医学界新聞

寄稿

2015.06.08



【寄稿特集】

これが私の進む道!! 2015
6人の先輩から後輩へ“贈る言葉”


 「進路を決めるのは風ではない,帆の向きである。人の行く手も海を吹く風に似ている。人生の航海でその行く末を決めるのは,なぎでもなければ,嵐でもない,心の持ち方である」。これは,米国の女性作家で詩人のE.W.ウィルコックス(1850-1919)の詩「運命の嵐」の一節です。

 医学生や,初期研修医の皆さんは,これからの進路選択を前に,さまざまな診療科を見学したりローテートしたりする中で,診療科の選択に迷うこともあるのではないでしょうか。そこで今回は,さまざまな分野で活躍する6人の先輩に,現在の“道”を選んだ理由や研修生活などについて聞いてみました。進路に悩む後輩への“贈る言葉”が,自分なりの医師像を見つけるきっかけになれば幸いです。

こんなことを聞いてみました
(1)経歴
(2)診療科の紹介
(3)ここが聞きたい!
 a.この科をめざしたわけ
 b.現在の研修生活は?
(4)同じ道を志す後輩への“アドバイス”
上村 悠
森下 緑
本田 由貴
小川 崇
前田 恭世
寺澤 佳洋


感染症科

国際保健への関心とへき地医療での学びが結び付く

上村 悠(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター フェロー)


(1)2008年信州大医学部卒。1年間の国試浪人を経て,09年より長野厚生連富士見高原病院で初期研修2年間・内科後期研修1年間(一部は佐久総合病院)。12年より国立国際医療研究センター総合感染症コースで感染症後期研修を受け,15年4月より現職。

(2)感染症診療とその予防にかかわる仕事が中心となります。一般的な感染症についての外来・病棟業務に加え,他科・他院からの感染症や不明熱患者のコンサルト業務,院内感染対策,予防接種などを担当します。

(3) a.2004年にスマトラ島沖地震が発生しました。当時学生だった私は,津波後の復興について現地スマトラ島で学ぶ機会があり,それがきっかけで国際保健やへき地医療など,地域間の医療格差問題にかかわりたいと考えるようになりました。

 初期研修では実際にへき地に近い地域(と言ったら怒られるかもしれませんが)で研修を受ける機会がありました。医療資源が限られている地域では「診療科」の区切りは曖昧です。例えば神経内科の医師であっても膵炎の診療をしますし,上部消化管内視鏡検査などの手技を行うこともあります。へき地医療ではGeneralに患者を診る能力はもちろん,実践の現場ではそれに加え,専門的な知識・技術も持ち合わせていることが,他の医師の大きな助けになることを体感しました。

 いざ専門科を選ぼうとすると,一つの臓器になかなか興味を絞ることができませんでした。そうした中,治療の末,無念にも亡くなってしまった患者さんの死因の多くが肺炎などの感染症であったことから,地域医療における感染症診療の役割を認識しました。また,私はもともと昆虫などの小さな生物に関心があり,微生物について深く学ぶことにも興味があったこと,学生時代から関心のあった国際保健での重要なテーマが感染症であることも感染症科を志望するきっかけとなりました。

 b.感染症科のある病院でも,感染症は通常,臓器別にそれぞれ専門の医師が診ます。各臓器の専門の医師でも診療に悩む症例,各科の専門外の感染症,時間の制約がある外科系医師などからの相談など,他科の医師から相談を受けた際には責任とやりがいを感じます。またマラリアなどの熱帯感染症やHIV感染症など,あまり一般的でない疾患の診療も感染症医としての醍醐味です。私も研修中に,Zika熱の症例を本邦で初めて診断し,報告する機会がありました。これはまれな一例ですが,貴重な症例や知見を学会や論文で報告することで,医療界にわずかながらも貢献できたというやりがいを感じられます。

 内科や感染症診療の知識・技術は日々Updateする必要があり,常に学ぶ姿勢を持ち続けなければなりません。知らない微生物や病態があると,その都度教科書やガイドライン,根拠となる文献を読みますし,院内外の勉強会や症例検討会にも参加し,幅広く知識を身につけるよう心掛けています。

 感染症科を持つ施設は限られ,今後のキャリアを築く上で悩むことも多いかもしれません。私は今HIV感染症を専門に学んでおり,今後この知識・技術をどのように生かしていくか模索中です。

(4)一般内科診療の技術が感染症診療の基盤となりますから,それをしっかり養った上で専門研修を開始することをお勧めします。感染症に興味のある皆さん,個性豊かで教育熱心な医師の多い感染症科で共に働きませんか!?


