医学界新聞

寄稿

2015.09.14



【寄稿】

奄美発! 「手あて」の医療を全国へ
医療と行政がタッグを組んだ勉強会「JPC2015」開催に向けて

平島 修(徳洲会グループ奄美ブロック総合診療研修センター センター長/JPC2015実行委員長)


 2014年7月,「前代未聞の勉強会をしたい」という思いから,鹿児島県奄美大島の,そこからさらに南の小島・加計呂麻島において,2泊3日で身体診察を学ぶ合宿企画「Japan Physical Club 2014 in KAKEROMA」(以下,JPC 2014)を開催しました。人口1500人に満たない小さな島での医師・医学生100人を集めた勉強会は前代未聞。会場となった診療所の狭いエントランスに全員が集まったときの一体感はすごいものでした。

 本年10月10-12日,同イベントの第2回にあたる「Japan Physical Club 2015 in Amami」(以下,JPC 2015)を開催します。本稿ではその紹介とともに,私たちが込める想いを示したいと思います。

リソースの限られた離島で,医療の在り方を考えたい

 好評を博したJPC 2014。第2回となるJPC 2015を企画するに当たっては,まず,あらためて「なぜ,アクセスの悪い奄美大島で行うのか」「その目的(ビジョン)は?」を問い直すことから始めました。

 開催地の奄美群島は,奄美大島を中心に周囲に喜界島・徳之島・沖永良部島・与論島などの島々から成り,周囲には珊瑚礁の残るきれいな海が広がる場所。その中の一つ,奄美大島は,都会にはない手つかずの自然の美しさを保つ一方で,都会のような充実した医療体制がありません。救急医療・リハビリ医療・療養医療・訪問医療などを分担して行うことも難しい状況で,地域に存在する全ての医療形態および専門医療の集約が必要になっています。それでもなお力が足りず,ヘリコプターで沖縄県や鹿児島本土の病院まで搬送するということもしばしばです。しかし,こうした状況で医療を円滑に行うためには,行政との協力が不可欠であるという事実に気付かされ,連携の経験を重ねてきた中で,新たな医療の形が見えてきました。

 そこで,今回のJPC 2015では,医療者だけでなく,現地で行政・観光を担っている行政職員らと共に実行委員会を立ち上げ,運営を行いたいと考えました。そして,本勉強会を通し,医療は地域住民の生活を支えるためにあるという再認識を図り,医療者だけでなく,地域に存在する住民をも巻き込んで,在るべき医療の姿について考えていくことのできる企画にしようと思い至りました。

「命」と「医療」を考える3日間

 コンセプトを新たにしたJPC 2015では,以降の3つを狙いとしています。

◆「手あて」の医療を日本中に広げる
 身体診察は,患者さんに手をあてて行うものです。この「手あて」という行為は,単に患者さんの身体から必要な情報を引き出すためだけのものではありません。医療者の手のぬくもりは,患者さんに安心を与えるものであり,症状を緩和させる力もあるものです。私たちはこの「手あて」の医療を大切にし,それを体現する身体診察技法についてみっちり学べるような企画を予定しています。

 登壇する講師は,全国各地で勤務する医師計13人。彼らは並々ならぬ熱意を持って,「身体診察」をキーワードに参加者を巻き込む講演・ワークショップを展開します。JPC 2014において,心音の口真似で会場を沸かせた徳田安春氏(地域医療機能推進機構本部),趣味の「写真」を生かしたレクチャーで聴衆を魅了した須藤博氏(大船中央病院)は,今年も参加。また,10年目前後の有志の医師らで結成した出張講師軍団(通称「Galaxy」)も昨年同様に大暴れする予定です。「楽しく,勉強になる」という想いを体現したレクチャーに挑みます。さらに奄美群島の医療を担う医師が登壇し,身体診察と地域医療の両テーマを絡めた,離島医療の現場の声が聞こえてくるようなワークショップもありますし,参加者の持ち込み企画でも身体診察に対する熱い想いが披露されるはずです。

