医学界新聞

2016.03.07



Medical Library 書評・新刊案内


臨床てんかん学

兼本 浩祐,丸 栄一,小国 弘量,池田 昭夫,川合 謙介 編

《評 者》田中 達也(旭川医大名誉教授/国際抗てんかん連盟(ILAE)副理事長)

専門医も高度な知識をリフレッシュできる一冊

 てんかんは,2000年以上の前から難治の病として知られており,根本的な治療法の模索が現代までも続いている極めて特殊な病態でもある。世界の人口は約72億7000万人と報告されている(「世界人口白書2014」より)。人口の約0.8%がてんかんに罹患していることから,全世界には,約5810万人以上のてんかん患者がいることになる。てんかんは治療費の面からも,各国の行政上の政策としても,非常に重要な課題と考えられている。

 日本の現在の人口は1億2000万人強となり,約100万人の患者が推定されているが,80%以上の症例では,きちんとした治療により発作はコントロールされており,通常の社会生活が十分に可能である。しかし,てんかんの大きな問題点は,偏見である。このため,学校生活,雇用,人間関係にさまざまな問題があり,社会的な弱者に対しての,法制度の整備も十分とは言えない状況にある。2011年と2012年に起きた,てんかん患者による悲惨な交通事故は,てんかん治療の社会的な問題の複雑さ,てんかん治療の重要性を再認識させられた。しかし,一面では,法制度整備の盲点を浮き上がらせたとも考えられる。

 このたび,医学書院から兼本浩祐先生(編集者:国際抗てんかん連盟てんかん精神医学委員会委員長)らによる『臨床てんかん学』が刊行されたのは,実に時の要求に応えたものと言える。本書は,日本を代表するてんかん専門の基礎および臨床の研究者による分担執筆で構成されている。てんかんの基礎医学,症候学,診断学,薬物治療および外科治療,てんかんの社会的問題,日本てんかん学会および日本神経学会のてんかんガイドラインなど,この一冊にてんかんに関する最新のエッセンスが全て網羅されている。

 始めに,てんかんメカニズムを理解するために必要で,しかも基本的な疫学,神経生理学,病理学が詳細に説明され,疾患各論では各分野の第一線で最も活躍されている研究者が,初心者によくわかるように,わかりやすい構成を心がけて詳細かつ丁寧に説明されている。しかもこのため,初心者はもちろんのこと,実際にてんかんを専門に治療している医師にとっても,各項目の豊富な引用文献を検索することにより,より高度な知識をリフレッシュすることが可能で,座右の書の一つになるものと思われる。

 本書は,てんかんを診療する内科,小児科,神経内科,脳神経外科や精神科の医師にとっては,必携のエンサイクロペディアと位置付けられる。さらに,てんかん患者をケアする,看護師,介護職員,患者家族にとっても,てんかんの基本的な介護と治療の重要性を理解するために必要なバイブルとなろう。

 2015年は,てんかんに関する大きな転機が訪れた。世界保健機関(WHO)が,ジュネーブでの総会で,「てんかん医療の強化に関する決議」を採択したことである。この決議により,今後10年間,世界各国の厚生省,厚労省に,てんかんの治療,研究,創薬,一般社会への啓蒙を進めるように進言することが承認された。わが国でも,てんかんに対する新たな取り組みとして,2015年から厚労省が,てんかんネットワークの構築のための,てんかん拠点病院の指定を開始している。

 本書が最新の「てんかん学」を網羅していることから,てんかんに苦しむ多くの患者を救うために奮闘している多方面の関係読者の愛読書となるものと期待している。

B5・頁688 定価:本体15,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02119-7


《日本医師会生涯教育シリーズ》
Electrocardiography A to Z
心電図のリズムと波を見極める

日本医師会 編・発行
磯部 光章,奥村 謙 監修
清水 渉,村川 裕二,弓倉 整 編
合屋 雅彦,山根 禎一 編集協力

《評 者》相澤 義房(新潟大名誉教授)

リズムを見極め,波形を見極め,かつ治療方針を確かにする書

 このたび,磯部光章先生,奥村謙先生の監修による,『Electrocardiography A to Z――心電図のリズムと波を見極める』が刊行された。本書は日本医師会企画による第一線の臨床医に向けた循環器領域のシリーズ『心電図のABC』(日本医師会)のいわば改訂版とも言えるものである。

 「監修・編集のことば」にあるように,心電図や不整脈のわかりやすい入門書であると同時に,最近の不整脈治療の進歩が理解できるように企画されている。その結果,非専門医であっても,心電図と不整脈を自ら診断し,臨床的意義を再確認できるとともに,最新治療とのかかわりを確認することができる。また退屈になりがちな心電図の記録法や波形の成り立ちの記述も,カラーで見やすく,簡潔かつ十分に内容のある口絵としてまとめられている。このカラー口絵と第I章で,心電図の基本的知識が十分に身につく。第II章では心電図や不整脈診断における一般的な流れが示されている。このようなアプローチは,心電図や不整脈診断や判読の基本で,その流れの先にはおのずと正しい診断があると言える。第III章以下,異常所見や不整脈があった場合,その病態やメカニズムはどうなっているのか,どのような治療がありかつ必要とされるかも述べられており,大変に実用的でもある。

