医学界新聞

連載

2015.12.07



Dialog & Diagnosis

グローバル・ヘルスの現場で活躍するClinician-Educatorと共に,実践的な診断学を学びましょう。

■第12話:1859年より愛を込めて

青柳有紀(Consultant Physician/Whangarei Hospital, Northland District Health Board, New Zealand)


前回からつづく

 皆さん,いかがお過ごしですか。月日の経つのは早いもので,この連載もおかげさまで12回目を迎えました。今回は再び前任地のルワンダから,ある興味深い症例について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

[症例]19歳の女性。主訴:遷延する発熱,意識障害。3週間前に軽度の頭痛,発熱および倦怠感を理由に地域病院を受診した。マラリア疑いで入院加療となるも,複数回施行された血液スメアの結果はいずれも陰性であった。この間,coartem®(アーテメター・ルメファントリン合剤)によるエンピリックな治療が開始されたが,39℃前後の発熱は遷延し,倦怠感は徐々に増悪した。このため,重症マラリアを想定したキニーネ静注が開始された。入院2週目以降も症状は改善せず,40℃前後の発熱の持続に加えて,呼び掛けに対する反応の低下がみられるようになったことから,首都の3次医療機関に転送されてきた。付き添っている母親の話では,嘔吐・下痢などの消化器症状および呼吸器症状はなく,関節の腫脹や痛み,皮疹などもないという。

 入院時バイタルは体温40.0℃,血圧98/60 mmHg,心拍数80/分,呼吸数14/分,SpO2 99%(room air)。診察時,患者は開眼しているものの,呼び掛けに対する反応に乏しく,ぼうっとした表情をしている。肩を叩いたり,痛み刺激を与えたりすると反応を示し,覚醒するが,意思疎通は困難である。眼瞼結膜に出血はなく,口腔内粘膜所見も正常。頸部や腋窩にリンパ節は触れない。呼吸音・心音ともに正常である。腹部診察で脾臓を肋骨弓下に2横指触れる。腹部に圧痛なし。大小関節に異常所見なし。皮疹なし。眼底の所見は正常。四肢に筋力低下や深部腱反射の異常はみられない。

あなたの鑑別診断は?

 皆さんはこの症例についてどう思うでしょうか? 生来健康な女性にみられた,3週間も続く発熱の症例です。しかもかなりの高熱のようです。マラリアを疑って血液スメアが複数回施行されていますが,経口および静注によるエンピリックな治療に対して症状の改善はみられませんでした。それどころか,「意識障害」が増悪しているようです。でも,この「意識障害」は,少し奇妙です。「嗜眠」や「混乱」ではなく,「昏睡」でもありません。また,意識の「混濁」ともやや異なるような印象を受けます。

 病歴と身体所見から,特徴的な点をいくつか列挙してみましょう。

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