多様性を認めるということ(岩田健太郎)
連載
2017.03.20
The Genecialist Manifesto
ジェネシャリスト宣言
「ジェネラリストか,スペシャリストか」。二元論を乗り越え,“ジェネシャリスト”という新概念を提唱する。
【第45回】
多様性を認めるということ
岩田 健太郎(神戸大学大学院教授・感染症治療学/神戸大学医学部附属病院感染症内科)
(前回からつづく)
すでにこの連載を読んでいる皆さんはお感じになっていると思うけれど,イワタは“多様性”の価値を非常に大切にしている。
均質的(モノトナス)な思想,多様性を否定する考え方は基本的に危険である。歴史上,たくさんの「思想の均質化」が試みられてきたが,どれもミッションの途上でコケている。
しかし,「思想の均質化」は言ってみれば,「選択と集中」である。「選択と集中」と言えば聞こえはいいが,要するにこれは「ばくちの思想」である。成功すれば勢い良いが,失敗すると大ゴケする,極めてハイリスク・ハイリターンな思考法なのである。
ナチス・ドイツ(ヒトラー)に代表されるファシズムはユダヤ人など「他者」を否定して,コケた。旧ソ連や中国に代表される共産主義もコケた。アメリカやバブル時代の日本みたいな「カネが全て」のキャピタリズムもコケた。
今後もこのような思想の均質化をめざす政治的な動きは必ず出てくるだろうが,予言しておく。こういう思想は(その思想の立派さとは全く無関係に)必ずコケる。トランプのアメリカあたり,かなりやばいと思う。
*
そういえば最近,ジェンダー論の上野千鶴子氏が移民に反対して炎上していた1)が,人口が減りゆく日本の中で「みんな平等に貧しくなろう」と主張して多くの反感を買った。これもまたひとつの「均質化」だ。いろんな流派がいるので断言はできないが,フェミニズムも基本的に一種の「均質」な思想だ。
あらゆる性差別に反対する。ここはいい。そのために障害になっているのが,男目線の家父長制である。ここもいい。けれども,何でもかんでも「男女が平等であるべき」にこだわり過ぎ,何でもかんでも「家父長制のせい」という均質化が起きたときに,この思想(あるいはイデオロギー)は弱くなる。「ま,そういうこともあるけど,ケース・バイ・ケースでいこうよ」というフワフワしたフェミニストは少ない(そういう人は好ましいが,おそらくフェミニストと認識されない)。
*
ところで,最近米国から女性医師の診療のほうが入院患者の予後が良いというスタディーが出た。因果関係は証明されていないが,たぶん因果はあるとぼくは思う。男よりも女のほうが(平均的に)優れていることはたくさんある。内科系入院患者の診療能力も,おそらくその一つだ。この「差を認める」思考が大事だと思う。それこそが「多様性を認める」ということだ。もちろん,男のほうが優れた領域もあるはずだ。
差を認めることと,差別することとは違う。かつて,ハーバード大学では「女は医者に向いていない」という理由で女性の医学部入学を認めていなかった。愚かな判断だと思う(こんな理由でハーバード大学が判断を誤ったという例からは,人間の知性がIQだけでは判定できないことがうかがえる)。同じように,「女性医師のほうが,臨床アウトカムが良いのだから,医療界から男は締め出せ」も間違っている。男性が劣っているのは排除の根拠ではない。それは克服すべきハンディキャップだ。このことは第6回(第3057号)で述べた。そして,逆の論理はもちろん女性にも通用する。
*
われ...
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