JPC 2014の模様
左:徳田氏によるレクチャーの様子。/右:青空広がる浜辺で,自らの身体を使いながら身体診察の技術を学んだ。

 以上のように,ライブでしか得られぬ内容を,予測ができない展開でもってお届けします。単なる講演会ではなく,登壇する医師と参加者がそれぞれの想いをぶつけ合い,参加する全ての人たちで作っていくのがJPC 2015なのです。

◆「命」と,地域の医療に必要なものを市民と共に考える
 医学生・医師のコミュニティーも,社会全体から見れば小さな一集団にすぎません。医療そのものをより良いものに変えようと考えても,医学生・医師だけが集まったところで,生まれる変化は小さなものなってしまうでしょう。変革のためには,病院を受診する側に立つ一般の市民も含めて,これから医師になる医学生や現場で働く医師と意見をぶつけ合っていく必要があるのではないでしょうか。そこで,JPC 2015では特別企画として市民参加型シンポジウムを開催いたします。

 これは,JPC 2015参加者約150人(講師陣含む)と地元住民参加者約200人による討論会です。前半は,医療者側の代表として奄美大島で働く松浦甲彰氏(名瀬徳洲会病院院長・医師),スーダンでへき地医療を実践している川原尚行氏(特定非営利活動法人ロシナンテス代表・医師 ※ビデオ出演)が,住民代表として朝山毅氏(奄美市市長),大久保明氏(鹿児島県大島郡町村会会長)が講演。その上で,後半は住民にもマイクを向けて声を拾い,全国から集まった医学生・医師がそれらに応えるという形で,「命」とその命を守るために地域の医療に求められることを考えます。住民が抱えている不安や健康問題から地域が抱える課題まで,住民と医師らが膝を突き合わせて話し合い,在るべき地域医療の姿を描き出していきたいと思います。

◆離島医療から日本に必要な医療を考える
 さらに視線はその先へ。未来の高齢化した日本の縮図とも言える奄美群島の問題点を抽出していくことで,日本の医療を考えるきっかけにできればと思っています。奄美群島はこの数十年で過疎と高齢化が急速に進み,1950年代半ば,奄美群島全体で20万人だった人口も,現在では約12万人に減少し,高齢化率は約29%。2040年には40%になるとも予測されており,日本の平均的な地域の少し先の状況を歩んでいます。

 離島医療の現場では,来院した高齢患者に対し,自分で診るべきか,または近隣の病院にヘリで搬送すべきか,はたまたどこまでの医療を施すべきなのかと思い悩むことも少なくありません。その決断を行う上で問われるのが,患者さんとの日々のコミュニケーションであったりします。患者さんを前に,医師が健康問題という点ではなく,「人」として診ることができているのか,それが鍵を握るのです。市民との交流を通して「人を診る」の原点に立ち返り,将来求められる日本の医療の在り方を考える機会にしたいと思います。

 JPC 2015では,たくさんの「楽しい,感動,そして新しい自分が見つかる」時間を作ります。全国から集結する講師陣は第一線で活躍し,それぞれに強い想いを抱く医師ばかりですし,ボランティアの奄美市職員,青年団,婦人会などの地元住民も同様に熱い想いを持ち,参加者の心に火を灯します。皆で想いを統一するためにテーマソング,そろいのTシャツ……など,今回も趣向を凝らしてお待ちしています。

 8月25日執筆時点で,すでに約100人の申し込みがあり,今回も北は北海道から南は沖縄まで,全国各地の医学生・研修医・医師が駆けつける予定です。開催地が東京や大阪ではなく,アクセスの悪い奄美大島だからこそ,参加者からの「変わりたい」「変えたい」という強い想いを感じています。全国から集った参加者が学びを各地へ持ち帰り,広めてゆくことで,「手あて」の医療が日本に広がるのではないか,と期待が高まります。JPC 2015が,「手あて」の医療であふれる日本の幕を開くことを祈り,いざ開催です!


ひらしま・おさむ氏
2005年熊本大医学部卒。福岡徳洲会病院で初期研修後,同院総合内科で2年間後期研修(内6か月間,奄美大島で離島研修)。09年市立堺病院総合内科,13年瀬戸内徳洲会病院加計呂麻診療所所長を経て,14年より現職。12年に身体診察技法を学ぶ勉強会「フィジカルクラブ」を立ち上げ,現在は全国各地で医師・医学生向けに出張講義を行う。

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