医学界新聞

連載

2014.12.08



在宅医療モノ語り

第56話
語り手:大げさですが,地域を診ていく覚悟です
地図さん

鶴岡優子
(つるかめ診療所)


前回からつづく

 在宅医療の現場にはいろいろな物語りが交錯している。患者を主人公に,同居家族や親戚,医療・介護スタッフ,近隣住民などが脇役となり,ザイタクは劇場になる。筆者もザイタク劇場の脇役のひとりだ。往診鞄の中,往診車の中,患者さんの家の中,部屋の中……在宅医療にかかわる道具(モノ)を見つめていると,道具も何かを語っているようだ。

 今回の主役は「地図」さん。さあ,何と語っているのだろうか?


白地図を塗るように
道案内は車のナビやスマホでもできますし,距離や到着時間も正確に教えてくれます。しかし,川をうっすら青く塗り,国道にも色をつけ,地域のことを知りながら,走りながら学んでいくと,これがまた楽しいのです。
 伊能忠敬さんってすごいですよねえ。歩いて,日本地図を作ったあの人です。商人として働いた後,50歳を過ぎて第二の人生の目標を見つけ歩き始めたのだとか。一生の中で山場が2つもあるなんて,登るほうは大変かもしれませんが,面白いでしょうね。

 私はある在宅療養支援診療所に貼られている大きな地図です。「地図を貼る」。これは地域医療の恩師の教えだそうです。駅はこことあそこで,大きな道路がJRと並行し,この周辺は畑ばかり……と,私からはいろんなことがわかるのです。ある日,病院の連携室から電話で在宅医療の依頼がありました。70歳代後半の脳梗塞後遺症の女性。ダンナさんの付き添いで長年の通院歴がありますが,先月,そのダンナさんもがんの手術をされ,ダンナさん側の主治医に「体力的に奥さんの付き添いは大変だし,在宅医療にしたら?」と勧められたのだそうです。連携室の看護師さんから「診療所...

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