MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.01.08
Medical Library 書評・新刊案内
神経症状の診かた・考えかた 第2版
General Neurologyのすすめ
福武 敏夫 著
《評 者》神田 隆(山口大教授・神経内科学)
初学者から専門医まで神経内科医が座右に置くべき書
この書評は京都で開催中の世界神経学会議のロビーで書いています。世界中から専門家が集まる国際学会の中にいますと,臨床神経学のバックグラウンドにある神経科学,遺伝学,分子生物学が目覚ましい進歩を遂げ,疾患の概念,考え方や治療へのアプローチが刻々と変わっていることが身を持って実感できます。
評者は2008年に研修医・医学生に向けての教科書を単著で上梓しました。2014年に大幅に内容を改訂して第2版を出版,今,第3版の準備をしています。なぜって? このすさまじい進歩のせいです,と言うしかないのですが,このたび,わが敬愛する福武敏夫先生が『神経症状の診かた・考えかた』の第2版を出されました。初版は福武先生の考え方がストレートに伝わってくる私の愛読書で,臨床のとてもよくできる同僚が(失礼)隣にいてくれる気分で読ませていただいていましたが,わずか3年余りのスピード改訂となりました。神経診察学・症候学は既に完成された体系です。大きな変化が(たぶん)ないこの分野で,どうしてこんな急な改訂が必要か? 答えはこの本の中に書いてあります。福武先生が伝えたい神経学のエッセンスがこの3年間でどんどん増えてきたこと,しっかり伝えるためにはどうしたらいいかという親切心がさらにパワーアップしたこと,別の言葉で言えば,福武先生の臨床が今なお日々進歩している証しだと思います。
医学書が売れない時代に初版が4刷を重ねたことも驚異的ですが,この第2版もリピーターを含め多くの神経内科医が座右に置くことになりましょう。誰に最も役立つ本か? 福武先生は初学者を一つのターゲットに置いておられるようで,確かに学生や研修医に有用なサジェスチョンを与える本だと思いますが,ある程度神経学の臨床経験を積んだ専門家こそ,この本の真価が理解できるものと私は思います。
B5判・頁424 定価:本体5,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03059-5
小児骨折における自家矯正の実際
骨折部位と程度からわかる治療選択
亀ヶ谷 真琴 執筆
森田 光明,都丸 洋平 執筆協力
《評 者》田中 正(君津中央病院医務局特別顧問)
豊富な臨床例を通して小児骨折治療の経験の差を埋める
小児骨折では長らくBlountの“Non-operative dogma”(非手術治療の教義)というものがあった。すなわち,小児骨折は早期の骨癒合とリモデリングのため,通常は保存的治療で良好な結果が期待できるというもので,これが小児骨折治療の常識とされていた。私が整形外科医になりたてのころは,①10歳以下の骨折は小児骨折の範ちゅうに入り,リモデリングが期待できる,②関節可動方向の変形はよく矯正される(例えば肘・膝では矢状面),③内外反/回旋変形は矯正されないと教わり,今でもこのようなことを記載している成書を見掛けることがある。
しかし,現実にはリモデリングがどの程度起きるかは,骨折の部位や骨折型により一概には言えず,「どこまで整復が必要なのか?」「手術治療の適応はあるか?」など小児骨折治療の難しさの一因になっている。日頃このような悩みを抱えている整形外科医・救急医に福音をもたらしたのが本書である。亀ヶ谷真琴先生は20年の長きにわたり千葉県こども病院整形外科などで小児疾患の治療に取り組んでこられ,今回その豊富な経験を基に本書を編さんされた。
本書は3つの章から成る。第1章は「小児骨折の特性」について総論的な内容をコンパクトにまとめており,小児骨折を扱う上での基本的な考えかたを学ぶことができる。第2章は「症例」を提示しており,読者は138例にも及ぶ臨床例を通してさまざまなリモデリングの実態を経験し,自家矯正の可能性と限界を理解することができる。また,重要な点や最新の考えかたについて,要所要所に「ポイント」としてわかりやすくまとめられているので,これだけは覚えておかなければならないという点を逃すことはない。そして最後の第3章では最近の文献の要旨を掲載し,エビデンスに基づいた最新の考えかたを示唆している。
米国の第32代大統領フランクリン・ルーズベルトの夫人であるエレノア・ルーズベルトは,“Learn from the mistakes of others. You can’t live long enough to make them all yourself.”(他人の失敗から学びなさい。あなたは全ての失敗ができるほど長くは生きられないのだから)と言っている。この「失敗」を「経験」という言葉に置き換えてみると,本書の意義がひしひしと伝わってくる。昨今,少子高齢化に伴い,われわれが小児骨折を経験する機会は減少している。しかし,現実には一般病院や診療所など臨床の現場で小児骨折を診る機会がなくなるわけではなく,時にその治療法に迷うことも多い。そのギャップを埋めるためにも,ぜひ本書を診察室の片隅に置いて活用していただきたい。
B5・頁212 定価:本体7,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03128-8
坂本 壮 著
《評 者》田中 竜馬(米Intermountain LDS Hospital 呼吸器内科・集中治療科)
救急患者の診かたの原則がわかる!
