スペシャリストの「無知の体系」(岩田健太郎)
連載
2014.06.16
The Genecialist Manifesto
ジェネシャリスト宣言
「ジェネラリストか,スペシャリストか」。二元論を乗り越え,“ジェネシャリスト”という新概念を提唱する。
【第12回】
スペシャリストの「無知の体系」
岩田 健太郎(神戸大学大学院教授・感染症治療学/神戸大学医学部附属病院感染症内科)
(前回からつづく)
前回はジェネラリストの「無知の体系」の話をした。今回はスペシャリストの「無知の体系」の話である。
当然,スペシャリストにも「無知の体系」はある。というか,スペシャリストの「無知の体系」はかなり深刻だ。たいていのジェネラリストは自分の「知の体系」が不十分であることに自覚的だ。「世の中には自分の知らない『知の体系』がある」という自覚を持ちながら診療するジェネラリストがほとんどである。ていうか,そうあるべきなのだ。
でも,スペシャリストには鼻持ちならない人も多く,自分の「知の体系」の小ささに自覚的でないことも多い。自分の「無知の体系」に無関心なのだ。自分は十分な知識と技術と経験があるのだから,もうわかってますよ,という態度である。
*
しかし,スペシャリストの「知の体系」はあまりにも狭い。例えば,医学全体の知識体系の総量を考えると,ほとんどのスペシャリストの「知の体系」は細い一本の糸のようなものである。そして,自分の「知の体系」の外にある世界については全く無知で,(多くの場合)全く無関心である。
呼吸器内科医に,「咳」とか「息切れ」の原因を聞くと,大抵の呼吸器内科医は呼吸器疾患にしか言及しない。心不全とか,パニック発作に言及できる呼吸器内科のスペシャリストは素晴らしいと思うが,残念ながらそういう呼吸器内科スペシャリストは少数派に属する。
循環器内科専門医に同じ設問をしても同様だ。彼らはたいてい,心臓の病気ばかりを鑑別に挙げ,血液検査や心電図や心エコーをした後,「うちの病気ではないですね」と匙を投げてしまうのだ。「うちの病気ではないですね,さよなら」というのは,(スペシャリストの)コンサルタントとして最低の所業だとぼくは思っている。
*
スペシャリストには「のりしろ」が必要である。自分の専門分野の外にある世界に妥当なまなざしを与えるような,追加の「のりしろ」である。例えば,感染症内科の外来に来る患者の3割くらいは感染症を持っていない。彼らは,膠原病(自己免疫疾患)を持っていたり,悪性疾患を持っていたり,あるいは精神科疾患の持ち主である(心身症としての「発熱」患者はとても多い)。
でも,そういう患者を「これはうちの科ではありませんね」と言って帰してしまうのはスペシャリ...
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