紹介患者のピットフォール(皿谷健)
連載
2018.05.14
身体所見×画像×エビデンスで迫る
呼吸器診療
肺病変は多種多彩。呼吸器診療では,「身体所見×画像×エビデンス」を駆使する能力が試されます。CASEをもとに,名医の思考回路から“思考の型”を追ってみましょう。
[第11回]紹介患者のピットフォール
皿谷 健(杏林大学呼吸器内科 講師)
(前回からつづく)
今回は番外編として,開業医や他科の先生から紹介されることがある症例の中で,特に注意しておきたい疾患を2つ紹介します。
喀痰の喀出で消失するwheezesの原因は?
CASE 1 50歳女性。主訴は2年前からの労作時呼吸困難感と時々の喘鳴(wheezes)。脂質異常症で45歳から治療中。使用中の薬剤はスタチン系薬1剤のみ。家族歴なし,喫煙歴なし,飲酒なし。Vital signsは問題なし。頸部では気道の両側に柔らかい数cm大の腫瘤性病変を触知するが,熱感や発赤なし。発汗なし。頸部で時々のwheezesを聴取する(吸気および呼気時の両方で)。胸部ではwheezesを聴取せず。鎖骨上窩リンパ節や頸部リンパ節の明らかな腫脹なし。初診時の画像所見は図1の通り。
図1 胸部X線画像(A)と頸部CT画像(B,C)(クリックで拡大) |
Wheezesの鑑別については第2回(3236号)の図2,頸部も含めた丁寧な聴診の重要性は第7回(3255号)で紹介しましたね。Wheezesでは気管支喘息を必ず鑑別に挙げますが,気道狭窄や心臓喘息も考慮すべきです。Wheezesを生じさせる気道狭窄の原因には,甲状腺腫,肺癌や他臓器癌のリンパ節や気管への転移による気管内腫瘍/壁外圧迫,気管支内異物などがあります。本症例では身体所見(頸部の腫瘤)から,甲状腺腫が最も疑われ,X線画像でも確認できました(図1 Aの矢印)。また,診断のヒントになったのは,「患者が咳払いをして喀痰を喀出するとwheezesが一気に消失したこと」です。
呼吸機能検査を追加オーダーすると,呼気時の波形がやや平坦に見え,山の頂上の部分の波形が乱れていました(図2)。これは中枢気道狭窄を疑うパターンです。頸部CTでも著明に腫大した甲状腺腫による気道の圧排,内腔の狭小化を認めたことから(図1 B,Cの*),甲状腺腫による中枢気道狭窄との診断に至りました。本症例では恐らく,喀痰のちょっとした貯留がwheezesの出現に関与していたと考えられます。
図2 初診時呼吸機能検査 |
一般的には,wheezesが無治療のまま短時間で消失するという状況はあまりありません。しかし,気道狭窄のある部分でのちょっとした浮腫の増強や喀痰の存在がwheezesの原因となり得ます。本症例のように気道狭窄に喀痰を合併した場合や心臓喘息の場合は,体位変換や短時間
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ
[第22回] 高カリウム血症を制するための4つのMission連載 2024.03.11
-
対談・座談会 2025.02.04
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
最新の記事
-
2025.01.14
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する カラー解説
創薬における日本の現状と国際動向寄稿 2025.01.14
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する
国民に最新の医薬品を届けるために対談・座談会 2025.01.14
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する
医薬品開発の未来を担うスタートアップ・エコシステム/米国バイオテク市場の近況寄稿 2025.01.14
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する
患者当事者に聞く,薬のことインタビュー 2025.01.14
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。