医学界新聞

連載

2016.03.14



Dialog & Diagnosis

グローバル・ヘルスの現場で活躍するClinician-Educatorと共に,実践的な診断学を学びましょう。

■第15話(最終回):OPQRSTを超えて

青柳有紀(Consultant Physician, Northland District Health Board/Honorary Lecturer in Medicine, University of Auckland, New Zealand)


前回からつづく

 昨年1月から担当させていただいたこの連載も,早いもので今回が最終回となります。「空想とは,心に考えが浮かんでいるが,そのことに対するわれわれの理解に,熟慮や注視が欠けている状態である」と,17世紀の哲学者,ジョン・ロックは言いました1)。そこで,これまでに連載で検討してきた概念や教訓を空想で終わらせないためにも,今回はそれらをもう一度,皆さんと注意深く振り返ってみたいと思います。

「プロ」と「アマ」の違い

 私の趣味の一つは料理なのですが,小学2年生くらいから続けていることもあり,かなりの腕前であると自分でも思いますし,よく家族や友人たちにもそう言われます。実際に,「自分の作る料理は,いわゆる一流店をも凌ぐのではないか」と自分でも思うことがしばしばあります。一方で,私の料理のスキルは,ある重要な側面において「プロ」のそれには及ばないということも十分認識しています。それは,どういうことでしょうか?

 わかりやすいように2つのグラフを書いてみました()。❶は「プロ」が作る料理の「quality(質)」を時系列的に示したもので,❷は私の料理のそれを示しています。一流のプロは,毎回,一定の基準を超えた高い質の料理を作ります(各グラフ上の直線を「上質」の基準だと考えてください)。一方で,私の作るものは,時にプロの質を上回ることがあっても,一定の質を維持することができません。言い換えれば,質のvariation(ばらつき)が大きいのです。しかも,プロは,ほぼ毎日,私が家族や友人たちに作るものとは比較にならない量の料理を作りますから,もしも私がそういった作業をこなすとなれば,variationはさらに大きくなることでしょう。

 「プロ」と「アマ」の違い

 この連載のテーマである「診断」についても同様に考えることができます。臨床医は,プロとして,自らの仕事に常に一定の質を担保する必要があります。診断力のvariationを極力狭い範囲に抑えなくてはなりません。そして,同時に,自らの診断力をより高いレベルに向上すべく,努力する必要があります。

診断におけるvariationを抑える方法

 では,どうすれば診断におけるvariationを抑え,一定の質を維持することができるでしょうか。ひとつの有効な手段は,「システマティックな方法を用いる」ことです。もっと簡単に言うと,「型」を利用することです。ちょうど,私たちが心電図の解釈を学ぶときに,秩序だったアプローチ(rate,rhythm,axis,intervals……)を教えられるように,診断の際にも同様なアプローチが有効です。主訴に始まり,現病歴,既往歴……と秩序立って進められる問診の形式......

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