「救急」といっても,多発外傷とか心肺停止とかがひっきりなしに救急車やヘリコプターで運ばれてきて,開頭も開胸も開腹もなんでもこなしてしまうドラマに出てくるようなところばかりではありません。当直などで勤務するのは,おなかが痛かったり,めまいがしたり,なんだか普段よりボーっとしていたりといった,ごく普通の訴えの患者さんが来るような内科的な要素の強い救急外来ではないでしょうか。
ごく普通の救急とはいっても,やっぱり当直は怖くないですか? 通常の外来とは異なり,ほとんどの患者さんはあまり情報のないまっさらな状況で来て,常に真剣勝負のようなドキドキ感がありますよね。救急デビューしたての時期はもちろん,「そろそろ慣れてきたかな」と思ってからも(むしろそういうときほど)足をすくわれることが少なくありません。ウォークインだからといって軽症とは限らず,胃腸炎だと思ったら虫垂炎だったり,風邪だと思ったら髄膜炎だったり,過換気だと思ったら肺塞栓だったり,酔っぱらいだと思ったら小脳梗塞だったりと,重症患者が紛れ込んでいることもざらにあります。
かくいう私自身も初期研修医の頃にやらかした大失敗があります。いつもお酒を飲んだ帰り道に「点滴希望」で救急受診される常連の患者さんがいらっしゃったのですが,いつものごとく「点滴が終わったら帰宅可」という対応をしたところ,いつもとは違って急性肝不全を起こしていたのです。幸い優秀な看護師と上級医のおかげで対応が遅れることはなかったものの,見逃すと大変なところでした。ええ,もちろんみっちり絞られました。
救急外来において,重症を見逃さずきっちり診断をつけるために本当に役立つのは,「めまいにはこの薬」のようなあんちょこ的知識の詰め込みではなく,救急患者の診かたの原則をしっかり示してくれる「オキテ」ではないでしょうか? 私が肝不全を見逃した患者さんも,呼吸数が30回/分以上になっていて,この本で坂本壮先生が「最も重要なバイタルサイン」と力説されている呼吸数をみていれば,ただの酔っ払いではないことは即座にわかったはずなのです。
私の失敗談はともかく(それには事欠かないのですが),救急外来で診る患者さんは必ずしも典型的な症状を訴えて来てくれるわけではありません。80歳以上の心筋梗塞患者の半数には胸痛がなく,急性脳梗塞患者の半数以上が救急車ではなく独歩で来院し,大動脈解離患者の約3分の1で血圧が正常であるように,症状には幅があります。急性心筋梗塞や肺塞栓,大動脈解離,低血糖,てんかん,脳梗塞・脳出血,髄膜炎,くも膜下出血といった緊急性の高い疾患がどのような非典型的症状を呈し,お互いにどのように関連しているのか本書を読んで理解することで,救急外来での危機察知と診断の能力が格段に上がるはずです。
いわゆる赤本や青本,研修医指導虎の巻などをはじめ,救急の分野では既に素晴らしい本が多数ありますが,これらの超定番に並ぶ本がまた一冊登場しました。これから救急デビューする方も,既にビビりながら当直している方も,患者さんで悩む前に,まずはどの本を読んで当直に臨むか悩むことになりそうです。
A5・頁180 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03197-4
トワイクロス先生の緩和ケア処方薬 第2版
薬効・薬理と薬の使い方
Robert Twycross,Andrew Wilcock,Paul Howard 編
武田 文和,鈴木 勉 監訳
《評 者》木平 健治(日本病院薬剤師会会長)
豊富な薬剤情報,臨床応用性の高い知識
WHO(世界保健機関)は2002年,「緩和ケアとは,生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して,痛みやその他の身体的問題,心理社会的問題,スピリチュアルな問題を早期に発見し,的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって,苦しみを予防し,和らげることで,クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチである」と定義しています(日本ホスピス緩和ケア協会による訳)。
