薬剤師レジデントの鉄則

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卒後1、2年目の薬剤師が臨床の薬学的課題を解決する際の「実践力」を養うための本。先輩薬剤師が選んだ教育的な症例やシチュエーションをベースに、薬物治療の考え方を深める裏付けとなるガイドラインや論文を紹介。エビデンスに基づいた薬物療法を実践するためのコツや新人薬剤師のためのPitfalls & Tipsを「鉄則」としてわかりやすくまとめた。大好評の 『薬剤師レジデントマニュアル』 と併せて読みたい!
編集 橋田 亨 / 西岡 弘晶
発行 2016年03月判型:B5頁:294
ISBN 978-4-260-02410-5
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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 今,わが国の医療は,団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けて,医療機関の機能分化,地域包括化へと大きく舵を切った。高度急性期医療から急性期,回復期,療養・在宅へと薬物治療をシームレスにつないでいくために病院および薬局薬剤師には大きな期待が寄せられている。それぞれの局面では,薬学的専門性を活かした薬物治療の質と安全を高めるためのさまざまな取り組みがなされているが,薬剤師が真に社会から信頼される存在となるためには,実臨床の場において一層の研鑽を積んでいく必要がある。
 本書は,その拠り所となるべく発刊し,好評を博している 『薬剤師レジデントマニュアル』 (2013年刊・医学書院)で取り上げた内容の中から,臨床上特に重要な問題に焦点を絞り,さらに掘り下げて記述することで,それら目前のニーズに応えることを目指した。
 特長は,以下に列記したように若手薬剤師が実践を通して学んでいくプロセスをあたかもOJT(on the job training)を経験しているように読み進めるようにしたことである。
1)薬物治療の理解や考え方を深める裏付けとなるガイドラインや論文報告を取り上げながら,エビデンスに基づいた薬物療法を実践することを目的に編集した。
2)実際の臨床で教科書やガイドラインの通りにはいかないケースについても,「教科書的なまとめ直し」ではなく患者背景に応じた実践的な内容とした。
3)若手薬剤師が,先輩薬剤師が選んだ教育的なテーマ(症例,シチュエーション)について考えながら読むことで,応用問題を解く際の考え方やコツを身につけられるよう工夫した。
4)日ごろ,後輩を指導する際に現場の薬剤師が実感している「新人薬剤師が陥りがちなpitfall(落とし穴)」と「新人薬剤師が知っておきたいtips(秘訣)」を盛り込んだ。
5)各項目の構成は,「鉄則のまとめ」に始まり「プラクティス」として疾患群に特徴的な症例を提示し→「Q&A」→「鉄則」を数回繰り返し,適宜「もっと知りたい…」を差し挟むことにより,臨場感をもたせた。
 かねてより,日々の研鑽を積む医師にとって心強い味方として評価を得てきた医学書院の「レジデントの鉄則」シリーズの一冊として,本書『薬剤師レジデントの鉄則』が発刊された。本書が広く活用され,安全で質の高い薬物治療を提供する一助となることを願っている。

 2016年3月
 神戸市立医療センター中央市民病院 院長補佐・薬剤部長
 橋田 亨

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第1章 調剤
 1 服用方法に注意が必要な医薬品
 2 簡易懸濁法

第2章 注射
 1 注意すべき配合変化

第3章 薬物療法を理解するための基礎知識
 1 薬物動態・薬力学に影響する因子
 2 スペシャルポピュレーションへの注意点

第4章 感染症
 1 抗菌薬の使い方
 2 インフルエンザ

第5章 呼吸器疾患
 1 喘息・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
 2 肺結核

第6章 循環器疾患
 1 急性冠症候群(ACS)・冠動脈疾患
 2 不整脈
 3 高血圧

第7章 消化器疾患
 1 消化性潰瘍
 2 クローン病(CD)・潰瘍性大腸炎(UC)
 3 C型慢性肝炎

第8章 腎泌尿器疾患
 1 慢性腎臓病(CKD)
 2 透析

第9章 内分泌代謝疾患
 1 糖尿病

第10章 神経疾患
 1 てんかん
 2 脳血管障害

第11章 精神疾患
 1 うつ病

第12章 皮膚疾患
 1 アトピー性皮膚炎

第13章 眼科疾患
 1 緑内障

第14章 耳鼻科疾患
 1 突発性難聴

第15章 がん
 1 乳がん
 2 消化器がん(胃がん・大腸がん)
 3 肺がん
 4 悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)・慢性骨髄性白血病

