アルミニウム・認知症・HPVワクチン(今村文昭)
連載
2018.03.05
栄養疫学者の視点から
栄養に関する研究の質は玉石混交。情報の渦に巻き込まれないために,栄養疫学を専門とする著者が「食と健康の関係」を考察します。
[第12話]アルミニウム・認知症・HPVワクチン
今村 文昭(英国ケンブリッジ大学 MRC(Medical Research Council)疫学ユニット)
(前回よりつづく)
アルミニウム(Al)の毒性は一世紀をさかのぼる歴史のある題材です[JAMA. 1911;LVII(10):816-21]。1970年代あたりからアルツハイマー病患者の脳へのAl蓄積が確認され,その毒性に関する仮説が今日まで諸所の注目を浴びてきました(Science. 1973[PMID:4735595])。その科学は近年,疫学の趨勢とHPVワクチンの政策とともに興味深い様相を示しています。
長期の追跡研究でもAlの摂取量とアルツハイマー病罹患率との関係を示すものもあります(例:Am J Epidemiol. 2009[PMID:19064650])。しかし,再現性,交絡因子の懸念,水道水や食品由来のAl摂取量,吸収率などから,通常の食生活で摂取する量での毒性について懸念するに足る有力な証拠はないとされています1)。
では,10代の少年少女に対するAlの筋肉内注射は安全でしょうか。認知症というアウトカムは考えにくいですが,HPVワクチンの有害事象との関係を考察する必要があるようです。なぜならHPVワクチンではAlがワクチン効果の補強剤(アジュバント)として常に用いられているからです。しかしAlアジュバントの安全性について次の理由で答えが出せません。
■HPVワクチンの有効性や安全性を検証する臨床試験のほぼ全てで,介入群と対照群ともにAlアジュバンドを接種しています(BMC Infect Dis. 2011[PMID:21226933],J Pharm Health Care Sci. 2017[PMID:28702209])。ワクチンの効果を検証する研究として不適切ではないものの,Alアジュバントの効果や「ワクチンを打たない」という選択肢との比較結果を既存の臨床試験から導くのは不可能です。
■Alアジュバントの副作用を検証したメタ解析で...
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