皮膚科

内科も外科も,病理診断も行いたい

本田 由貴(滋賀県立成人病センター 皮膚科シニアレジデント)


(1)2012年岡山大医学部卒。大阪府済生会中津病院で初期研修後,京大病院を経て,15年より現職。

(2)皮膚科医がかかわる疾患は,蕁麻疹やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患,膠原病や自己免疫性水疱症といった自己免疫疾患,さらに皮膚悪性腫瘍や遺伝性疾患などと多岐にわたります。さまざまな皮膚所見から診断を推測し,必要に応じて皮膚生検を行い,病理診断にて診断を確定します。そしてそれらに応じて外用・内服治療,外科的治療を行います。

(3) a.もともと学生時代から皮膚に興味があり,多彩な皮膚症状を観察するのが面白いと感じていました。初期研修では,内科から外科まで幅広く研修しました。前述の通り,皮膚科医は内科的治療に加え,外科的手技を行い,なおかつ病理診断にも携わることができます。待ちに待った皮膚科での研修では,皮膚科医が皮膚症状を注意深く観察し,患者の既往疾患や生活背景などを総合的に考慮し診断を行う過程とその姿に憧れました。欲張りと思われるかもしれませんが,医学部6年間,初期研修2年間の経験から,「内科も外科も病理診断も行いたい」という思いを強くしました。それに加え,かねてから皮膚という“臓器”に興味があったので皮膚科を選択しました。

 皮膚科疾患には病名が多数あります。当然ですが,その疾患を知っていなければ診断はできません。それゆえに,見たことのない皮膚症状に出合うと診断に苦慮しますが,今は,それらを日々勉強できることに楽しさを感じています。

 皮膚科領域には,病因や治療法がわかっていない疾患が多数あります。将来はこのような皮膚疾患の原因解明や治療法の開発に貢献したいと考えています。

 b.当院は皮膚科医2人で診療を行っています。昨年は大学病院で病棟業務中心の研修でしたが,今年度より外来診療を行うようになりました。その外来診療に加え,外来・入院患者の手術,毎週定期的に開かれる病理医との合同病理カンファレンスを行っています。時におびえつつ,焦りながらも,上級医の指導の下,毎日とても楽しく学んでいます。

(4)皮膚科は本当に面白いです! 皮膚科疾患は「水虫と湿疹ばかり」と思われがちですが,研修してみると疾患の多さとそれらを治療する面白さに圧倒されることでしょう。皮膚科をめざしている方は,初期研修中,どの科を研修しているかにかかわらず,患者さんの皮膚症状を注意深く観察することをお勧めします。一緒にDiscussionできる日がくるのを楽しみにしています。


耳鼻咽喉科

自身の病気体験と,人との出会いに導かれて

前田 恭世(東京女子医科大学病院 耳鼻咽喉科後期研修医)


(1)2008年東女医大医学部卒。同大病院での初期研修を経て,10年より現職。

(2)耳鼻咽喉科は,視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感のうちの4つに携わり,神経耳科やアレルギーなどの内科的側面もあれば,大小さまざまな手術ができる外科的側面もある診療科です。外来や病棟で処置をすることがとても多いため,手を動かすことが好きな人にはお勧めです。耳鼻咽喉科医は悪く言えば“せっかち”,良く言えば時間を無駄にしない人が多いです。採血結果を待つ間にも耳や鼻,咽頭の異常を目視で確認し情報を集めます。“せっかち”な人にピッタリの診療科かもしれません。

(3) a.大学2年次に突発性難聴になりました。当時聴力低下を自覚していましたが1週間放置し,親友の母である耳鼻咽喉科医に相談したところ,「すぐさま外来受診しなさい!」と怒られ受診。幸いゴールデンタイムの治療を受けることができ,回復しました。その先生は3人の子どもを育てあげ今も現役で活躍しており,医師として女性として,私の目標とする先生です。