緩和ケアは,学際的なアプローチで患者とその家族のQOLを改善することですが,中でも肉体的・心理的苦痛の緩和には薬物療法が鍵ともなっており,医師・薬剤師を中心に提供・管理される薬物療法において,専門職として薬剤師の果たす役割は非常に大きいものがあります。
本書は,WHOのがん疼痛治療法の作成責任者などを務めた世界的権威者であるロバート・トワイクロス博士らの編集による“Palliative Care Formulary 5th Edition”の訳書です。2013年に日本語の初版が刊行され,薬剤師はもちろん,医師,看護師にも好評であり,そのニーズにも後押しされ第2版として刊行されたものです。
本書は,2部構成となっています。第I編「薬剤情報」では鎮痛薬のみならず,患者のQOLに関与する症状への対応を考慮し,消化器症状,呼吸器症状など苦痛な症状を緩和するために必要な薬剤に関して,適応,禁忌,薬理作用,相互作用,副作用等々,医薬品の適正使用に必要な情報を含めて幅広く解説されています。また,第II編「基本知識」では,緩和ケアに必須の知識・技能についてまとめてあり,臨床において極めて応用性の高い内容となっています。そしてこの内容と構成が,他に類を見ない本書の特色ともなっております。
本書の書名は『緩和ケア処方薬』ですが,第I編の内容の豊富さおよび第II編の応用性の高さから,緩和ケアに携わる薬剤師はもちろんのこと,一般の薬剤師もぜひ手元においておかれることを推奨したい一冊です。
[初出:月刊薬事.2017;59(15):127.]
A5・頁928 定価:本体5,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03031-1
仮想気管支鏡作成マニュアル
迅速な診断とVAL-MAPのために
出雲 雄大,佐藤 雅昭 編
《評 者》永安 武(長崎大大学院教授・腫瘍外科)
入門書としてもお薦めの一冊
人体を構成する全ての臓器は立体である。その中でも肺は気管支,肺動脈,肺静脈が5つに分かれた肺葉内で立体的に絡み合う複雑立体臓器である。気管支鏡に携わる気管支鏡専門医や呼吸器外科医にとって,気管支や脈管の立体的構築を念頭に置きながら肺野病変の診断,治療を行うことに,これまではいわば直観的で職人芸的な要素が必要であった。
近年,高解像度CTの普及により小型の肺末梢病変に対する気管支腔内超音波断層法(EBUS)などの新技術や,末梢小型早期肺癌に対する肺部分切除や区域切除などのいわゆる縮小手術が標準治療として一般化しつつある。このような診断,治療の多様化と普及により,手技の普遍性の維持や教育という観点からも既存の技術に加えてこれを補助し精度を高めるような新技術導入が望まれてきた。
本書は,高解像度CTデータを基に3D画像を作成することで,患者の肺内のどのあたりに病変があるかを立体的にイメージし,そこに到達するためには気管支鏡をどのように操作していけばよいかを事前にシミュレーションすることができるいわゆる“仮想気管支鏡”のための作成マニュアルである。さらにこの仮想気管支鏡と3D画像を利用して術前に気管支鏡下で肺に色素マーキングを行うことで,肺の切除ライン設定を容易にするVAL-MAP(virtual assisted lung mapping)と呼ばれる新たな手術支援法が紹介されている点も見逃せない。
本書の秀逸な点は,使用する3D医用画像処理ワークステーションを一つに絞らずに現在汎用されているZiostation®シリーズ(Ziosoft)とSYNAPSE VINCENT®(富士フイルム)の両方に対応している点である。それぞれに画面上のアイコン選択など詳細な手順や使用法が美しいカラー写真と共に記載されており,実際の取り扱いで悩むようなポイントを具体的な症例を用いてわかりやすく説明している。気管支鏡診断に携わる者にとって肺末梢病変診断の難しさは日常感じていると思われるが,本書を読むと仮想気管支鏡を用いることで未確診の肺末梢病変の診断率が向上する理由が納得できる。
