医学界新聞

寄稿

2017.12.18



【寄稿】

多職種協働による患者中心のチーム医療を実践
包括診療医の役割とは

園田 幸生(済生会熊本病院包括診療部部長代行)


 済生会熊本病院(400床)は2017年4月,4人の包括診療医をスタッフとして,包括的なチーム医療を実践する部門「包括診療部」を設置した(2017年10月現在5人)。本稿では,当院の課題を踏まえながら,包括診療部の業務について紹介する。

入院患者の健康を管理する“病院内かかりつけ医”をめざす

 当院は重症度の高い患者が多く入院する急性期病院である。また三次救急指定病院として,救急車の受け入れ台数も全国的にトップクラスであり,多くの医療スタッフが懸命に働いている。定期入院の患者のみならず,緊急入院や緊急手術を受け入れることも多いため,病床稼働率は常に高い。在院日数は短く,入院・退院等の手続きに伴う業務量もおのずと増える。主治医や医療スタッフの身体的・精神的負担はかなり大きく,時間外労働の増加も労務上の大きな問題となっていた。

 受療患者の高齢者率が極めて高いため,併存疾患も多岐にわたり,入院中の診療は主疾患の治療のみならず診療科横断的な医療の提供が必要となるケースが多い。一方で,主治医は定期・緊急手術,救急患者対応,外来業務と多忙だ。必然的に病棟に滞在可能な時間は限られ,患者のみならず医療スタッフとも日勤帯で情報を共有する時間が少なくなる。医療安全管理やチーム医療実践の観点からも解決すべき課題となっていた。主治医は診療科ごと,患者ごとに各病棟に複数存在しているものの,多分に漏れず病棟の全患者の状態を把握している医師は存在していなかった。多職種協働によるチーム医療をめざすような病棟マネジメントを考える上で,大きな障壁があったと言える。

 こうした状況から,当院では診療科や所属を越えて専門診療科の病棟業務の支援を行う専任の診療医の存在が望まれるようになった。既に欧米では専門医は専門性の高い治療や手術を中心に行い,周術期管理を含めた入院管理は「ホスピタリスト」と呼ばれる病棟医が行うシステムが存在している。しかし日本では,専門診療科の主治医が手術等の処置,入院管理や急変時対応に至る一連の業務を行うことが一般的である。専門医業務と病棟医業務の完全な分離は極めて困難であると考えられ,欧米型のホスピタリストは日本ではなかなか理解されてこなかった経緯がある。そこで当院は,単に診療科主治医の権限を病棟医に委譲するのではなく,主治医と入院患者との関係性は従来通りとした上で,主治医と協力し包括的な患者中心の医療をめざすことを目的に「包括診療医」と称した病棟医を配置することにした()。

 包括診療医は,病棟内で多職種協働による患者中心のチーム医療を実践し,主治医を支援している

 入院患者は高齢者が多いため,入院中の健康管理業務を中心に行い,健康管理という観点から,入院中に発症する種々の症候への迅速な初期対応,併存疾患の管理,内服薬管理や処方といったさまざまな医師業務を総合医として行っている。診療科を問わず病棟内の全患者への回診や診察を毎日行っているため,包括診療医は全入院患者の身体状況の把握のみならず,患者やその家族に関する報告や相談などを受けることも容易である。入院病室を自宅に見立てて“往診”する,言わば“病院内かかりつけ医”のような存在である。

 さらには,包括診療医をリーダーとして,多職種によるチーム医療の実践や多職種カンファランスの開催が日常的となり,患者中心の安心安全な医療を提供することも可能となっている。もちろん包括診療医は常に主治医とコミュニケーションを取り合いながら,密接な信頼関係を築いている。そのため,互いの業務を尊重しながら二人三脚で患者を診ており,患者優先の質の高い多職種協働の医療が実践可能と...

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