医学界新聞

連載

2018.01.29



目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症

がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。

[第20回]固形腫瘍と感染症④ 注意すべき4つの感染症

森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科副医長)


前回からつづく

 「固形腫瘍と感染症」の最後となる今回は,固形腫瘍で特に注意すべき感染症について解説します。脳腫瘍におけるニューモシスチス肺炎(Pneumocystis jirovecii pneumonia;PCP),大腸がんに関連する細菌感染症,ベバシズマブ(アバスチン®)による感染症リスク,膀胱がんに対するBCG膀胱内注入療法後のBCG感染症の4つについて症例を交えてお話しします(表1)。

表1 固形腫瘍において特に注意すべき4つの感染症(クリックで拡大)

脳腫瘍ではPCPに注意

症例1
 71歳女性。膠芽腫(グリオブラストーマ)に対して腫瘍摘出術後,放射線療法およびテモゾロミドによる治療を行っている。今回は来院1週間前からの微熱と労作時呼吸困難を伴う乾性咳嗽を主訴に受診。
 来院時意識清明,血圧138/84 mmHg,脈拍数88/分,呼吸数24/分,体温37.1℃, SpO2 93%(RA)。身体所見上,頭部の手術創に感染徴候なく,その他頭頸部,胸腹部,背部,四肢に異常所見なし。胸部単純X線写真で両側に対称性にびまん性のすりガラス影を認め,胸部CT検査でも末梢肺野に正常部分を残したびまん性すりガラス影あり。気管支鏡検査を施行し,グロコット染色で酵母様真菌を認めPCPの診断となった。

 PCPは血液腫瘍や造血幹細胞移植患者で圧倒的に多く見られる感染症です。第16回(3240号)でも紹介したように,ステロイドを使用すれば固形腫瘍でも発症します。ステロイドを使用せずとも注意しなければならない固形腫瘍が脳腫瘍なのです。脳腫瘍,中でも極めて悪性度の高いグリオブラストーマに対する治療として,経口のアルキル化剤であるテモゾロミドと放射線治療の併用療法があります。放射線治療単独での全生存期間中央値が12.1か月であるのに対しテモゾロミド併用療法では14.6か月と有意に改善1)し,その後の追跡調査でも5年生存率の有意な改善が証明されました2)。テモゾロミドによる好中球減少はごくわずかですが,リンパ球数の減少が問題となります。特にCD4陽性Tリンパ球数の低下が深刻でありPCP発症のリスクが増大します3)。従って,テモゾロミドを使用する際(放射線治療との併用時)にはPCPに対する予防投与が必要である4)ことを肝に銘じておきましょう。

大腸がんと感染症

 次に大腸がんに関連する細菌感染症5)についてです。ここでは2つの細菌を取り上げます。1つ目はStreptococcus gallolyticusという細菌です。以前呼ばれていたS. bovisと聞けばピンとくる方もいらっしゃるかもしれません。S. gallolyticusはD群レンサ球菌に分類されるグラム陽性球菌で,大腸がん患者では健常人と比べてはるかに高頻度に腸管内に常在していることが知られています6)。また,血液培養から検出された場合には感染性心内膜炎を引き起こしますので注意が必要です。

 もう1つの細菌はClostridium septicumという嫌気性菌で,致死率の非常に高い敗血症や壊死性筋膜炎を引き起こします7)S. gallolyticusC. septicumそのものが発がん性を持っているか否かはまだ結論が出ていませんが,これらの細菌感染症を見た場合には大腸がんの有無の確認が重要です。

ベバシズマブの注意点

 ベバシズマブ(アバスチン®)は血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)に対するモノクローナル抗体であり,血管新生や腫瘍の増殖,転移を抑制する働きがあります。転移性大腸がん,非小細胞肺がん,卵巣がんなどでよく使用されていますが,2つの重要な副作用とそれに付随する感染症を把握しておきましょう。1つ目は腸管穿孔による腹膜炎です。ただし,がん種により腸管穿孔......

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