医学界新聞

寄稿

2014.06.16

【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
2型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬の使い分け

【今回の回答者】長坂 昌一郎(自治医科大学 内分泌代謝学部門 准教授)


 本年4月にSGLT-2阻害薬が発売され,経口糖尿病治療薬は7種類となりました。ファーストラインとして用いる,治療の軸となる薬剤をどう考えるかについては,専門医の間でも意見の相違があります。このような点については十分なエビデンスがないのが現状ですが,本稿では筆者の考えを解説します。


■FAQ1

DPP-4阻害薬は,低血糖リスクが低く,また目立った副作用もないため,使用しやすいです。全ての患者さんに第一選択となるでしょうか?

◎「血糖コントロールが不十分⇒即DPP-4阻害薬開始」は,安易と考えます。

 DPP-4阻害薬は,血糖依存性のインスリン分泌刺激,グルカゴン分泌抑制により血糖降下作用を発揮する薬剤です。膵炎や膵腫瘍に対するリスクが指摘されたこともありましたが,現時点でほぼ否定的と考えられています。当初,高用量のスルホニル尿素薬(以下,SU薬)との併用による重症低血糖も報告されましたが,SU薬の減量によりほぼ回避できることもわかりました。単独での低血糖も非常にまれです。発売からわずか5年で,わが国で最も多く処方されている経口糖尿病治療薬となりました。

 ただし,その処方例を見ると,軽症例などにも安易に処方されている感もあります。DPP-4阻害薬は,長期の安全性,コスト,効果の弱さなどの理由から,全ての患者さんの第一選択とする根拠には乏しいと考えます1)。インクレチン作用の増強による膵β細胞の保護も期待されていますが,ヒトにおけるエビデンスはありません。長期の安全性,コスト,効果の強さは,ビグアナイド薬のメトホルミン,少量のSU薬ないし速効型インスリン分泌促進薬に劣ると考えます。

 特にメトホルミンは,従来「肥満患者」への有用性が強調されてきましたが,非肥満患者への初期治療の有用性も示されています2)。「肥満⇒メトホルミン,非肥満⇒DPP-4阻害薬」の使い分けも,安易な感は否めません。高齢者や腎障害を除いて,メトホルミンによる初期治療も大いに推奨されると考えます1)。一方,初めて薬物治療を開始する高齢者や腎障害のある患者では,メトホルミンは使いにくく,DPP-4阻害薬がファーストラインとして推奨されます。

 筆者の考えでは,DPP-4阻害薬は,従来のSU薬+メトホルミンなどの経口薬治療や,インスリン治療で効果が不十分な症例のときに従来治療とのコンビネーションで使用することで,最も威力を発揮する薬剤であると考えます。

Answer…DPP-4阻害薬は,単独でのファーストライン薬物として用いるよりも,従来治療とのコンビネーションで用いるのが妥当と考えます。もちろんDPP-4阻害薬を最初に用いて,効果が不十分な場合に,他剤を追加する治療を否定するわけではありません。

■FAQ2

新薬の登場により,SU薬や速効型インスリン分泌促進薬は,もはや必要性の低い薬剤になってきているのでしょうか?

◎現時点では,コンビネーション治療の選択肢として,必要不可欠と考えます。

 インスリン分泌促進薬としての第一選択に,低血糖の少なさなどからDPP-4阻害薬を用いることは妥当と思います。ただしSU薬や速効型インスリン分泌促進薬でコントロール良好な患者で,それらをDPP-4阻害薬に切り替えると,しばしば血糖コントロールの悪化を経験します。SU受容体を介するインスリン分泌刺激と,インクレチンによるインスリン分泌刺激は,明らかに異なると言えます。

 またインスリン分泌刺激薬としてDPP-4阻害薬を開始した症例でも,効果が不十分な場合に,SU薬や速効型インスリン分泌促......

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