファレンス』(医学書院,2014)を著すことができたのもむべなるかなと納得がいった次第である。

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