また,VAL-MAPは現在進行中の先進医療を経て近い将来保険収載が期待されているが,本書では胸部CTと仮想内視鏡画像を用いて術前からの手順が詳細に説明されている。触知不可能な小結節に対する部分切除や立体的把握が難しい区域切除時の切離ラインを正確にマーキングできる新技術であり,まさに縮小手術時代の手術ナビゲーションシステムの草分けとなる可能性を秘めている。
本書は,これから仮想気管支鏡やVAL-MAPを導入したいと考えておられる熟達した気管支鏡専門医や呼吸器外科医のベッドサイドマニュアルという位置付けだけでなく,これから気管支鏡や区域切除を始める若手の先生方にとって仮想気管支鏡やVAL-MAPを理解するための入門書としても,お薦めの一冊である。
B5・頁144 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03052-6
ER・救急999の謎
志賀 隆 監修
《評 者》林 寛之(福井大附属病院総合診療部長)
スイスイ読めて短時間でパワーアップできる優れものの一冊
痒い,痒い……あ,痒くない! 痒い所に手が届くというのは本書のことを言うのだろう。とにかくERの王道からニッチなことまで多岐にわたり,臨床上の疑問に答えてくれる。何しろ一項目ずつが短いのがいい。真面目に(失礼!)解説すると結構長くて深い内容なのに,よくぞここまでコンパクトにギューギューまとめて記載したものだ。参考書100冊分を1冊にまとめた感じ,シンゴジラを一寸法師に圧縮した感じ……かしら。忙しい臨床家が隙間時間にスイスイエッセンスだけつまみ食いのように読めてしまう。まるで,ドラゴンボールの仙豆,ドラクエの薬草,ルフィの肉のように短時間でパワーアップできてしまう。これは優れものだ。
ERの独自性が随所に現れていて,指導医,研修医,ナース,学生,救急患者を診る機会のある全ての医療者に手に取ってもらいたい……ような,同業者としてはERの秘密のネタを大いにあかしてしまっているので秘密のままにしておきたい……ような,そんな気になる一冊だ。総論はERのアイデンティティが目白押しで,まだまだ数の足りないER医達の「青年の主張」が熱く語られているので,ぜひ研修医はここを読んで将来ER医になってほしい。だってテレビでも救急にはヤマピーやガッキーのようにいい男いい女ばかりいるのだから,ER医になっても人生損はない。世のため人のため,全ての病める患者のために奮闘するERが成功するには,情熱だけではなく本書にあるようなシステム構築も大事だ。
ERは診断・治療さえできれば終わりではない。プレホスピタル,災害から,正しい帰宅指示,プロフェッショナリズム,カンファランスの仕方,勉強の仕方,安全管理まで,大学では教えてくれなかったけれども実臨床で真に大切なことが詳細に書かれているので,ぜひ指導医にはここを研修医に丁寧に教育(「せんのう」と読む)して欲しい。研修医をその気にさせてナンボなんだから。
若手ER医達がエビデンスにこだわってまとめあげたER指南書なので,各論においても現場の疑問が網羅されている。理解を深めたい場合は参考文献をひもとくとさらに理解が深まる。本書は教科書的な記載ではなく,実践編としてとらえたほうがいい。教科書的な理解はできていたものの,現場では実は頻度が少ないという発見があったり,どんな場合に見逃しやすかったりするのかを考える力がつく。絨毯爆撃のような検査では偽陽性も増え,プロとは言えない。必要最小限の検査で,最短時間で答えにたどり着くのは,膨大な知識と技術が必要であり,加えて温かい人間力が必要なのだ。PNES(心因性非てんかん性発作)やHINTS,TMA,MTP,Glasgow-Blatchford,CCHR,PECARNなども臨床上非常に重要なポイントが解説され……え? 略語ばかりでわからないって?……そんなあなたこそ本書を手に取って読んでみましょう。たかが略語だけど,知ってるとなんとなく格好よくない?あ,シャイーンシャイーンしたらダメだよ,そこぉ!
A5変型・頁656 定価:本体5,500円+税 MEDSi
http://www.medsi.co.jp
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