 一般に一冊の解説書を読み上げることは日常の臨床の中では大変な労力になる。しかし本書は,目下必要性が迫られている項目から始め,時間のあるときには他の項目を読み進めるということで,ページは前後しても,本書の意図する診断から治療までの心電図と不整脈の基本と最新情報(AからZまで)が整理でき理解できるようになっていると思われる。

 執筆陣はいずれも第一線で活躍中の,脂の乗りきった専門医である。といって,自身の得意分野に関する心電図や不整脈の高度な知識や技量についての記述は抑制されて,どこを読んでも基本と最新情報まできちんと述べられている。随所に挿入されている「ひとくちMEMO」も,最新の知識の整理に効果的である。

 あまたの心電図の解説書が刊行されているが,リズムを見極め,波形を見極め,かつ治療方針を確かにするという点から,本書は必要かつ十分な条件を満たしている。日常臨床に役立つ書として確信をもってお薦めできる。

B5・頁304 定価:本体5,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02150-0


《眼科臨床エキスパート》
緑内障治療のアップデート

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信 シリーズ編集
杉山 和久,谷原 秀信 編

《評 者》田原 昭彦(産業医大名誉教授/田原眼科院長)

眼科専門医,専門医指向者にとっての教科書的書籍

 400ページに及ぶ緑内障治療に関する本が出版されたと知り,早速手にした。

 フローチャートと表が多く使用され,写真,図が豊富である。Webサイトを通して動画を見ることもできる。商品名を記した薬物治療の実例が示されているなど,臨床の第一線を意識した構成である。要となる箇所は,著者の単なる印象ではなく文献を引用した記述であり,説得力がある。「臨床の現場で役立つ」と「根拠が明らかな記述」を重視した編集者のコンセプトを感じる。

 章ごとに見ると,第1章「総説」では緑内障治療に当たっての基本姿勢が述べられている。治療の目的,治療開始前の準備,薬物療法での注意点,レーザー治療や手術療法の適応などが,膨大な過去の研究を咀嚼してわかりやすく解説してある。目標眼圧の決定時に考慮すべき要因,高眼圧症や緑内障の治療開始のタイミングなど参考になることが多い。

 第2章「病型別治療」では,各病型で微妙に異なる薬物療法,手術療法,そして予後が記載してある。原発開放隅角緑内障の薬物治療から手術へ切り替えのタイミング,原発閉塞隅角緑内障,原発閉塞隅角症の改訂された分類とその治療はわかりやすい。

 第3章「薬物治療の実際」では,緑内障治療薬の紹介に加え,点眼薬の効果判定の詳細,多剤併用時の組み合わせについて,詳しく説明されている。ROCK阻害薬も含まれている。β遮断薬の効果減弱時の対応やアドヒアランスが不良なときの対処法は,役立つ手法である。前の「総説」「病型別治療」とともに,緑内障を専門としない眼科医にもぜひ読んでほしい章である。

 第4章「レーザー治療」では,レーザー線維柱帯形成術の適応,手技,治療成績などが動画付きで詳細に記載されており,本術式導入時には必読である。また,迷うことが多いレーザー虹彩切開術の適応が,わかりやすい表で示されている。

 上記の4章に続き,第5章「トラベクレクトミー」,第6章「チューブシャント手術」,第7章「トラベクロトミーと流出路再建術」と,手術の術式が独立した章を構成し,全体の半分以上のページを占める。編集者の緑内障手術に対する意気込みを感じる。「手術テクニックのコツと落とし穴」や「術中・術後のトラブルシューティング」の項が設けられ,手術で遭遇するさまざまな場面でのエキスパートのテクニックや工夫が,動画を含め惜しみなく披露されている。例えば,トラベクレクトミーでは,内眼手術の既往眼に対する対策,強膜弁直上からの房水漏出に対する処置,さらに術後レーザー切糸での切糸の順番やTenon囊が厚い例での切糸のコツなど,細部にわたる。トラベクロトミーでは,Schlemm管が狭い例やプローブ挿入時に早期穿孔した場合の対応,プローブは左右どちらから先に挿入するかなど,参考になる。また,チューブシャント手術では,手術適応から手術手技,周術期の管理,トラブルシューティングが詳しく述べられており,本手術を始めるに当たって目を通すべき章である。

 緑内障は,治療に際し考慮すべき要因が多い。点眼薬は多種多様で,確実な手術法がない。さらに,多くは慢性で,消失した視機能は取り返せないと,苦慮することが多い疾患である。しかも,その罹患率は40歳以上で5.0%と高く,眼科臨床医として避けることはできない。そのような疾患と取り組む眼科専門医,専門医指向者にとって,本書は教科書的書籍と言える。また,スタンダードな治療法がない緑内障診療で,エキスパートのちょっとしたアドバイスが,しばしば好結果につながる。緑内障専門医をめざす医師や経験豊富な緑内障専門医にとっても,さらに上の段階への足掛かりとなる書である。

B5・頁424 定価...

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