医学界新聞

寄稿

2016.04.25



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
緩和ケアのエビデンス

【今回の回答者】白土 明美(聖隷三方原病院緩和ケアチーム・医師)


 緩和ケアというと,エビデンスとは程遠い領域のように思われるかもしれませんが,世界各国から次々と新しいエビデンスが生まれています。緩和ケアの「こんなとき,どうしたら良いの?」に答えるヒントになるかもしれません。


■FAQ1

 がんの終末期でだんだんと衰弱が進み,食事がほとんど取れなくなってきた患者。1日1000 mLの輸液が行われていましたが,最近むくみがひどくなってきたために輸液量が500 mL/日に減量されました。輸液を減らすことで患者がさらに衰弱してしまうことにはならないのでしょうか?

 終末期のがん患者では,胸水・腹水や浮腫といった体液貯留傾向が出現する患者が増えてきます。近年,輸液量とがん終末期の身体症状の関係,さらに予後への影響についてもわかってきています。胸腹水,浮腫については,終末期に1000 mL/日以上の輸液を行うと悪化します1)。さらに終末期の輸液量が1000 mL/日でも100 mL/日でも,脱水に関連した身体症状(倦怠感,眠気,幻覚,ミオクローヌス)には差がないこと,そして両者の生命予後にも差がないことが明らかにされました2)。つまり,終末期(予後1か月程度と予測する場合)に輸液量を減量しても予後は短くならない,脱水の症状は輸液をしても改善しないということがわかります。

 このようなエビデンスがあっても,終末期の輸液は一律に中止する,という結論にならないのは,輸液に対する患者や家族の思いはさまざまであり,輸液の持つ意味が医学的治療の側面だけではないからです。輸液は最低限の治療だととらえている患者・家族に,輸液のデメリットを強調して中止したとしても,「最期に点滴もしてもらえなかった」という後悔を残してしまいます。終末期の輸液量について考えるときには,患者の予後や身体状況とともに,患者・家族の意向,価値観を考慮に入れて,個別に対応する必要があります。

Answer…予後数週単位の場合は輸液の有無が予後に影響することはない。胸腹水・浮腫は輸液により悪化するが,脱水による症状には,良くも悪くも関係しない。ただし輸液が患者・家族に対して持つ意味はさまざまなので,個別の対応が望まれる。

■FAQ2

 肺がんの骨転移による疼痛に対して,モルヒネ30 mg/日を内服している患者なのですが,ほぼ毎日2~3回レスキューを使用しています。レスキューをできるだけ使わなくて済むように,ベースアップした方が良いのでしょうか?

 ベースのオピオイドの増量を考えるとき,何をもって増量の判断をしたら良いのでしょうか? まず考えなければならないことは,持続痛がまだコントロールされていないのか,突出痛があるのか,ということです。持続痛のコントロールが不十分な場合,つまり1日を通して同じような痛みが残っている場合はベースアップする必要があります。突出痛とは,持続痛が適切にコントロールされている患者に一過性に痛みが増強することを言います。例えば体動に伴う骨転移痛の増強は代表的な突出痛で,安静時の痛みはコントロールされていても,動くと痛みが増強します。このような突出痛にベースアップで対応すると,安静時には痛みはないわけですからオピオイドが過量となり,眠気が強......

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