医学界新聞

寄稿

2014.11.10



【寄稿】

専門医不足の地域中核病院で
rt-PA治療をどう実現させたか

鈴木 龍児(市立福知山市民病院地域救命救急センター・副医長)


 「専門医がいなくても,急性期の脳梗塞治療であるrt-PA(recombinant tissue plasminogen activator)静注療法を実施したい」。そう考えている地域中核病院の医療従事者は多いのではないだろうか。

 地域中核の急性期病院では,脳梗塞の症例はそれなりに集まる。しかし,専門医の不在やマンパワー不足により,rt-PAによる治療を実施できていない施設は少なくないと思われる。2010年の報告によると,全国の二次医療圏のうち13%もの医療圏でrt-PAの治療が行われていない1)。さらに,都市部と比べ,地方の医療圏は広域であることが多く,同じ医療圏内でもrt-PA治療を受けられる地域と受けられない地域が混在する場合もある。これらの事情もあり,rt-PAを投与されたのは全脳梗塞患者の5%以下にとどまっている2)

 2012年からは,発症3時間以内から4.5時間以内の投与へと適応が拡大されたとはいえ,時間的制約のもと診療を行う必要があることに変わりない。ただ,症状が大幅に改善する可能性があり,軽視できない治療である。

マンパワー不足の状況でも治療体制の整備を決意

 当院は,福知山地域における急性期病院の役割を担っており(約300床・医師約80人),2013年に地域救命救急センターが設置された。脳卒中診療については,脳神経外科の常勤医が1人,神経内科は非常勤医師による外来診療のみ(当時)というマンパワー不足の状況で,Stroke care unit(SCU)もない。それでも急性期の脳梗塞症例は年間約160例に上り,2008年以降は総合内科が中心となって入院診療を担当してきた。

 rt-PA治療については,学会による実施基準を満たしていないためこれまで行っていなかった。同じ二次医療圏(中丹)のSCUを備える舞鶴医療センターではrt-PA治療が行われていたが,福知山地域より舞鶴地域までは陸路で40分もの時間を要するため,治療のための搬送も行えていなかった。

 rt-PAの治療適応と考えられる症例は1年間に数例。しかし数例でも救える可能性があるならと,舞鶴医療センターへ搬送し,rt-PA治療を行うためのプロトコールを作成することにした。

搬送プロトコール作りから始まった

 に,当院でのプロトコール作成の経過を示す。2013年5月に開かれた舞鶴医療センターでの勉強会にて,rt-PA治療の目的での転送について了解を得た。画像転送システムなどのネットワークが確立していないこともあり,転送後にMRIを撮影し評価した上でrt-PAを投与する方針が決まった(ship and drip)。よりよい治療成績を得るため,あくまで発症3時間以内での投与をめざすことも確認した。

 プロトコール作成の経過

 その内容をもとに,当院にて神経内科医や総合内科医,救急医とで調整を重ねた。ERの看護師とも,患者説明の方法や着替えのことなど細部にわたり相談した。搬送に要する時間を考慮すると,「発症して3時間以内での投与」への適応条件は非常に厳しいものにならざるを得なかった。

 2014年2月に運用を開始したが,幸運にも4月に脳神経外科の専門医が常勤で1人増員された。施設基準を満たしたため自施設でrt-PA治療を行う方針に転換し,それに伴ってプロトコールも改変することとした。

効率よく診療を行うため細かく役割

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