医学界新聞

インタビュー

2016.07.25



【interview】

人を支え,地域を支えるより良い看護へ向けて

坂本 すが氏(日本看護協会会長)に聞く


 2015年6月,日本看護協会(以下,協会)から『2025年に向けた看護の挑戦 看護の将来ビジョン』(MEMO)が発行となり,地域包括ケアシステムの中で「いのち・暮らし・尊厳をまもり支える看護」の追求が表明された。「人々の尊厳を維持し,健康で幸福でありたいという普遍的なニーズ」に看護はどのように応えていけば良いのだろうか。本紙では残り1年の任期となった協会長の坂本すが氏に,看護職の今後の発展を見据えて看護がどのように変わっていくべきかを聞いた(関連インタビュー)。


看護職は地域包括ケアの要

――看護の将来ビジョン発行から1年が経ちました。現場で働いている看護職からの反響はありましたか。

坂本 看護職の勉強会や,大学の講義で活用していると聞いています。「看護職は,医療と生活の質を支え,人々の尊厳を守る職業である」ことを看護職の皆さんはすでに感覚としてわかっていると思いますが,それがビジョンとして文章になり,理解が深まったことの意義は大きいです。

――暮らしに着目し,「生活の質」という言葉を入れたところが大きなポイントですね。

坂本 ええ。患者像がこれまでと変わってきているのが,「生活の質」という言葉を入れた理由の1つです。病院完結型の医療から,地域包括ケアへの移行という時代の要請に伴い,患者さんは医療機関と地域を行ったり来たりするようになりました。そのため看護職には生活の場をベースにしたケアが求められているのです。

――現在,地域包括ケアの推進へ向けて,協会として力を入れていることは何ですか。

坂本 地域のコミュニティ作りです。今まで取り組んできた保健所,医療機関,介護施設等の看護職による交流会や勉強会には一定の成果がありましたが,どうしても「医療提供をどうするか」の議論になりがちで,生活への視点が十分ではありませんでした。そこで協会は2015年度に,医師,看護職,介護職に加えて,生活者である住民代表や患者会を交えた「看護がつなぐ地域包括ケアフォーラム」を熊本県と静岡県で開きました。地域の生活者・患者さんの意見が入ったことで,「生活の質を上げるためにどうすべきか」という議論がなされました。今後,こうした取り組みを広げていきます。

――16年度は子どもと子育て世代を対象にした地域包括ケアも,協会の重点事業に新たに加えられています。

坂本 高齢者と同様,子どもも社会の皆で支えていく必要があります。これまで地域包括ケアは高齢者を対象に考えられてきましたが,実は子どもの虐待,育児中の母親の孤独など,子どもと子育て世代をめぐる課題も地域で対処すべき事案です。

 子どもに注目するもう1つの背景には,低出生体重児が地域に戻れないという問題があります。日本は医療のレベルが高い一方で,地域で支える仕組みが足りていないので,病院からなかなか出られない。この状況は,地域に戻れない高齢者の構造と全く同じです。私たち看護職は子どもの地域包括ケア構築にもかかわるべきです。

――今年度は何を進めていく予定でしょうか。

坂本 「妊娠期からの家族支援・子育て支援」などをテーマに,都道府県看護協会でモデル事業を行います。子どもと子育て世代への包括ケアの推進に向け,保健師・助産師・看護師の多職種連携による協働を促す機会となればと思っています。また,NICU/GCU退院児とその家族への在宅支援に向けた協働もこれから進めていきます。

――看護職の地域での存在意義はますます高まりますね。

坂本 日本の医療提供体制を保ちつつ2025年以降を切り抜けていくには,地域でその体制を支えなければなりません。専門知識・技術を持つ人と協働して,コミュニティの全員が関係する地域包括ケアの仕組みにすでに移り変わりつつあります。

 看護職は24時間,患者さんのそばでケアをする専門職として,確かな技術やアセスメント力に加えて,多職種で最適なケアを提供するための判断力や調整力といった能力も養わなければなりません。自分たちが持っている能力を最大限発揮し,地域包括ケアの要となってほしいと思います。

看護スキルの「見える化」にクリニカルラダーを活用する

――16年5月20日に発表された「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」では,病院,介護施設,訪問看護での活用例が示されました。

坂本 多職種との連携のためには,お互いがどれだけのスキル(能力)を持っているのかを明らかにし,持つ知識・技術の評価を共通化しなくてはなりません。それは病院と訪問看護の...

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