これが私の進む道!! 2014(柴田綾子,河村浩二,村松悠子,井藤英之,田宗秀隆,小林裕章)
寄稿
2014.07.07
【寄稿特集】これが私の進む道!! 20146人の先輩から後輩へ“贈る言葉” |
新年度を迎えて約3か月。医学生の皆さんは講義や実習に,初期研修医の皆さんは臨床研修に,と充実した日々を過ごされていることと思います。さまざまな診療科を見学したりローテートするなかで当初持っていた印象が変わり,診療科の選択に迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は,さまざまなフィールドで活躍する6人の先輩に,現在の“道”を選んだ理由や研修生活などについて聞いてみました。進路に悩む後輩への“贈る言葉”が,自分なりの医師像を見つけるきっかけになれば幸いです。
こんなことを聞いてみました
(1)経歴 (2)診療科の紹介 (3)ここが聞きたい! a.この科をめざしたわけ b.現在の研修生活は? (4)同じ道を志す後輩への“アドバイス” |
柴田 綾子 井藤 英之 | 河村 浩二 田宗 秀隆 | 村松 悠子 小林 裕章 |
◆産婦人科
医学の力ではコントロールできない「分娩」の魅力
柴田 綾子(淀川キリスト教病院 産婦人科後期研修医)
(1)名大情報文化学部卒。2006年群馬大医学部3年次に編入。沖縄県立中部病院産婦人科コースで初期研修後,13年より現職。
(2)産婦人科≒出産+手術+女性内科+腫瘍内科+終末期医療
産婦人科は出産に関することだけでなく,性感染症や癌検診,手術,悪性腫瘍の治療や終末期医療と取り扱うフィールドが幅広いです。学ぶことも,診察の基本である内診や経膣エコーから,出産管理,手術手技,感染症やヘルススクリーニング,内分泌,悪性腫瘍の化学療法や終末期治療など多様で非常に面白いです。
(3)a.キッカケは海外放浪→国際保健→母子保健
名大時代に世界遺産を中心に15か国ほど旅行したとき,国際保健・国際援助に憧れ,途上国で弱者となりやすい母子をサポートできる技術と知識を学びたいと考え,医学部へ編入しました。
医学部高学年になって初めて家庭医療学の存在を知り,「病気を治すだけではなく,その人の人生・背景まで考える」「子供からお年寄りまで幅広く診る」家庭医になりたいと考えるようになりました。医学部6年生のときには仲間と家庭医療ワークショップを企画し開催しました(週刊医学界新聞第2882号 2010年6月7日付)。その一方で,医学の力でコントロールできない「分娩」の魅力を知り,お産について専門的に学びたいと感じるようになりました。有名な家庭医の先生を訪ね進路について相談し,迷いに迷って,6年生のマッチングの時期に,お産と開腹の手術手技を学ぶために産婦人科専攻を決めました。
b.産婦人科×GIM,産婦人科×家庭医療学,産婦人科×医学教育の道をめざして
初期研修は,感染症と救急がしっかり学べる病院を探しました。産婦人科という専門科へ進むに当たり,初期研修で感染症や救急診療を学ばなければ,その後一生学ばない可能性があると考えたためです。専攻医になってみて,専門性が高くなったと同時に,総合的な視野は狭くなったと感じますが,初期研修時に学んだ救急診療やgeneralな知識は,今でも非常に役立っています。
当院は周産期に力を入れており,年間1300件の分娩を扱っています。現在は経膣分娩の管理,帝王切開術の執刀,外来での妊婦健診,産後検診を中心に診療しています。婦人科では子宮全摘術の執刀,悪性腫瘍の化学療法・放射線療法・終末期医療を行っています。
家庭医療,総合内科,医学教育に興味があり,休みの日は総合内科や家庭医療関連のセミナーへ参加したり,医学生・研修医向けの勉強会の企画を行っています。将来は,産婦人科と家庭医療・総合内科の連絡役になれたらと思っています。
(4)将来お母さん・お父さんになる(可能性のある)全ての研修医の皆さんへ!
