医学界新聞

インタビュー

2014.10.13



【interview】

人の生活の数だけ,作業療法の形がある
齋藤 佑樹氏(学校法人こおりやま東都学園郡山健康科学専門学校作業療法学科専任教員)に聞く


 今や国内の作業療法士有資格者数は6万5935人(2014年5月1日現在)を数え,大きく発展してきたと言える日本の作業療法。現在,日本作業療法士協会では「生活行為向上マネジメント」を推進するなど,これまで以上にクライエントにとって意味のある・したい行為を支援するための提案を積極的に行っている。そうした中,最近では自己の専門性に悩む作業療法士も多いという。では,どうすれば作業療法のアイデンティティである“作業”に焦点を当てた実践を行えるようになるのか。クライエントの健康に寄与していくために求められる作業療法士としての姿勢を,『作業で語る事例報告――作業療法レジメの書きかた・考えかた』(医学書院)の編者である齋藤佑樹氏に聞いた。


――リハビリは身体機能回復の訓練をするイメージが一般的にあります。作業とはどのようなものでしょうか。

齋藤 作業療法における作業とは,ADLや仕事,趣味など,人が生活の中で意味を持って行う全ての活動を指しています。身体に障害を抱えながらもイキイキと生活している人がいる一方で,身体に問題がなくても,仕事や役割,楽しみを持てずに不満足な生活をしている人もいますよね。人の健康とは,単に病気や障害がない状態を指すのではなく,人が「したいこと」や「しなければならないこと」,「することを期待されていること」を満足にできる状態だと思います。

 したがって作業療法士は,障害だけではなく,人が日常生活の中で意味や価値を見いだしている作業に焦点を当て,その実現に向けて,身体面,心理面,環境面など,さまざまな角度から支援を行っていきます。

――生活にかかわるとなると,活躍の場は多岐にわたりそうですね。

齋藤 現在は病院に所属している作業療法士が圧倒的に多いです。ただ,僕らの支援の特性を考えると,クライエントが実際に生活している地域での活動が一番理想的な支援ができるはずなので,今後は地域で活躍する作業療法士がもっと増えるといいなと思います。実際に日本作業療法士協会も,地域で活躍する作業療法士を増やす取り組みを続けています。

――地域に出ていくために,どのような取り組みが必要と考えていますか。

齋藤 世間での作業療法の認知度はまだまだ低いのが現状です。今後は,僕らが地域で作業療法を行うことでクライエントにどんな効果があり,生活がどう変わっていくのかということを,もっと知ってもらう努力をしていかなければなりません。

クライエントへの説明が,目標に向けた協働への第一歩

――回復期リハビリ病棟に勤めていた当時,作業療法を行う上で気をつけていたことはありますか。

齋藤 僕はあえて病棟では評価を行わずに,まずはクライエントを作業療法室にお連れして,他のクライエントの様子を見学してもらっていました。ADL訓練をしている人,漬け物を漬けている人,編み物をしている人,俳句を書いている人,作業療法室には本当にさまざまな作業を行っているクライエントがいるんですよ。言葉だけで説明するよりも,実際に様子を見ていただくと「作業療法ってこんなことをしているのか」と納得してもらえるので,目標に向けて協働するための関係性構築がスムーズになります。

――もし説明を行わずに作業を始めた場合,何が問題になりますか。

齋藤 他のサービス業に置き換えてみると,わかりやすいかもしれません。作業療法では,どのようなサービスが受けられるか知らないお客さんと,お客さんが何を望んでいるかを把握していない販売者が出会っている状態と言えばいいでしょうか。これでは,お互いが同じ方向に進んでいくことは困難です。

――それは確かに難しいですね。

齋藤 もちろん時期や領域にもよりますが,初めに説明と面接を行わないと,悪いところをただ“点検”するだけになってしまい,今行っている練習の目的をクライエン...

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