ジェネシャリストの育成は,学生のときから始まっている(岩田健太郎)
連載
2015.01.19
The Genecialist Manifesto
ジェネシャリスト宣言
「ジェネラリストか,スペシャリストか」。二元論を乗り越え,“ジェネシャリスト”という新概念を提唱する。
【第19回】
ジェネシャリストの育成は,学生のときから始まっている
岩田 健太郎(神戸大学大学院教授・感染症治療学/神戸大学医学部附属病院感染症内科)
(前回からつづく)
医学生や初期研修医が神戸大病院感染症内科をローテートする。そのほとんどが感染症専門医になることをめざしておらず,感染症で食っていこうとは思っていない。
ぼくはそのような学生,研修医を大歓迎する。5年生の場合,ローテートの期間はたった1週間だ。6年生では2週間。研修医だと1-2か月のローテーションが典型的である。
短すぎるとは思う。伝統的に,大学病院のベッドサイド・ラーニング(BSL)は,「実習」ではなく「見学」にとどまってしまう傾向にある。そして,医局側はこれを学生の教育の場というよりも“リクルートの場”として考えがちだ。本来であれば6週間くらい長期にローテートさせて,学生が医者になったときに「使える」ようしつけるべきなのだが,そうするとローテートしない診療科が生じてしまう。「うちの科に人が来なくなる」と危惧する人が現れ,かくして学生の教育内容はほったらかしで,1週間の見学ツアーの連打が継続されるのである。誠に愚かしいことである。
*
しかし,たとえ1週間であっても決してまったくの無駄とは言えない。どんなに短期間の教育だって有効に働くことは可能なのだ。1日の見学であっても,1回のレクチャーですら,その学生の生涯に決定的なインパクト,教育効果を与えることがある。だから「1週間じゃ,何も教えられない」なんて嘆く暇があるのなら,「1週間でどこまで教えることができるだろう」と考え,工夫すべきなのであろう。
5年生には何を目標にすべきだろうか。6年生になってから感染症内科を回らない学生も多い。感染症に興味がなければ,なおさらだ。そういう学生が卒業し,初期研修を終え,各科の専門家に育っていく。日本の多くの初期研修病院では,まだ「きちんとした」感染症診療教育は行われていない(「きちんとした」感染症診療も当然行われていない)。ということは,この5年生たちは今後,オーセンティックな感染症の教育を受ける機会が一生ないのかもしれない。しかし,どんな診療科を専門にしても感染症が皆無な診療科は存在しない。外科系,内科系,メジャー,マイナー,病院,外来,在宅診療,放射線科や病理診断科に至るまで,全て感染症が絡むのは間違いない。医者になるなら,感染症を知らなければいけないのだ。
*
というわけで,感染症内科を回る5年生の1週間は,「今後,オーセンティックな感染症教育を一生受けないけど,(たとえ嫌々であっても)感染症を診なくちゃいけない医者になる人たちのための1週間」となる。なので,下記の4つが教育目標になる。
(1)絶対に踏んではいけない地雷(それをやると患者は困るよ,場合によっては死ぬよ)
(2)考え方の基本(「なぜ,抗菌薬を使うのか」みたいな)
(3)自分で勉強する方法
(4)1週間ばかり感染症を勉強したくらいでは,この業界についてマスターでき,感染症診療ができるようになるなんてことは「絶対に」あり得ない。ましてや,その1週間すらなかった多くの指導医たちについては,なおさ...
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