研究は循環的プロセス(加藤憲司)
連載
2014.07.21
量的研究エッセンシャル
「量的な看護研究ってなんとなく好きになれない」,「必要だとわかっているけれど,どう勉強したらいいの?」という方のために,本連載では量的研究を学ぶためのエッセンス(本質・真髄)をわかりやすく解説します。
■第7回:研究は循環的プロセス
加藤 憲司(神戸市看護大学看護学部 准教授)
(3081号よりつづく)
本連載ではずっと,「研究には『問い』が重要」だと述べてきました。問いがあって初めて,研究を行う意味が生じるのです。そして自分で立てた問いに対し,あなたが「これが答えだ」と思う説明を提示して,それが実際のデータにどれくらい当てはまっているかを調べるのが,量的研究の目的です。したがってあなたが量的研究を行おうとしているのであれば,データを集めるのに先立って,あなたなりの説明や主張を持たなくてはなりません。実態調査などの記述的研究では,あらかじめ仮説を立てない場合がありますが,それはあくまで予備的な研究だと位置付けられます。
母集団とサンプル双方のループ構造
図を見てください(初めは,括弧内の語を無視してください)。左の大きな円は,あなたが本当に知りたい真実です。前回お話しした用語で言えば「母集団」に相当します。でも人間の能力には限界があるので,真実を直接知ることはできません。そこで,その一部分をデータとして取り出し,それを分析・吟味した上で,もとの母集団について何が言えるかを推論しようというわけです。ここで取り出されたものが「サンプル」に相当します。このように量的研究は,「母集団」から「サンプル」へ向かう右向きのプロセス(標本抽出またはサンプリング)と,逆に「サンプル」から「母集団」へ向かう左向きのプロセス(推論・推定)の双方から成り立っています。1つの量的研究は,この図のループ構造を一巡するプロセスだととらえることができるでしょう。
図 量的研究のループ構造 |
サンプルは母集団の代わりになるものですから,母集団の持つ特性をそのまま受け継いだ,忠実な縮小コピーのようなものであってほしいですね。サンプルが母集団の忠実な縮小コピーと見なせる場合,そのサンプルには「代表性がある」と言います(連載第2回,第3065号参照)。量的研究においては,代表性があるサンプルを抽出できているかどうかが,研究の成否を分けるほど重要です。もしサンプルに代表性がなく,母集団からかけ離れた特性を持っている場合,そのサンプルと母集団とのずれを「選択バイアス」と言います。そして選択バイアスのないサンプルから得られた分析結果は,母集団にもそのまま当てはまると考えられます。サンプルから得られた結果を母集団にどれくらい当てはめることが可能であるかの程度のことを,「一般化可能性」と呼びます。つまり,選択バイアスの小さいサンプルであればあるほど,そこから得られた結果の一般化可能性が高いということになります。
一つ例を挙げましょう。昔,人類が初めて月面探査をした際,宇宙飛行士が「月の石」なるものを持ち帰ってきました。そして月の石の組成などをあれこれ調べることによって,月についてのいろいろな知見が得られました。この場合,私たちは月の石をサンプルと見なし,それが月全体すなわち母集団の特性を忠実に反映していると信じたわけです。一方,どこかよその天体に住む宇宙人が,地球の探査にやって来た場面を想像してください。そして地球の一部分をサンプルとして持ち帰ったと考えてください。もしその宇宙人がたまたま海洋上に着水し,海水をサンプルとして持ち帰ったら,「この惑星はH2Oを主成分とする液体から構成されている」と判断するでしょう。また,もしたまたま森林に着陸し,木の切れ端をサンプルとして持ち帰ったら,「この惑星は炭素を主成分とする可燃性の固体から構成されている」と判断するかもしれません。どちらにせよ,地球という母集団から得られたサンプルとしては選択バイアスが大きいため,その分析結果の一般化可能性は高くありませんね。あなたが研究をする場合も,「自分はバケツ1杯の海水や1本の木の枝から,地球全体を知ろうと...
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