 私は,初期研修1年目に第1子を出産しました。科の選択を迫られる初期研修2年目の夏に,子どもの風邪がうつり中耳・鼓膜炎になってしまいました。そのときに診てくださった先生は学生時代の部活の先輩でした。連日の耳処置にて無事改善。今でもお世話になっています。

 幼少期から手を動かすことが大好きだった私は,大学時代に手術室の環境が気に入り,手に職をつけ細く長く続けていける科に進みたいと考え,マイナー外科に興味を持ちました。そんな折に,こうした先生方との巡り合いも重なり,耳鼻咽喉科を選択しました。でも実は産休の関係もあり,初期研修で耳鼻咽喉科をローテートしておらず,3日間耳鼻咽喉科を見学し,決めました。

 b.入局してから第2子も生まれ,現在5歳と3歳の子を持つ母親です。保育園は夕飯まで用意してもらえるため,母親といってもほぼ何もしていません。朝(早く起きられたら勉強して),子どもたちを保育園に送り届け,外来・手術・病棟業務が終わるのが18時前後。それから手術組みや専門医の試験勉強をし,20時過ぎに子どもたちを迎えに行き,お風呂に入って子どもたちを寝かしつけるつもりが,自分が一番先に寝ています。子どもたちが小さかったころは,院内保育園に預けて当直をしていましたが,今は子どもたちの寝る時間も長くなったこともあり,当直中は夫が見てくれています。

 当科には,人に優しく自分に厳しく日々努力を惜しまない先生や,責任感が強く患者さんからの信頼も厚い先生など,尊敬できる先生方が周りに多くいらっしゃいます。患者さんの検査・治療指針については基本的に自分で決定しますが,病態が難しい症例や治療方針が間違っているときには優しく手を差し伸べてくださる,そんな先生方の間で勉強させていただける環境に感謝しています。

(4)医師になってどの科を選んだとしても大変です。日々勉強,日々実践です。大学時代や初期研修で出会った人たちとの巡り合いなども大事にしてほしいと思います。


整形外科

複数科で学べる学生・初期研修生活を有意義に活用する

森下 緑(東京都済生会中央病院 整形外科専修医)


(1)2012年愛媛大医学部卒。国立病院機構災害医療センターで初期研修後,14年より現職。

(2)当院の整形外科は,後期研修医2人を含む9人のスタッフがおり,年間800件以上の手術を行っています。股関節,脊椎,手の外科,膝関節の各分野を専門とする医師がバランスよくそろっており,後期研修医は,主に外傷診療を担っています。学会発表などのアカデミックな活動も盛んです。

(3) a.整形外科に興味を持ったきっかけは,学生時代のポリクリで脊柱側彎症の手術を見学したことです。側彎の手術は,術後にドレープを取った時点で目に見えて変形が矯正されていることがわかります。それが学生の自分にとっては感動的でした。

 初期研修1年目の終わりごろ,後期研修先を整形外科に決めました。当科に決めた最大のポイントは,さまざまな部位の手術ができること,それから疼痛緩和にも携われることの2点です。進路を整形外科に決めてからは,脳神経外科を3か月まわりました。整形外科以外で整形に生かせる分野をしっかり学びたかったのと,整形外科に飛び込む前に興味のある分野をたくさん経験しておきたかったからです。緊急手術などに入らせてもらううちに,自分が好きなのは,解剖学的な形態が複雑な頭蓋骨と硬膜なのだと気が付きました。脊椎脊髄も好きですね。手術中,この膜の下には神経の束があるのだと思うと,人間の身体の神秘を感じ,身が引き締まる思いがします。

 整形外科では,歩けなかった人が歩けるようになるところを何度も目にします。再診の外来で,患者さんの元気な姿を見たときには,当科のやりがいを感じました。外来では疼痛に関してプライマリ・ケア的な部分も担うため,患者さんのQOLに直接かかわれるのも魅力の一つです。

(3) b.普段の仕事は,主治医としての朝夕の病棟管理,日中は外来や手術...

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