医学界新聞

2017.05.22



Medical Library 書評・新刊案内


生きている しくみがわかる 生理学

大橋 俊夫,河合 佳子 著

《評 者》鈴木 敦子(健康科学大教授・生理学)

筋道を立てて考える面白さを実感できる

 医療系学部で生理学を教えている立場から,本書を紹介させていただく。

 本書は第1章「一般生理学」,第2章「植物性機能」,第3章「動物性機能」,第4章「臨床生理学」から構成されている。

 第1~3章では,合計36項目が質問の形で取り上げられている。例えば「体の働きを公園の遊具にたとえるとしたら?」(p.2),「血液中にUFOが飛んでいる?」(p.36)といった意表を突くユニークなもの,「寝転がって飴玉をなめると何が起きる?」(p.120),「試験などで緊張すると動悸がするのはなぜ?」(p.191)のように誰もが日常的に経験するようなものが並んでおり,眺めるだけで,あれこれ考えて,わくわくしてしまう。

 この「質問形」がミソで,好奇心をくすぐられるのである。質問の答えも,日常的な経験を踏まえた丁寧な説明のおかげで,「なるほど」とふに落ちて,スッと頭に入る。また,各質問に対する解説が4~6ページ程度にまとまっていて,本の大きさもA5サイズとコンパクトなので,カバンに入れて持ち歩き,気軽に好きなところから読めるのもうれしい。

 第4章は,貧血,黄疸,浮腫という3つの病態を「考えてみましょう」という3項目から成り,生理学の知識を基にして病状や原因を説明している。第1~3章を基礎編,第4章を応用編と考えてもよいだろう。各項目の最後は「順序立てて〇○の原因を挙げていく」とまとめられており,知識を統合し,筋道を立てて考えることの面白さを実感できる。

 本書の「序」に「筋道を立てて論理的に考える学習の醍醐味を楽しんでいただければ幸いです」とある(p.ix)。生理学教育に携わる者として,深い共感を覚える。しかし,学生に「考える学習の醍醐味を楽しませる」ことができているだろうかと自問すると,反省の念にかられてしまう。学生にとっては難しい生理学用語を覚えるだけでも大仕事であり,特に国家試験をめざす養成校では知識を詰め込むことが優先され,面白さを伝えることは二の次にされがちだからである。

 本書は好奇心を刺激してくれるので,面白いと思いながら読んでいるうちに,自分の身体のこととして「生きているしくみ」を理解することができ,考える力も養われる。ぜひ医療系の学生に読んでもらい,知識を詰め込むだけではなく,知る喜びと考える楽しさを味わってほしい。そして,生理学の教育に携わる方にも一読をお勧めしたい。わかりやすく説明し,学生の考える力を引き出すヒントがいっぱい詰まっているからである。

 本書は専門用語をあまり使わずに書かれているが,これは決して簡単なことではない。高度な内容を平易に解説するには,多くの努力と工夫がなされたことと思う。心より敬意を表したい。また,全編を通して読者に優しく語りかけるように書かれており,著者の先生方のお人柄がにじんでいる。読んで良かったと思える一冊である。

A5・頁258 定価:本体2,300円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02833-2


マイヤース腹部放射線診断学
発生学的・解剖学的アプローチ

太田 光泰,幡多 政治 監訳

《評 者》中島 貴子(聖マリアンナ医大教授・臨床腫瘍学)

腹腔の3次元構造を理解して迅速で効率的な病態診断につなげる良書

 久しぶりに“マイヤース”のページをゆっくりめくった。といっても日本語版である。あの世界的名著を日本語で読めることにまず驚き,さらに監訳を担当したのは,尊敬してやまない総合診療のわが師匠たちであった。感動に包まれてめくる本著は,原著第6版となり,最新でありながら,腹部臓器・疾患における普遍的な原則を放射線学という視点から理解するというスタンスを貫いていた。

 本著の最大の特徴は「腔」の描写であろう。「腔」とその区画を理解すれば,腹部疾患の限局と進展を理解できる。そしてその深い理解は,実際の医療現場では,迅速で効率的な病態の診断につながる。実際に私が本著に出合ったのも,研修医が終わったばかり,神奈川県立足柄上病院で救急診療に追われる中,真夜中に一人で腹痛患者のCT画像を診断しなければいけない場面で,「腔」と「膜」を理解できていない自分に落胆し,探し当てたのであった。当時はそれを英語で読み下さなければならず,私にとっては大変な労力を要したものだが,それはそれで良い思い出だ。しかしこの日本語版を読むと,やはり日本人としてはよりしっくりくるし,研修医や救急医などが効率的に勉強するには最適な書籍になっていると思う。

 もう一つの本著の特徴は,豊富な画像と,シンプルだからこそ読者の理解を深めるイラスト,そして解剖写真(横断面)までもが挿入されていることであろう。普段,腹腔内を実見することのできない内科医や放射線科医にとって,これらの写真やイラストは,腹腔という3次元構造の理解を助けてくれる。そして,水の流れを追うことによってその3次元構造の理解がたやすくなるように,写真やイラストに沿って日本語による流れるような解説がなされている。

 初期研修の時期には基本的知識の習得に,後期研修医が独り立ちする時期には心細い診療のお供に,専門医をめざす時期には知識や経験の整理に,そして各領域の専門医にとっては,より深い腹部疾患の理解のための振り返りに……全ての医療従事者に自信をもってお薦めする良著です。

B5・頁400 定価:本体14,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02521-8

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