医学界新聞

連載

2017.06.05



栄養疫学者の視点から

栄養に関する研究の質は玉石混交。情報の渦に巻き込まれないために,栄養疫学を専門とする著者が「食と健康の関係」を考察します。

[第3話]サプリメント② 遺伝疫学への期待

今村 文昭(英国ケンブリッジ大学 MRC(Medical Research Council)疫学ユニット)


前回よりつづく

 サプリメントの効果を検証するには,疾患の発症率や経過を見る“二重盲検ランダム化比較試験”の実施が望ましいとされています。しかしその実施にはかなりの時間や費用を要します。さらに,ネガティブな結果を恐れる関連企業からの支援を期待することはなかなかに難しいかもしれません。そんな状況が続く中,サプリメント業界は世界において年間1000億ドル以上の巨大市場を展開しています。その霧のかかった領域を少しでもクリアにするべく応用できるのが,昨今の遺伝疫学です。

 遺伝疫学は今や薬や栄養素のエビデンスを解釈する上でも欠かせないものとなっています。そうした解析に欠かせない手法がMendelian Randomization(メンデルのランダム化,以下MR)です。今年2月のJAMA誌でもその意義が述べられるなど(JAMA. 2017[PMID:28196238]),ここ数年の医学雑誌に数多く登場しました。

 MRは,遺伝型(例:丸い豆,しわしわの豆)はランダムに決まることに着目した考えです。遺伝型の違いを自然界におけるランダム化試験ととらえ,病気の発症率と関連があれば,その遺伝型がかかわる身体のシステムはその疾患と因果関係があると推論するものです。例えばスタチンという血中脂質を下げる薬はHMG-CoA還元酵素を標的としています。この酵素をコードしている遺伝型は人によってランダムに異なっています。そしてこの遺伝型の違いが2型糖尿病の罹患率と関係することが,解析により明らかになりました(Lancet. 2015[PMID:25262344])。スタチンの処方は2型糖尿病のリスクを上げることが臨床試験より知られていますが,この因果関係を遺伝疫学が支持したものと考えられます。

 では大規模研究のない薬

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