医学界新聞

2016.04.18



節目の年に東北の地で未来を展望

第80回日本循環器学会開催


 第80回日本循環器学会学術集会が3月18-20日,下川宏明会長(東北大)のもと,「日本の循環器病学の過去・現在・未来――東日本大震災復興5周年」をテーマに開催された。80回目の学術集会であると同時に東日本大震災から5年という節目の年でもあり,循環器病学の歴史や災害医療の検証を意図した多彩な企画が組まれた。本紙では,脂質異常症治療の米国ガイドラインに関する討論や,学会主導で進む循環器疾患診療実態調査の最新動向について報告する。


脂質異常症治療の新戦略,Fire and Forgetの是非を問う

下川宏明会長
 ACC/AHA(米国心臓病学会/米国心臓協会)は,脂質異常症治療のガイドラインを2013年に改訂した。その骨子は以下の3点。①スタチンはASCVD(動脈硬化性心血管疾患)の発症リスク低下に関する十分なエビデンスがある。②スタチン以外の薬剤によるASCVDリスク低下の十分なエビデンスはない。③LDL-Cやnon-HDL-Cの治療目標値を設定できるような十分なエビデンスはない。特に,③を踏まえて治療目標値の設定をやめたことが大きな変更点だ。

 これは,目標値の設定後にそれを達成すべく治療を行う「Treat to Target」とは一線を画す概念である。個々の患者のリスクを同定後,リスクに応じてスタチンを開始し(Fire),開始後は「LDL-Cによるスタチンの種類・用量の変更は行わない」(Forget)ことから,「Fire and Forget」とも呼ばれている。コントロバーシー「脂質異常症のACC/AHAガイドラインをどう活かすか?」(座長=りんくう総合医療センター/阪大・山下静也氏,兵庫医大・石原正治氏)では,いまだ世界中で大きな議論を呼んでいる同ガイドラインについて,Pro/Con形式で論点が示された。

 「Fire and Forget」の立場から登壇したのは髙山忠輝氏(日大)。ACC/AHAガイドラインの概要を示すとともに,LDL-Cの目標値を決定する目的で行われた前向き臨床試験は存在しないことを解説した。さらに,Treat to Targetは理想的ではあるものの,実臨床では既存のガイドラインで示された目標値に到達している割合は少ないことを指摘。プラークの安定化・短縮という観点からはLDL-C 100 mg/dL以下ならば十分であり,Fire and Forgetは「現実的な選択肢になり得る」と述べた。

 「Treat to Target」の立場から登壇した横手幸太郎氏(千葉大)は,歴史的な経緯を踏まえて考察した。Fire and Forgetの嚆矢として挙げたのが,“Statins for primary prevention : strategic options to save lives and money”と題する論文(J R Soc Med. 2004[PMID: 14749400])だ。その結論部分においては,「低用量スタチンをより広く処方することは,対象を“集団”としてとらえた場合,限られた医療資源やコストの中でより妥当な結果を得る方法と考えられる」と記載されている。後にCTT Collaborationのメタ解析(Lancet. 2010[PMID:21067804])において高用量スタチンも安全に心血管病リスクを減少させることが示され...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook