MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2016.07.18
Medical Library 書評・新刊案内
橋田 亨,西岡 弘晶 編
《評 者》中村 敏明(大阪薬科大教授・医療薬剤学)
新人薬剤師に加え,実務実習の指導薬剤師にも薦めたい
臨床の問題解決能力は,多くの臨床経験から培われるものだと思っていた。もちろん,漫然と型にはまった患者指導を繰り返すだけの臨床経験では問題点に気付くこともできない。自身も薬剤師としての経験が浅いころは,何が問題かもわからず,解決の糸口さえ見いだせないこともあった。そのころに本書のような書籍があったら随分と助かっただろうと思う。
神戸市立医療センター中央市民病院は,いち早く薬剤師レジデント教育に取り組み,多くの実績を残している。その指導薬剤師たちがこれまでの教育経験を生かして『薬剤師レジデントマニュアル』(医学書院,2013)に続き出版したのが本書『薬剤師レジデントの鉄則』である。さすがは全国に名をはせた人気の研修施設である。薬学部においても最近は,臨床における問題解決を強く意識した教育を積極的に取り入れ始めている。それでも,卒業後にベッドサイドに出ると教科書に記載されていない問題や,これまでの経験にない問題に直面して戸惑うことになるであろう。その都度,資料を調べることになるが,手当たり次第だと時間がかかるだけで,一向に問題解決に向かわない。ともすれば課題を増やしてしまい収拾のつかない状況に陥りかねない。また,論文や学会で報告されるような問題は探せても,ちょっとした工夫やこつのようなものは意外に調べるのが困難だったことを経験した人も多いのではなかろうか。
本書の内容構成はとても工夫されており,最初に疾患に対する鉄則のまとめがあり,次に特徴的な症例を提示し,その後は「Q&A形式で問題解決のポイント→鉄則」の流れで構成されている。また,要所要所に挿入されている“もっと知りたい”がかゆい所に手が届く感じで気持ち良い。図表も多く活用されているのに加えて,要点が簡潔明瞭な文章で記載されているため,わかりやすく,読み進めることで症例への対応方法や考え方が学べて滞りなく次にステップアップできる。
医療は,教科書やマニュアル通りに進まないことも多く,その都度,専門家としての判断が求められるが,スペシャルポピュレーションへの対応など取り上げている項目も多岐にわたり,主だった疾患や対象者について,薬学的管理の具体的な課題を鉄則+αで解決に導いている。このため,問題解決に向けた考え方の流れや注意すべきポイントが明確にされ,自然と応用力が身につき,実務における問題解決能力の向上が期待できる。
新しいコアカリキュラムで学習の要件としている8領域の疾患について全て網羅しており,新人薬剤師に加え,実務実習の指導薬剤師にとっての参考書としてもお薦めである。
B5・頁292 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02410-5


症候別“見逃してはならない疾患”の除外ポイント
The診断エラー学
徳田 安春 編
《評 者》松村 理司(医療法人社団洛和会総長)
診断の醍醐味が深まる一冊
医師が診断に難渋するのには,いろいろな訳がある。診断に占める病歴の価値は,昔と比べてまったく低下していないが,医師は一般に聞き上手ではない。問診・病歴聴取・医療面接への経済的誘導はなく,傾聴や共感に関する教育の歴史が浅かったためでもある。
患者も話し上手ではない。心身共に病んでいる患者の訴えは拙い。何と言っても,医療の素人である。そもそも人間は前向きに生きているのであり,後向きに病歴を振り返るのは苦手である。場合によっては,意識が障害されている。
「診断」とは,特定の病気を解説することではない。症候や検査結果から特定の病気に迫ることだが,その思考回路は,特定の病気を説明・解釈する思考回路とはかなりずれる。経験だけでなく,直観や運にも影響される。だから,最新の医学知識を充満させている大秀才が,意外に鑑別診断がお粗末だったりもする。逆に,座学はそれほどしていないのに,診断推論にさえわたる者がいる。あやかりたいものだが,近道はない。
書物から迫るとすれば,症候学が満載で,素晴らしい切り口が表題になっている本書の味読に如くはない。類書はごく少ない。
本書の長所をいくつかにまとめる。
第一には,雑誌特集の集成のため,執筆者がかなり大勢であるのに,各章の記載があまりばらついていない。編者である徳田安春先生の目が行き届いている証拠であろう。
第二に,執筆者のどなたもが,医療現場で汗をかき,臨床的・教育的実践を楽しんでおられることである。
第三に,“見逃してはならない疾患”を五つ程度に絞っていることである。もっともっと挙げたいところを,程よく抑制しているので,かなり読みやすくなっている。
第四に,「各疾患の除外ポイント」が,力作ぞろいである。最も精読すべき項目であろう。
第五として,第四を踏まえた「各疾患の除外ポイント」がまとめられており,役立つ。
ただし,「除外できない」ポイントの一覧も18ページに掲げられており,診断の醍醐味は一層深まる。
味読・精読の後は,具体的な臨床例に対する実際の使い勝手が問題になる。これは,若い実践世代に逆に教えていただきたい。
A5・頁352 定価:本体4,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02468-6


《眼科臨床エキスパート》
角結膜疾患の治療戦略
薬物治療と手術の最前線
吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信 シリーズ編集
島﨑 潤 編
《評 者》福島 敦樹(高知大教授・眼科学)
Up to dateな治療選択への道標
治療法を適切に選択するためには,的確な診断が必要である。角結膜疾患の診断に関しては,《眼科臨床エキスパート》シリーズで,『オキュラーサーフェス疾患――目で見る鑑別疾患』(2013)が既に出版されており,研修医の先生方から角膜を専門とする先生方まで,幅広く頻繁...
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