第16章 緩和
 1 オピオイド

索引

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服薬患者の「謎解き」に役立つ『鉄則』集
書評者: 狭間 研至 (ファルメディコ株式会社代表取締役社長/嘉健会思温病院院長)
 その昔。評者が高校生の頃使っていた数学の参考書に,『寺田の鉄則』(旺文社)というシリーズがあった。受験業界ではつとに有名なのが『チャート式』シリーズ(数研出版)であるが,その冒頭には,「チャートは海図であり,勉学という荒波を乗り越えていくためにいつも心に留めておく考え方や見方を持っておけ」ということが記されていた。一方,『鉄則』は,「数学の問題を解くときに困ったら頼るべき基本的な,そしてキモになる考え方や法則を持つべきであり,それを頭の中に叩き込んで適切な時期に適用することで,難しい問題も自ずと解法が見えてくる」というふうに記されていた。

 多少あまのじゃくの傾向がある評者は,皆が使う『チャート式』ではなくこの『鉄則』シリーズを愛用していた。『鉄則』の「困った時によりどころにすべき視点を手に入れる」というスタンスは,その後の受験勉強のみならず,医師になり,また病院や薬局の経営に携わるようになった現在に至るまで,さまざまな場面で役立ってきた。

 薬学教育が6年制に移行して10年。薬剤師の業務は本格的に変わろうとしている。処方箋を正しく鑑査し,必要な疑義があれば照会・解消し,正確・迅速に薬剤を調製した後,わかりやすく効果的な服薬指導とともに患者に渡し,一連の行為をProblem Oriented Systemに則ってSOAP形式で記載する……。しかし,機械化とICT(Information and Communication Technology)化が急速に進んできた現状で,薬剤師はこのような仕事に専念しているだけでは,自らの専門性を十二分に発揮できないことが明らかになってきたのである。薬剤師の専門性は「薬が体に入るまで」から「薬が体に入った後」へとシフトしつつある。薬剤師は,薬剤が体に入った後の状態を医師の問診や他の医療職種からの情報収集に加えて,五感を交えて観察する。さらに必要に応じてバイタルサインも活用した上で,前回自身が調剤した薬剤の作用が十分に発揮され,予期される副作用の有無について確認することが重要になっているのである。

 「薬は飲んだ後が勝負」であり,薬剤師が自ら調剤を担当した患者の経過を確認し,関与する中で生じた「謎を解く」ことが薬剤師の専門性を磨くことになる。その「謎解き」はなかなか一筋縄ではいかないし,それを実践的に指導・教育するような現場がないのも,わが国の薬学界の現状である。

 本書は,全国でも早い時期に「薬剤師レジデント制度」を導入し,薬剤師の次のあり方を構想・実践してきた神戸市立医療センター中央市民病院の橋田亨先生を中心に,患者の「謎解き」のための『鉄則』を系統的にまとめたものである。医師として読むと,その半分も理解できないと思えるような専門性の高い鉄則がきら星のごとく並んでいる。

 医療現場で患者の「謎解き」に困ったら頼るべき基本的な,そしてキモになる考え方や法則はきっとあなたの薬剤師人生を変えるはずである。いわば,『橋田・西岡の鉄則』を手に取っていただき,その効果を実感していただきたい。
新人薬剤師に加え,実務実習の指導薬剤師にも薦めたい
書評者: 中村 敏明 (大阪薬科大教授・臨床薬学教育研究センター)
 臨床の問題解決能力は,多くの臨床経験から培われるものだと思っていた。もちろん,漫然と型にはまった患者指導を繰り返すだけの臨床経験では問題点に気付くこともできない。自身も薬剤師としての経験が浅い頃は,何が問題かもわからず,解決の糸口さえ見出せないこともあった。その頃に本書のような書籍があったら随分と助かっただろうと思う。