産婦人科を専攻する気はなくても,初期研修ではぜひ産婦人科をローテーションしてほしいです。他の科と比較すると診察,エコー,専門用語が特有で最初は難しく感じるかもしれませんが,自分やパートナーが将来妊娠・出産する可能性を考えれば,必要になる知識と考えてぜひ少しでも学んでみてください。まだ自然経膣分娩を見たことがない人は,人間が生まれる瞬間を必ず一度は見てほしいです。
産婦人科に興味がある人は周産期,婦人科,不妊治療(内分泌),その他のどこへ進むかを考えて,あらかじめ病院ホームページで,年間分娩数,NICUの規模,婦人科手術件数,腹腔鏡手術の件数,腫瘍の取り扱い,不妊治療の有無について確認し,自分のイメージに合う研修先を決めるといいと思います。お産に携わりたい人は,最初は自然分娩の多い病院で正常分娩について学ぶことをお勧めします。
必要なのは「絶対的体力」というより,「on/offの切り替えをうまく行う」「どこでも寝られる」「趣味などでストレスをうまく発散する」「ここぞという時の瞬発力」であり,女性だからとか,体力に自身がないからという理由で躊躇せずに,ぜひ挑戦してみてください。
◆血液内科
患者さんに育てられた今日の自分
河村 浩二(自治医科大学附属さいたま医療センター 血液科シニアレジデント)
(1)2007年鳥取大卒。京都第二赤十字病院で初期研修の後,鳥取大血液腫瘍科勤務を経て,11年より現職。14年より自治医大大学院へ進学。
(2)血液内科は白血病や悪性リンパ腫などの悪性疾患から,貧血,血栓凝固異常まで,文字通り血液の異常に関する全ての疾患が対象となります。免疫学や分子生物学などの基礎医学の知識から,日進月歩の診断法や治療法に関する知識,そして実臨床では,全身管理の能力も必要となります。一見難しそうで,学生や研修医のころは避けたくなる科の一つかもしれません(私もそうでした)が,この分野は原因,診断,治療に関する新しい知見が次々生まれ,学問的にもダイナミックで面白いと思います。しかしながら,実際に全国的に(特に地方で)血液内科医は減ってきています。
(3)a.正直に言うと,まずは消去法でした。私はゆとり世代ではないのですが,山口県の片田舎でのんびりと育ったせいか,元来,積極性や競争心はなく,学問に対する探究心もありませんでした。したがって,外科系や手技の多い科,がつがつしていそうな科は選択肢から外れ,患者さんとじっくりかかわれそうで,新薬も出てきて面白そうという程度の理由で血液内科を選びました(その当時は不勉強で詳しい知識はほとんどありませんでした)。
b.実際に血液内科の患者さんを目の前にしたとき,受け身で,不勉強なこれまでの自分からの脱却を余儀なくされました。何も悪いことをしていないのに,不幸にして白血病やリンパ腫になり,つらい治療をしたあげくに亡くなるという例は少なくありません。他に何かいい治療法はなかったのか,本当に最善を尽くしたのか,常に反省の毎日で,気付けば必然的に勉強するようになっていました。
難治性血液疾患に対して行う造血幹細胞移植を学ぶために,11年より自治医大さいたま医療センター血液科で研修しています。今日,Evidence-based Medicine(EBM)を活かした診療が一般的になってきていますが,それでも日常臨床では数多くの疑問点が生じます。当科では,それらの疑問点を解決する手段として,臨床研究にも重点を置いており,シニアレジデントも全員何らかのテーマが与えられています。臨床研究の魅力は,実際に臨床の現場ですぐに活かすことができる点にあります。そして,臨床研究だけでは解決できない問題について,より深く探究したいという思いが強くなり,この4月から大学院へ進学しました。探究心のなかった初期研修までの自分からは想像もできませんし,まさに今日の自分は多くの患者さんに育ててもらったようなものです。
(4)当たり前のことですが,患者さん一人ひとりを丁寧に診ることです。疾患に関する知識だけでなく,患者さんの訴えに真摯に向き合ってほしいと思います。それが最良のモチベーションになるはずです。
◆医系技官
大きな観点から人々の健康や生命を守る
村松 悠子(環境省環境保健部企画課 特殊疾病対策室)
(1)2010年横市大卒。北海道倶知安厚生病院での臨床研修を経て,12年厚労省入省。14年より現職。
(2)厚労省の医系技官は,人々の健康を守るために,専門性を活かして保健医療にかかわる制度作りをしています。現場視察や関係者へのヒアリング,政策の立案から実施,チェックにいたるまで,制度作りの全てにかかわっています。現在,私は環境省に出向しており,水俣病についての制度作りや行政訴訟の中で,医療に関係する仕事をしています。具体的には,論文を検索したり有識者から聞き取りをしながら,専門的な知見を行政や司法の関係者にわかりやすく伝えるための資料の作成などをしています。
(3)a.在学中に公衆衛生の授業やフィールドワークを通じて,医師として行政に携わる医系技官という仕事に興味を持ちました。もともと産婦人科医になることが医師を志したきっかけだったのでとても迷いましたが,臨床研修の中で,行政の医療へのかかわり(例えば,診療報酬であったり,介護保険であったり,救急医療であったり)が,日常診療の内容にも大き...
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