ジェネシャリスト診断学 その1 ジェネラルに考える(岩田健太郎)
連載
2015.06.15
The Genecialist Manifesto
ジェネシャリスト宣言
「ジェネラリストか,スペシャリストか」。二元論を乗り越え,“ジェネシャリスト”という新概念を提唱する。
【第24回】
ジェネシャリスト診断学 その1 ジェネラルに考える
岩田 健太郎(神戸大学大学院教授・感染症治療学/神戸大学医学部附属病院感染症内科)
(前回からつづく)
診断とは,患者に起きている現象に対して相応する名前(コトバ)をつけてあげる作業をいう。その現象を時間で切れば「病歴」となり,空間で切れば「身体診察所見」となり,あるいは血液検査や画像検査所見となる。切り口はいろいろだが,それぞれのアプローチは病気という全体的で総合的な現象を部分的に説明したものだ。部分から全体を透かして見ることができれば,それが「診断」である。
*
ジェネ“ラ”リスト的に診断を考えるとき,「蹄(ひづめ)の音を聞いたら,シマウマではなく馬を探せ」と言われる。これは標語である。そこにはいくつかのメッセージが込められている。
例えば,頻度の高い病気に遭遇する確率は,頻度の低い病気に遭遇する確率より高い,とか。それってトートロジーじゃないか,というツッコミもあるかもしれない。もちろん,トートロジーである。標語とはしばしばそういうものなのだ。
「シマウマを考えるな」ということは,「診断仮説を百花繚乱的に精査する方向に行くな」という戒めも内包している。発熱患者全員に家族性地中海熱の遺伝子検査をしたり,頭痛患者全員にMRIを撮ったりするのは面倒くさいし,コストがかかりすぎる。
もしかしたら,頭痛患者全員にMRIを撮るというアプローチは,学問的には興味深いアプローチなのかもしれない。例えば,ひどい頭痛と白質の強信号の関連性は,このようなポピュレーション・ベイスドなアプローチから見いだすことができる1)。こういう知見は,逆算的にMRI所見からの頭痛診断に寄与するかもしれない。
*
しかし,それは――つまり「寄与するかもしれない」ということは――,未来の患者にとっての恩恵の可能性を示している,という意味でしかない。言い換えるならば,それはリサーチ・マターなのである。そのような情報は目の前の患者には直接的には恩恵を与えない(可能性が高い)。
目の前の患者に対する恩恵というのは,そのMRIを撮った場合と撮らない場合において,診療方針が大きく変わる場合において“のみ”に現れる恩恵だ。しかし,頭痛の治療は,MRI所見とは関係なく行われる。病気という現象の把握に「MRI所見」という新たな側面が加わっただけで,現象そのものの把握が変じたわけではない。
患者に関する情報を何でもかんでも手に入れようとするアカデミックなアプローチは“将来の”医学の発展に寄与する可能性がある(寄与しない可能性もある)。しかし,そのアプローチが目の前の患者の恩恵に直接的に寄与しないのであれば,MRIという検査の原資を患者のポケットや医療保険から捻出させるのは倫理的に間違っている。
医者の知的好奇心が悪いというのではない。ただ,そのような知的好奇心,学問的満足を患者から得るのであれば,「私はあなたの病気を使って私の知的好奇心を満たしたい。ひょっとしたらそれは将来の患者の役にも立つかもしれない(立たないかもし
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