 神戸市立医療センター中央市民病院は,いち早く薬剤師レジデント教育に取り組み,多くの実績を残している。その指導薬剤師たちがこれまでの教育経験を生かして 『薬剤師レジデントマニュアル』(医学書院,2013)に続き編集したのが本書『薬剤師レジデントの鉄則』である。さすがは全国に名をはせた人気の研修施設である。薬学部においても最近は,臨床における問題解決を強く意識した教育を積極的に取り入れ始めている。それでも,卒業後にベッドサイドに出ると教科書に記載されていない問題や,これまでの経験にない問題に直面して戸惑うことになるであろう。その都度,資料を調べることになるが,手当たり次第だと時間がかかるだけで,一向に問題解決に向かわない。ともすれば課題を増やしてしまい収拾のつかない状況に陥りかねない。また,論文や学会報告されるような問題は探せても,ちょっとした工夫やこつのようなものは意外に調べるのが困難だったことを経験した人も多いのではなかろうか。

 本書の内容構成はとても工夫されており,最初に疾患に対する鉄則のまとめがあり,次に特徴的な症例を提示し,その後は「Q&A形式で問題解決のポイント→鉄則」の流れで構成されている。また,要所要所に挿入されている“もっと知りたい”がかゆい所に手が届く感じで気持ち良い。図表も多く活用されているのに加えて,要点が簡潔明瞭な文章で記載されているため,わかりやすく,読み進めることで症例への対応方法や考え方が学べて滞りなく次にステップアップできる。

 医療は,教科書やマニュアル通りに進まないことも多く,その都度,専門家としての判断が求められるが,スペシャルポピュレーションへの対応など取り上げている項目も多岐にわたり,主だった疾患や対象者について,薬学的管理の具体的な課題を鉄則+αで解決に導いている。このため,問題解決に向けた考え方の流れや注意すべきポイントが明確にされ,自然と応用力が身につき,実務における問題解決能力の向上が期待できる。

 新人薬剤師に加え,新しいコアカリキュラムで学習の要件としている8領域の疾患について全て網羅しており,実務実習の指導薬剤師にとっての参考書としてもお薦めである。
新人だけでなく病棟で活躍している全ての薬剤師へ
書評者: 古川 裕之 (山口大大学院教授・附属病院薬剤部長/臨床研究センター長)
 当院に2013年から3年続けて,毎年7人のフレッシュ薬剤師が就職してきた。全員が,6年制薬学教育を終えた人たち。今年度の5人を加えると,本院の薬剤師のほぼ半数が,経験年数3年以下という状態である。

 多くのフレッシュ薬剤師を効率よく育て上げるにはどうしたらよいかと考え,副部長を中心とした教育ワーキンググループを立ち上げ,新人教育プログラムを作成した。その中で,『薬剤師レジデントマニュアル』(医学書院,2013)の活用が提案され,新人薬剤師一人ひとりに一冊ずつ用意することになった。われわれは,「あるものは活用する。ないものは作る」という姿勢を基本にしている。

 今年2月,本書編集者の橋田亨先生(神戸市立医療センター中央市民病院院長補佐)にお会いしたとき,「改訂版の予定はありますか?」とお尋ねしたところ,にっこり笑う橋田先生から予想していなかった答えが返ってきた。それが,手元にある『薬剤師レジデントの鉄則』である。「なるほど,こういう形できたか……」と驚いた。

 本書は,白衣のポケットに入る『薬剤師レジデントマニュアル』とは異なり,B5判という大きなもの。その表紙の帯には,「臨床の薬学的課題を解決する『実践力』を身につける!」と大きく書かれている。“課題を解決”と“実践力”というキーワードがぴたっと評者の好みに合った。

 ページを開いてみた。例えば,感染症関係の章。いきなり,「鉄則」が書かれた青色地の長方形が目の中に飛び込んできた。これは,エビデンスに基づいた薬物療法を実践するためのこつを新人薬剤師向けにまとめたもの。まず重要なポイントを知り,それから本文に入るという方法は,学習効果が大きいと思う。

 続いて,Q&A方式で本文が始まる。エビデンスとなるガイドラインや論文の紹介や図表と写真も数多く掲載されている。そして,「最終チェック」で締めくくる。全体的に見て,文字だけが続くのではなく,図表が多いので圧迫感がない。実によく練られた構成である。「さすが……」と,感心した。

 本書は,新人薬剤師だけでなく,病棟で活躍している全ての薬剤師にとっても知識の更新,また専門領域以外の知識習得に役立つと思う。本院のスタッフ用に何冊か準備しなくてはならない。

 表紙の帯の最後には,「『薬剤師レジデントマニュアル』と併せて読みたい!」と,しっかり書かれている。まったくその通りなので,ぜひ,こちらの改訂もお願いしたい。執筆される皆さんには大変なご負担をお掛けすることになりますが……。

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