「患者中心」であるということ②(川越正平,澤憲明)
連載
2015.10.19
クロストーク 日英地域医療
■第11回 「患者中心」であるということ②
川越正平(あおぞら診療所院長/理事長)
澤 憲明(英国・スチュアートロード診療所General Practitioner)
企画協力:国際医療福祉大学大学院 堀田聰子
(前回からつづく)
日本在宅医と英国家庭医──異なる国,異なるかたちで地域の医療に身を投じる2人。現場視点で互いの国の医療を見つめ直し,“地域に根差す医療の在り方”を,対話[クロストーク]で浮き彫りにしていきます。
川越 前回(第 10 回/第 3142 号),澤先生が指摘されたのは,日本では医療化が進んでいる印象があるということでした。そして患者をアドボケート(支援・擁護)する役割を,意識的に行う医師が増えることでその状況は良い方向に変わっていくのではないか,そのように提起していただきました。
澤 そのとおりです。医療化に関して,川越先生はどのようにお考えですか。
川越 まず申し上げたいのは,日本の医師は「過度の医療化」を志向しているというわけではないということです。
医療の究極的な目的を考えると,患者の幸せを最大化することにあるのだと思います。その実現のために,医療という技術を使用する場面もあれば,使用を避ける判断がベストな場面もある。しかしながら専門家の性(さが)なのでしょうか,「自分の知識・技術で患者のために何ができるのか」という思考から医療介入がどうしても優先され,それを複数の医師が幾重にもかかわっていくことで,結果的に医療化が進行してしまう。このようなことが,日本のあちこちで起きているのではないかと思います。ある意味,医師たちが「職能に真面目であるから」とも言えるのかもしれません。
澤 専門家としての役割を発揮しようと取り組んでいるからこそ,と。
川越 そうです。でも,「真面目にやった結果だから」といって正当化されるものではありませんよね。
社会的な議論にも発展した,胃ろうの問題もわかりやすい例ではないでしょうか。「口から食べられないと死んでしまう。栄養確保の方法は胃ろうくらいしかない」という医師の説明により,患者家族は胃ろう造設に同意せざるを得ない事態が数多く発生しました。確かに食べられないと死んでしまうのは事実としては間違っていません。でもその対応がベストとは限らない。実際,患者・家族の意向,胃ろう造設後の患者の生きざまや本人にどのような意味をもたらすのか,そうした部分への配慮の抜け落ちた対応も散見されていたわけですよね。
かかりつけ医の意識変容が必要だ
川越 医療化の問題を複雑にさせている要因もあります。一つは,医学や医療技術の進歩に伴い,国民全体の医療に対する期待自体が過度に高まってきた状況。それに加え,一次医療と高次医療がそれぞれ別なものとして機能しているかのような状況です。
特に後者の影響は大きいものです。“一見”の救急病院当直医や病棟を担当する医師も,その日たまたま診ることになった患者が,どんな健康状態でこれまでを過ごし,どのような価値観を持ち,どんな生き方を志向する人なのかを知る術(すべ)があまりに少ない環境にあるわけですから。そうした中では,自分が有する知識・技術でどう対応するかという視点に偏るのも,無理からぬことなのかもしれません。
澤 急性期の病院で患者を「人」としてとらえるのが難しいのは,英国も同様です。非日常的かつハイリスクの問題を扱う二次医療の性格上,どうしても患者とのかかわりが低頻度,かつ臓器別の対応になる傾向にありますからね。英国でも一次医療と二次医療間でのスムーズな連携がより重要視されるようになり,かかりつけの診療所で一括管理された患者情報を病院側に伝えたり,病院医師がGPに連絡をとり,病棟患者の背景について助言を求めたりするなどの対応をとっています。
川越 患者中心の医療を実践するためには,日本ではまず,医師の意識変容から必要そうです。医師,特にかかりつけ医においては,患者の健康問題のうち,自分の専門領域のみを担当するという発想からの脱却が求められます。専門外も含め,その人の健康...
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