医学界新聞

2018.06.04



まちづくりから考える人生の最終段階
日本在宅医学会第20回記念大会開催


 厚労省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が2018年3月に改訂された。4月29~30日開催の日本在宅医学会第20回記念大会(大会長=あおぞら診療所・川越正平氏,会場=グランドプリンスホテル新高輪)のシンポジウム「望まない延命治療をしないためのまちづくり――救急医療と在宅医療の有機的な連携のためにできること」(座長=ドクターゴン診療所・泰川恵吾氏,慶大・山岸暁美氏)では,住民の生活を支援する「まちづくり」の観点から,人生の最終段階の在り方を考える各地の取り組みが紹介された。

住民の生涯を包括したICT活用を

川越正平大会長
大会長講演では,地域を一つの“バーチャル病院”ととらえるまちづくりを提唱した。
 全国平均を上回る高齢化率の千葉県松戸市(人口49万人)は今後,高齢者の救急搬送の増加が予想される。松戸市立総合医療センター救急医の村田希吉氏は,同市内の行政,医療,介護や医師会などの職能団体による共同事業として実施される「救急医療と在宅医療・介護の連携促進事業(ふくろうプロジェクト)」を紹介した。緊急時に本人の意向に沿った対応ができるよう,あらかじめ治療や療養の希望を記載した「ふくろうシート」を医療福祉従事者と共有することが目的の一つ。高齢者本人の意向が尊重された救急搬送や病診連携が可能か,ふくろうシート介入群と非介入群の2群に分けて調査を進めている。氏は「住民と消防局,救急医療スタッフの満足度も検証したい」と述べた。

 中野智紀氏(東埼玉総合病院)は,2012年度から運用開始の「埼玉利根保健医療圏地域医療ネットワークシステム(とねっと)」の今後の可能性を解説した。とねっとは,患者の情報を地域の病院などで共有するシステムで,患者の電子カルテや臨床検査,画像検査などの情報を圏内の医療機関や消防本部が把握できる。とねっとに登録した住民には「かかりつけ医カード」が発行され,救急搬送時には救急隊員がモバイル端末で患者情報を参照できる。氏は,全住民の生涯にわたる情報共有も今後可能になるとし,「生涯を通じた伴走型支援の実現にICTの活用は有用」と語った。

 大阪市浪速区は救急医療と在宅医療の両立をめざし,急変時対応の「ブルーカードシステム」を2009年に,多職種連携システム「Aケアカード」を2016年に導入した。同区医師会の久保田泰弘氏によると,同区住民を対象に患者情報を事前に登録するブルーカードの導入で,緊急時の受け入れ拒否が皆無となり,搬送所要時間も導入以前より平均7~8分短縮したという。Aケアカードは区内の医師,歯科医師,薬剤師,訪問看護師,ケアマネジャーの持つ患者情報をコンピュータで管理し多職種で共有するシステムで,救急搬送時にも最新情報が確認できる。データをもとに,「将来的には,患者に役立つ情報のフィードバックに役立てたい」と展望を話した。

 宮崎市は,人生の最期をどう迎えたいかを記す小冊子「わたしの想いをつなぐノート」を作成し,市職員が希望者本人に手渡しで配布している。この取り組みにかかわる板井孝壱郎氏(宮崎大病院)は,市民一人ひとりが意思決定能力の低下に備え将来を考えるには,「エンディング・ノート」のような一過性の流行にとどまらず,地域特性に根ざした実効性ある仕組みづくりが必要と指摘。Advance Life Planningの視点を持った「『どんな暮らしをするか』を支える情報提供・支援体制の整備が大切」と訴えた。

 指定発言の山口道子氏(厚労省)は,人生の最終段階の医療に関する厚労省の検討会や国民調査の経過を報告。2017年度開始の,患者の意思を関係機関で共有するための連携ルール策定を支援する「在宅医療・救急医療連携セミナー」を紹介した。